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第49話 落とし所

「わしが思いますに、この戦争の落とし所は痛み分け、でしょうな」


「ほうほう」


「落とし所ってなんだ!」


 カイナギオが突然頭の良さそうなことを言いだしたので、俺とエリカは並んで首を傾げた。

 俺たちは前進して前にあるものを粉砕するだけの存在なのだ。

 難しいことを言われてもなー。


「師匠もバーサーカー殿も分からんという顔ですな。いいですか、これはわしが七十年生きてきた経験から来た話ですが」


 七十歳だったか。

 モンスター化してから、年を取るのがゆっくりにはなってるのだそうだ。

 孫に子どもが生まれるそうで、ひ孫やそのまた子どもにも付き合えるかも、とか言っていた。


 結婚していたのか……!!


「殲滅戦というのは、この規模だと現実的ではないでしょうな。この五十年、ランチャー地方から、ここカタクリーコ地方では大規模な戦は起こっておりません。というのも、この地域が三つの国々と国境を接し、さらには国の背後には海しか無いからですな。この地域を取るためには他の二国を相手取らなければなりません」


 カイナギオが地面に棒で絵を書き始めた。

 地図だ。


「ほうほう、なんでござるか、なんでござるか」


 ホムラまでやって来た。


「この国境が接するところに、ゴブリン王国が出現しておるのはご存知の通り。それももう長いこと続いている国で、ゴブリンたちはここで生活し、子を生み、増えております。文字通り国になっておりますな」


「たくさんいるんだろうな。俺はこの間、ゴブリン砦一つをまるごと滅ぼしたが」


「なんと! いや、師匠であればただ一人で国を滅ぼせるでしょう。あなたが何をやれてもわしは驚きますが、まあやれるだろうな、と思いますからな」


 謎の信頼。

 途中からアベルもじーっとこの話を聞いている。

 こいつは全く口を挟んでこない。


「それで、ですな。これだけ大規模な国家同士の衝突で、殲滅戦となるとまあ難しいのです。ゴブリン王国の本土決戦がどれだけの被害が出ることか……。ゴブリン王国の民の数がどれほどと計算されているかご存知ですかな?」


「知らんなあ」


「分からないなあ!」


「皆目見当がつかぬでござる」


「およそ二千万と言われておりますな」


「「「アヒャー」」」


 俺たち三人はびっくりした。

 聞いたこともないような数が飛び出してきた。


「さらに戦争を五年、十年と続ければ増えますな。しかし、ゴブリン王国もこの国土で養える数には限界がある。だからこそ血気盛んなゴブリンを外に放ち、人口調整をしているのですな」


「迷惑な話にござるなあ」


 ホムラが顔をしかめた。


「それはわしらとて同じなのだぞ」


 カイナギオが、ホムラの発言を聞いて笑った。

 若いな、とか思ってるんだろう。


「というと?」


「農村で人が増えすぎれば、口減らしのために外へ出すであろう。わしが隣村と戦を始めたのも、土地を持てぬ若者たちを導くためだった。いつしかモンスターの本能に支配されて、戦うことが目的になっておったが」


「ははあ、そうなのでござるなあ……。人もゴブリンも変わらぬでござるか……。なかなかショッキングな話題でござるな」


「モンスターとなってみて初めて分かるものもあるのだ」


「カイナギオ、難しいことを考えてるんだな」


「いやいや! これは年の功ですぞ師匠! わしなどまだまだ師匠の足元にも及びませぬ……。師匠はこう、文字通り時の枠を超えた遠くを見据えているというか……」


「褒めても何も出ないぞ!」


 わっはっは、と笑う俺。

 カイナギオも、わっはっは、と笑った。


「なんでこいつらはこんなに仲良くなってるんだ」


 アベルが不思議そうに呟くのだった。


「それでカイナギオ! 落とし所はどうなるんだ!」


「ああ、そうでしたそうでした。バーサーカー殿。戦は滅ぼしあえば確かに終わりますな。しかし、そのために勝者が、回復困難なほどの損傷を受けてしまえばどうなると思いますかな?」


「むむっ、それはどういうことだろう?」


「兵士が、騎士が死にすぎるということですぞ。男が減れば、田畑を耕すものも足りなくなり、町や村を守るものも、野山で獣やモンスターを狩るものもなくなります。これでは戦に勝利したとて、失うものが大きすぎましょう。子が育ってその役割を担うまでは、十年はかかりますしな」


「なるほど……それは困ったな……!」


「各国もまた、そこまでは望んでおりませんな。ここは分かりやすく、終戦の形を作る必要があるでしょう。あるいは、ゴブリンの王が殲滅戦を望んでいるなら代替わりさせる必要があるでしょう」


 分かりやすい話になって来た。


「つまり、今回の大攻勢、ゴブリンキングがめちゃくちゃやる気だってことか」


「はい。復讐の王と呼ばれるゴブリンが王位につき、ゴブリン王国の敵対的な姿勢が増したようですな。わしはこう見えても、ランチャー地方の義勇兵を束ねておりますから三国との会議に参加して実情に詳しいのです。今度一緒に行きましょうぞ師匠」


「いいぞ」


 そういうことになった。

 エリカも行きたがったので、変なことは喋らないと約束してもらって、参加オーケーとした。


「わしが見るところ、おそらく今のゴブリンの王は……わしらが五十年前に参加した砦攻略の争いで、敵対していたゴブリンなのでしょう。人を憎んでおり、復讐の思いだけで王位に至ったのです」


「そう言えば、こっちをにらみながら逃げたのがいたな。あれを退位というか仕留めないといけないわけな?」


「ただ殺してしまえば、ゴブリン王国全体が復讐を誓うでしょう。これは難しい問題になっていますぞ……!」


「ほんとに難しくなってるな。それにこれ……ゴブリン側ともこっそり交渉して、今の王を追い落としたい平和主義なやつと手を結ばないといけないのではないか」


「おお!! そうです、それですな! さすがは師匠……! 先の先を見据えていらっしゃる……!!」


 カイナギオ、めっちゃ褒めてくれるじゃん。

 だが、これで方向性は定まった。

 今回の冒険は、前に進んで粉砕するだけではいけないのだ。

情報整理のためのオハナシ回ですぞ!


気に入っていただけましたら、下にある星をツツツーッと増やしますと作者が喜びます。

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[一言] うまくすれば、平和理に終わる?
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