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何時でも私は他の誰か

やはり煌びやかな娼館は、この街でよく目立つ、貴族御用達ともなれば尚更だ。

「嫌味な佇まいだぜ」

「ギーシェ後から消えて着いてこい」


木製の両扉をあけると、

店番のお手本のような笑顔が出迎える。

「ウィンドミルへようこそ」

「お客様、初来店でいらっしゃいますか?」

「そうだな」

「ではお好みを仰って頂ければ、こちらでご用意しますが」

「今日は購入で来た」

「かしこまりました。ご予算は如何程で?」

「金貨25枚程で12人ほど考えている、他も回るがね」

店番が少し驚き慌てながら言う。

「しょ、少々お待ちくださいませ」

「ああ」




勢いよく扉が開く。

「レガートさん!」

「君がノックを忘れるとは珍しい。

死んだ狂皇が自分の落とし子でも

買いにきたのかね?」

「商談ですよ!やんごとなき身分のようですし、最上級を12人、デカい仕事ですよこれは」

(一人金貨2枚ほどか、相場より少し高い、

初来店で購入、素人か、どっかの邪教か)

「あいわかった、すぐ行こう」



奥から店主らしき男が店番を伴ってやってきた。娼館のヤツらは笑顔が上手い。

「お待たせ致しました。ここでは何ですから」

そう言って客間へと案内される。

「店主のレガートです。よろしく」

そう言って差し出される手に握手で返す。

「マイケル、只のマイケルだ」

「どうぞお掛けになって」

ソファの座り心地は悪くない、家具の装飾も凝っているのがわかる。見栄と商売相手を考えても豪華な部屋。羽振りの良い事だ。

「店主繁盛しているようだな」

「ええ、お陰様で、

1年前に入荷したアメリアが来てからは、特に」

「ほう、良い具合なのか」

興味を持ったように言う。

「そういう訳じゃあないんですが、元ストリートチルドレンとは思えない純粋さ、あの子の心がそうさせるのでしょう」

イチゴの成金が吹かすじゃないか。しかし、

そんな奴がここで生き抜けるとは思えんな、

少し気になる。

「味見は別料金かね店主」

「ええ、こちらが料金表です」

「それと入荷仕立ての娘も見たいのだが」

「申し訳ない、最近はめっきり子供が減りましたから」

「あの悪法が前王政と滅んでから3年だがそんなに減るものか?」

「身寄りのない子供は腐るほど増えましたがね、それ以上に

死ぬ理由がこの世には溢れていますよ」

「それもそうだ、入荷も難しくなってくるだろう」

「そうなりゃ店畳みますよ、引き際は弁えてるつもりです」

「商売上手だな」

「おだてたって何も出ませんよ。案内しましょう」

「例の子からでいいかな」

「ええ、」

2階ほど階段を上った先の右2つめの扉で店主が足を止める。

「ここです」

ノックをする。

「アリーお客様だ。通すよ」

「ええ、どうぞ」

金色で長髪、10つほどの少女は編み物の最中のようだ。

店主が歩いて行き少女の手を取る。

「今日の御相手は一人なのね。レガートさん」


「そうだよアリー、マイケルさんこの子は盲でね。少し気をつけてやってください」


「生まれつきか?」

「ここに来てからある日突然ですよ」

「味見どうされますか?」

「頂こう30分だ」

「かしこまりました。ごゆるりと」

店主が退出する。

「アメリアと申します。私、上手くはないんです。精一杯やらせてもらいますね。」

「その前に質問を良いかね」

「ええ、なんなりと」

「何故相手が1人だと?」

「音です、足音。旦那様、

私、耳が良いんですよ」

「なるほど」

つまり足音が"2人分"だと聞こえた訳だ。

机の果物を落とす。

「すまない落としてしまった。探して拾って貰えるかね?」

「え?ええ少し待ってください」

床を触りながら果物に近づいてゆく。

「どうぞ旦那様」

「ありがとうアメリア、しかし盲目でも床のささくれは避けるのだね。それも音で、わかったのかね?」

驚いたまま固まるアメリア。

「とんだ大根役者だな。俺の前で、そんな演技は不要だ」

開き直ったように喋り出す。

「あら、おじ様悪い人だわ女の秘密を暴くだなんて、それに不思議、年端も行かない女の子を抱きに来て、処女性も純真さも無垢も求めてないみたい、もしかして…付いてないの?」

「宦官に見えるか?どうして盲を演じた」

「求められたからよ」

「求められた?」

「そうよ、おじ様。皆、子供に欲情している自分を見られたくないの。行為の相手にすらね。それに、そんな汚い物を見せられた時に嫌な顔1つしない役なんて、私知らないわ。だから、見ないことにしたのよ」

自分が求められているものを、理解しそれを演じる技量、磨けば光るか。

「君を買おう」

「意味わかんないわ。おじ様、どういう趣味してるのよ。それに、今の暮らしも悪くないのよ。お金だって稼ぐし、結構気に入られてる。多少金銭積んだって、私のこと手放さないんじゃないかしら。」

「そうしたのは君だろう」

「そんな、人聞きの悪い。求められた役をこなしただけよ」

「だが、そんな役には満足していない」

「だって私、大根役者だもの、仕事なんて選んでられないわ」

拗ねたように言う。

「俺なら、もっと良い役を用意できる」

「例えば?」

「どんな役でも、考えうる限り全て」

期待に満ちた顔が、一気に怪訝な顔に変わる。

「私、ずっとお姫様が演ってみたかったの。そんな舞台ご用意できる?」

「勿論」

「...おじ様の嘘、わかんないから本当のこと言って欲しいわ」

「信じないか?」

「いくら私が魅力的な女の子でも、上手い話しで釣ろうだなんて、あんまり舐めないでよ。私がレガートさんに『あの人だけは嫌!』なんて泣きつけば、商談なんてしないわ」

声に怒気が入った。

「あまりやりたくなかったが、()()を見せよう」

「?」

腰に下げた剣の柄を握ると布で巻かれた剣身から、鋭い針が先についた触腕が伸びて手首に刺さる。

筋肉が捏ねられたような痛みと、骨がずれるような感覚が全身を襲う。こればかりは何度やっても慣れない。好色だが人のよさそうな貴族マイケルから、店主のレガート、店番に全身を変化させ最後にマイケルに戻す。さて、反応は如何に。

「すごい...すごいわおじ様、もう一回」

初めて年相応の顔を見た。ドブ川のような眼が今は澄んだ湖の水面に映る星空のようだ。そんな眼に射抜かれた。

「断る」

「ケチ」

「断る」

「ケチケチケチ」

「断る」

「はぁ、でも考えうる限り全て、が大言壮語じゃないってことはわかったわ」

「そうか」

「だけど、普通の舞台じゃないのね。その観客も」

中々に鋭い。

「そうだな、舞台は世界で、観客は全ての人々、しくじれば舞台(セカイ)から降ろされる」

「素敵!素敵だわ!そこへ連れてって」

「嫌と言っても連れていくつもりだった」

「ありがとうおじ様!あぁ、生まれて初めて神様に感謝してる」

部屋を出ようとドアノブに手をかける

「まだ、時間あるけどしないの?おじ様だったらいいわよ」

「味見は終わった。次は商談だ」

「やっぱりついてないんじゃないの?」



「1人に金貨8枚も使うのかよ。計算も出来なくなっちまったみてぇだな残り11人はどうするんだ。格安の病気持ちで、すぐ死んでも困るんだからな」


「問題ない5枚は俺が出すからな」

「はァ?意味わかんねー」

「彼女、良い役者になる」

「そういや、オマエを理解出来たことの方が少なかったな。諦めるよ」

「次へ行くぞ」

「今日はそれで終わりにしてくれよォ」

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