第36話 学者、ゆうのう
「私たちはこういう迷宮とかが苦手なんだ! 罠があったら踏み潰すしかできないからな」
エリカの正直な告白に、トニーが青くなった。
「お、オレここで死ぬの嫌だよ」
正直でよろしい。
だが、学者なレーナは自信満々。
薄い胸をぺちーんと叩いてみせた。
「僕にお任せだわよー! そういうのは学者が得意です! なんか、僕だけ魔法が使えないぶん、こういうところばっかり器用になったのよね!」
彼女が率先して歩き出す。
そしてあちこちを、「チェックチェーック!」と叫んで指差した。
すると、本当にそこに罠がある。
「僕の見破る力は、隠されたものも全部明らかにするの。解除はできないから壊してね!」
「任せろー」バリバリー!
エリカが罠を物理的に壊す。
アベルもため息をつきながら、罠を槍で引っ掛けて発動、そのまま破壊した。
俺はと言うと、その辺りで拾った石ころをミサイルにしてぶっ放したり、バルーンシードショットで広範囲を破壊したり。
「うわーっ、一人だけ異常な動きをしてる人がいるわ! 君ってなに!? 青魔道士? それってなに!? 聞いたこともないんだけど!」
「俺の時代では青魔道士を知ってる人はほぼいなかったと思ったが、過去の時代でも知られてないのか」
「お祖父様曰く、青魔道士はたったひとりしかいないそうだぞ! でもドルマと過去の青魔道士の二人が……」
エリカはそこまで言ってから、ハッとした。
「つまり、過去の青魔道士もドルマだったってこと……!?」
「そうなるな。今明かされる歴史の真実」
「待って待って! みんなもしかして、未来から来たって言うの!? 僕興味あるわ!!」
レーナが目をキラキラさせて、俺にグイグイ近づいてきた。
その間にエリカがぎゅーっと挟まって、レーナを転がす。
「ウグワー」
「インタビューは適切な距離を保って!」
「おう。俺もちょっとドキドキしてしまった」
するとエリカが、俺の肩をゴンゴン小突く。
痛い痛い。
「な、何を言ってるんだこいつら」
トニーは大混乱だな。
ちなみに彼だけは、特殊な力の無いガチの騎士見習いなので見学だ。
罠に巻き込まれたら唯一死にそうだし。
トニーがもしも、エリカの祖父だった場合。
彼が死んだらエリカが生まれてこないことになってしまうのではないか。
危険なことはさせられんな。お客様だ、お客様。
だがそんな気分を察したのか、反骨精神もりもりのトニーは突撃してしまった。
「うおー! オレも罠を壊すぞ!」
「あっ、バカ」
「ウグワー!」
罠が爆発して、トニーが血だらけになってゴロゴロ転がった。
言わんこっちゃない。
しかも猛烈に打たれ弱いぞ。
今くらいの爆発、エリカならウグワーと転がったあと、無傷で起き上がって同じことをする。
一度や二度の爆発でダメージなど受けていたら、冒険者は務まらないのだ。
「それ、癒やしの本よー! だけど一日一回しか使えないんだなこれが」
レーナが本を開いて、そこから白い光を降り注がせている。
光を浴びたトニーの傷が、まあまあ癒えた。
完治しない辺り、あの癒やしの本はあまり信用できないな。
ちなみに、迷宮は罠が多いせいか、モンスターの襲撃が少なかった。
時折出会うのだが、罠に触れないようにソロリソロリと地上に向けて移動しているモンスターばかり。
これは、アベルが即座に叩き潰した。
迷宮の竜騎士なんか、ジャンプしても天井に当たるから、パワー半減だろうと俺は思っていたのだが。
「はっ!」
アベルはジャンプとともに天井に達し、天井を蹴る。
そのまますごい速度で壁面に着地し、そこを蹴る。
迷宮の通路を縦横無尽に飛び回るような状態になるわけだ。
で、四方八方からモンスターを攻撃する。
一瞬でモンスターは片付いた。
さらに、罠が発動してもアベルの速度についていけていない。
竜騎士がショートジャンプで離れたあとに、罠が動き出すのである。
つまりこの男、罠があろうが無かろうが、問題なく移動できるということになる。
俺たちに合わせてくれてるんだなあ。
案外人付き合いのいいやつだ。
罠が発動するよりも早く無効化するアベル。
遠距離から罠を粉砕する俺。
罠が発動してもダメージを受けないので、罠にハマりながら破壊するエリカ。
レーナのチェックを使いながら、的確に全ての罠を壊していく俺たちなのだった。
「す……すげえ……。というかエリカ、なんで罠にハマってるのに平気なんだ」
「私もちょっと前までは普通に怪我をしてた気がするんだが、最近頑丈になってきたんだ!」
ほんとにな。
伝説の職業が集まるに連れて、エリカの真の才能が目覚め始めているのではないか。
バーサーカーとしての才能だが。
騎士を目指す彼女には、絶対に言えないな!
「この迷宮、思っていたよりもずいぶん楽だな」
「俺とエリカだけだったら苦戦してただろうな。だが、今回は仲間が2.1人多いんだ」
「お、オレは0.1人扱いかよ!」
「トニーは本来、それよりもずっと少ないくらいだがオマケして1/10人前と数えてやったのだ。精進しろよ」
俺は微笑みながらトニーの肩を叩いた。
「く、くっそー!!」
悔しがるトニーだが、一人だけ常人なのだから仕方ない。
俺から見てもハッキリ言えるが、この男、英雄になっていく才能は無い……!
こうして俺たちは、迷宮最下層へと向かっていく。
トニーを護衛しながら、みたいな不思議な形だ。
ここまでの道行は大丈夫だが、さて、この先はどうなることか。
どろ魔人戦、トニーが万一死んだら歴史が変わるぞ。
がんばれ、0.1人前のトニー!
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