私だけが居ない家へ
拝啓
パパと2人目のママに、かわいいケニーへ
ここで暮らし始め2年は経ったでしょか。
持たせてくれた銅貨12枚は、3日で使い切ってしまい、雇って頂ける所も見つかりませんでした。
残飯を巡って争った後、血尿がしばらく止まりませんでしたし、お腹がずっと痛んでいます。
ここでの生きる術を教えてくれたチャックには最近会っていませんし、いつも隣に座っているベスは動かなくなり、変な匂いがします。
そんな折イチゴ狩りにあったのは不運ですが、幸運だったのかもしれません。職には付けますから。
私、貴族の方に人気なようで今では良い暮らしをしてます。よく指名して頂く貴族様の香水ネメシアの香りで、故郷を、あなた達を思い出します。
それで...、それで思うの
私のかわいいケニー
ちゃんと殺しておけば良かったって
アメリアより
建国から僅か3年、大陸で2番目の領土を持つガウンランド王国。東に位置する王都の城下町から少し離れた屋敷、城には届かない迄も、高い立地に聳えるハリス侯のものだ。
宰相である彼が住まうには王都への利便性という点において最悪と言わざるをえない。
そんな屋敷の一室、少し巻いた髭が似合わない美丈夫、ハリス侯その人と小太りで、如何にも神経質そうな顔をした付き人のサムは大事な買い物の話をしていた。
「そうですねぇ。12人、10つくらいで、元気な子を」
「健康体ですと値が張るかと」
「相場は知りませんが金貨30枚も有れば事足りるでしょう」
「承知しました。しかし奥様には何と?」
「アレに説明は必要ありません。私が趣味に金を使う人間でないのはよく知っている。却って言い訳くさくなるでしょう」
「それもそうですね。では行って参ります」軽く会釈をし、退出するサム。
「やはりここは良い眺めだ煙突の煙がよく見える」
屋敷の廊下を体型に似合わずスタスタと歩くサム。
「ギーシェ、服屋によってから行くぞ」
「ァ?なんでだよダジェニ…じゃねぇや今はサムだったな」
「今は2人だどっちでも良い。オマエ、どうせ上も着てないのだろう」
「テメェこそ、そんな成金な格好じゃあ目立つし彼処じゃ良いカモに見えるぜ」
「みすぼらしい見た目は、商売じゃあ足元を見られる。金を持っているように見えれば少しは色を付けるものだ」
廊下で忙しない足音がだんだんと近づいてくる
「サムさん!こんにちは!」
「アン、廊下を走るなと前にも言っただろう」
「す、すみませんサムさん」
花のような笑顔が萎んでいくようだ。
「まあいい、庭園の手入れは様になってきた
これからも励むように」
面白いように表情が変わる。
「ありがとうございます!そういえば、サムさん誰かと話してませんでしたか?」
「見ての通り私一人だが」
『素直な連れ子、良いお姉ちゃん、1等哀れな孤児、純粋無垢な情婦。神様、次はもっといい役を頂けませんか。きっと輝いて見せます。この舞台の誰よりも』