第31話 抗争の原因は、人ならざるモノ?
エリカの実家で、完全にエリカの婿として認識された俺。
子供たちにゴブリンパンチを教えたりしつつ(当然誰もできない)、まったりと過ごした。
「おいドルマ! なんで訂正しないんだ!」
「これは何を言っても無駄なやつだ。俺にはなんか分かる。だから、ほどほどで流しておいてまた旅立てばいいんじゃないか」
「あっ、そうかー!」
エリカが納得した。
すると、エリカのませた姪っ子たちが集まってきて、「エリカおばさん、いつけっこんするの!」「あかちゃんうまれる?」とか聞いてくるのであった。
エリカが耳を真っ赤にして、「ちがうぞー!」と吠えている。
平和な光景である。
そんな俺の頭の中は、エリカの祖父に言われたことがグルグルしていた……のだが、今は特に何も考えていない。
こういう平和な時に悩むのは時間がもったいないからな。
頭の中身を空っぽにすることを、堪能するぞ。
だが、まったりは長くは続かなかった。
「隣村の連中だ! 武器を持ってやって来やがった!」
エリカ家の周りにもたくさん農家はあり、ランチャー地方はこういう家々が集まって広大な村を構成している。
そんな村人の一人が叫びながら走ってきた。
彼も武器を持っている。
槍だ。
「おいエリカ、槍を持ってる。文明的な武器だ」
「ああ。実は家にいたころは槍は珍しくなかったんだ。冒険者になってから全然触れる機会がなくなって、あれは凄い武器だったんだなと思ったんだ」
「なるほどなあ。俺が農家の息子だった頃は、槍すらなかったからなあ」
エリカの父が走り出てきて、村人と何かお喋りしている。
「くそっ、奴らめ、せっかくエリカが婿を連れて帰ってきてくれた時に、なんて空気の読めない奴らだ!」
「しかも今までで最大規模の襲撃ですよ村長!」
村長?
エリカ、村長の娘だったか。
「よし、若い衆を集めろ! 食い止めるぞ!」
エリカの父が真剣な表情をしながら戻ってきた。
なかなか凛々しいではないか。
どれ、エリカの実家を救うためだ。俺も一肌脱ごう。
「ちょっとよろしいか」
「おお、婿殿! 済まんな、せっかく来てもらったばかりだというのに、我が村はこのように、隣村と争っているのだ」
「そりゃあまたどうしてだ? 土地が足りないとか?」
「そんなことはない! ランチャー地方は農地に向いた広大な土地のある場所だ。土地が足りなくて困るなどということはないんだ。だが、奴らはどこからか領主だという男を上に据え、全ての農地を渡せと襲ってくるようになった」
「そりゃ物騒だ。どうだろう。エリカの家族を救うのは俺もやぶさかではないので、手を貸そう。案内してくれ」
「本当か!? だ、だが、婿殿に万一の事があれば……。せめてエリカが子を産んでいれば」
「むきー!」
聞き捨てならぬと会話に割り込むエリカ。
「ドルマは強いんだから大丈夫だ! 私が保証する! あとは、私も行くぞ!」
「エリカも!? や、やめるんだ! 争いは男の仕事だ!」
「私は冒険者だし、騎士だぞ!」
「まだ騎士だなんて言ってるのか!」
わあわあ騒ぎ出した。
状況はそれどころではないのでは?
「まあまあ、俺とエリカで襲撃者を蹴散らしてくるので安心してくれ」
「し、しかし……」
「俺とエリカで、ゴブリンの砦を一つ落としたり、リエンタール公国を救ったりしたんだ。いけるいける」
「ほ、本当か!?」
流れでエリカの父を説得し、俺とエリカは装備を携えて、隣村の連中が襲ってきた場所とやらに急いだ。
具体的移動方法は。
「ジャンプ!」
俺、エリカを抱きかかえて飛ぶ!
「むっ、婿殿が飛んだー!?」
これでお分かりいただけただろうか。
俺たちは空の上から、隣村の連中を見下ろす。
村人たちが武器を持って詰めかけてきている。
おや?
こちらの村に比べて人数が多いな。
それに同じ外見の村人がたくさんいる。
エリカの側は、既に大きな柵を作っており、これで向こうの村の連中を迎え撃っているところだ。
分が悪い。
敵は数が多いし、柵と言っても全面にあるわけではない。
農地は広大なのだ。
回り込む隙はいくらでもある。
「あいつ、回り込もうとしている!」
「よし、ミサイル!」
空中から、小石を一つ飛ばした。
それは猛烈な勢いで飛翔すると、回り込もうとしていた隣村のヤツの目の前に炸裂し、爆発を起こした。
「ウグワーッ!?」
爆風でゴロゴロ転がっていく隣村の男。
「よーし、着地前に、小石を全部ミサイルだ。当たってくれるなよ。当たると普通の農民だと死ぬからな」
小袋をざらざらとぶちまけて、中の小石全てをミサイル化する。
小指の先程のサイズでも、大人一人をふっ飛ばすくらいの威力になるのだ。
それが次々と、隣村の襲撃者たちに突進していった。
「な、なんこれウグワーッ!!」
「空から何かウグワーッ!!」
「小石が爆発ウグワーッ!!」
「まずい! 土のカイナギオ様にご報告をウグワーッ!!」
今、なんか変なこと言ってるヤツいなかった?
そしてふっ飛ばされた村人の一部が、土色の骨みたいなのに変化している。
そいつらはもぞもぞ起き上がると、慌てて近くの村人の姿に変身した。
「モンスターが混じってる! よし、私がやっつけるぞ!」
地上が近かったので、エリカは俺の手からぴょーんと飛び出した。
着地ざま、村人に化けた土色の骨をグレイブソードで殴る。
頭を半分断ち切られたモンスターは、正体を表すと「ウグワーッ!? な、なんたる野蛮!」と叫びながら事切れた。
周囲の村人たちが、これを見てドン引きする。
空中から爆発するもので襲われ、仲間の一人がいきなり脳天をかち割られてモンスター化したのだ。
引かない方がどうかしている。
「ってことで、襲ってくるヤツが全部モンスターだエリカ! 脳天かち割ってやれー!」
「おう、分かった!!」
攻撃を仕掛けてくる隣村の人。
それを、一切の躊躇なくグレイブソードで叩き切るエリカ。
槍は真横に蹴り飛ばして、無理やり肉薄するスタイルだ。
うーん、バーサーカー。
地上に降り立った俺は、周囲に「ワールウインド!」と風を吹かせて、身動きできないようにする。
「どれどれ、それじゃあ、土のカイナギオとやらの話を聞かせてもらおうか」
どいつから尋問を始めるかな、と戦場を見渡す俺なのだった。
ただの村の抗争ではなかったのだ!
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