第2話 7人の白骨遺体 第3章
信子ら4人の取材班はS市C町の自動車専用道路に設けられたE駐車場に集合した。
時間は2日前に山芋採りの男性が白骨遺体を見つけた時間に合わせて
朝の7時半スタートとした。
D交通タクシーの高田運転手を先頭に4人は
7人の白骨遺体発見現場目指して斜面を降りて行った。
信子は先日の女性変死事案の際に、心に異変が起きたことを思い出しながら、心がきょうも異常な行動を起こさないか見守りながら歩いて行った。
50メートルぐらい行ったところで、心が苦しそうな表情を見せたので、信子は思わず声をかけた。
「心さん、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です。信子さん、覚悟はしていたんだけど、この現場は大変です。たくさんの人の声が聞こえます」
「心さん、きついようだったら中止するよ」
すると心は
「もっともっと苦しくなるかもしれませんが、せっかくここまできたんですから、ぎりぎりまで頑張ってみます。私に現れるこの現象は亡くなった人たちが感じた苦しみや哀しみを知ってほしというメッセージだと思うんです。ですから、その叫びに応えなければならない、それは僕の義務だと思うんです」
「分かったよ心さん。じゃあ、ぎりぎりまで頑張って!・・・でも本当にやばくなったら私の判断で止めさせてもらうからね。いいね」
「はい、分かりました。そこはお任せします」
そう言って心は7人の白骨遺体が発見された場所へと神経を集中させた。
タクシー運転手の高田の先導のおかげで途中迷うこともなく現場に到着した。
「ここが7人の白骨遺体が見つかった場所です」
信子が言うと、心は不思議そうな顔をして周りを見回した。
「信子さん、本当にここですか?」
「ええ、ここですよ。ねえ、高田さん、ここですよね」
「はい、おととい来たのはこの場所でした」
運転手の高田はそう答えた。
すると心は
「微かに声は聞こえるんですが、ここじゃなくて、もっと下の方から聞こえるようなんです」
そう言って、心は斜面の下の方を指さした。
「えっ、場所が違うのかな」
信子がそう言って高田の方を見ると
高田がちょっと困ったような顔をして
「小田さん、他の新聞の写真を見ると場所が違うかもと私も思っていたんです。よく似ているんですが・・・」
心が指さした方向に20メートルほど斜面を下ると、そこには同じように7つの穴を掘った跡があり、誰が置いたのか花束が3つほど供えてあった。
「しまった。場所が違う」
信子にとって初めての誤報だ。
おとといは、この場所が正しいか信子も不安だっので支局に帰る前に警察署に寄って、現地に行った警察官にインスタントカメラで現地を撮った写真を見せ、確認してもらった。確かに現地には山芋を掘った跡がたくさんあり、似た場所で警察官が間違ったのも仕方がないが、間違いは間違いだ。
信子が頭を抱えているとき、心は大変な状態になっていた。
「ああ、小さな子どもが泣いている。母親らしい女性も泣いている」
心にはその状況が見えるのだろう、涙ぐみながら自分が見ている映像を説明している。
「こちらにも子どもたちがいる。・・・小さな男の子と女の子が横になっている。その横にはお母さんなのか、女性も横たわっている・・・ああ、もう死んでいるようだ」
信子ら3人には何も見えないが、心の目の前には地獄絵図が展開されているのだ。
「ああ、やめてくれ。なんでこんなことをするんだ。子どもは助けてください。・・・・子どもたちは何も分からないんだ。・・・・・」
心の母親が耐え切れずに叫んだ。
「心! 心! もうやめて!もういいよ、やめて!」
すると心の声が突然変わった。幼い子どもの声だ。
「おかあちゃん、どうしたの・・・・・おかあちゃん、怖いよ」
そう言って心は幼い子どものように泣き始めた。
(つづく)