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第30話 エリカの祖父が俺を知ってる風なんだが

 エリカの実家に案内された。

 なかなか大きい家だ。

 豪農なのではないか。


 案の定、幾つかの家族が一緒に暮らしてるらしい。

 エリカの兄も、自分の家庭を持っていた。


「うちは四人兄弟なんだ。私は三女なんだけど、四番目なんだぞ」


「ははあ、男、女、女、女で末っ子が騎士になるために旅立ったのか」


 話は読めた。

 末っ子をバリバリに甘やかして、騎士物語を聞かせまくったのだろう。

 そしてエリカは立派に騎士を目指す女子に育った。


 ちなみにエリカの姉二人も婿を取って、この家で暮らしている。

 ランチャー地方でもかなり大きい農家だそうなので、ここで生活するのが一番いいから婿も来るのだ。


 こうして、俺を連れてきたエリカを囲み、まずは家族会議が開かれた。


「エリカ、ついに婿を連れてきたか」


「違うぞ」


「違うぞ」


 エリカと俺が真顔で否定する。

 だが、エリカの家族たちの表情はなんだか安心した風である。

 こいつら……俺達が照れ隠しで否定していると思っていやがる……!


 こりゃあ話が通じないパターンだ。


 エリカの父親と母親は笑顔を浮かべながら、


「いつまでも騎士になると言っていたエリカも、ついに婿を迎えて腰を落ち着ける気になったか! 大人になったなあ。なに、彼も農家の出身? いいじゃないかいいじゃないか。ただものではない眼光の鋭さに、冒険で培われたガッチリした体。いい農家になるぞ」


「エリカがちゃんとお婿さんを連れてきてくれるなんて、母さん嬉しくて嬉しくて……。二人の家を増築しないとね! ちゃんとスペースは考えてあってね……」


 エリカの兄と姉たち、その家族も歓迎している風である。

 なんだ、聞いていたよりも仲がいいな。


「仲はいいんだけど、私が騎士になるっていうのを物凄い勢いで止めてきたんだ」


「家族の気持ちは分かるな」


 エリカの家は、この辺りで一番大きい農家。

 土地は死ぬほどある。


 エリカの祖父が凄腕で、近隣のモンスターを全部やっつけてしまい、そいつらの棲家を開拓して農地に変えてしまったのだ。

 息子夫婦だけでは持て余す広さだったので、エリカたち孫の世代に分けて、ようやく農地として十全に使えるようになったということだった。


「帰ってきたんじゃない! 私は結構すごい冒険者になったので、報告に来ただけなんだっ!」


「はいはい」


 この家族たち、エリカのキャラクターをよく分かっているせいか、受け流すのが上手い。

 なお、エリカの武勇伝を聞いて目をキラキラ輝かせるのは、彼女の兄弟の子どもたちだ。

 主に甥っ子連中だな。


 姪っ子たちはませているのか、俺によってきて、


「エリカおばさんかわいいもんね!」


「おにいさんはどこでエリカおばさんとであったの?」


「どこでデートしたの?」


 とか聞いてくる。

 俺の苦手な質問ばかりだ。


「エリカ、たすけてくれー」


 だが、エリカは甥っ子たちに、嬉々として武勇伝を語っているではないか!

 あれはしばらく戻ってこないな。


 俺はほうほうの体でその場を逃げ出した。


 エリカの実家の庭をブラブラしていると、杖をついた老人が木陰に設けられたベンチに腰掛けていた。


「おや、客人かね」


 髪も髭も真っ白なじいさんだ。

 エリカの祖父かな?


「ああ。エリカの仲間だ」


「ほうほう、それはそれは……。みんな賑やかにしているから、エリカが帰ってきたんだろうとは思っていたが……」


 老人は俺を見て、ちょっと固まった。

 目をしばたかせて、それから「おお……」と呟く。


「青魔道士殿……」


「えっ!? あんた、俺を知ってるの? 俺が青魔道士だって知ってるのは、まだほとんどいないはずだけど」


「ああ、それはですな……。いや、年寄の勘違いです。私はエリカの祖父です。エリカと仲良くしてくださってありがとうございます」


「ああ、いやいやこちらこそ。俺もエリカに助けられたからさ。ここ座っていい?」


「どうぞどうぞ」


 エリカの祖父と並んで座る。


「つかぬ事を伺いますが、あなたはお父上や先祖に、青魔法を使う方が?」


「由緒正しい農家だ。名字だって、ひい爺さんが昔、生命を助けてくれた人の言葉を勝手に使ってつけたもんだし」


「ほうほう。では……やはりそうなのでしょうな」


 エリカの祖父が目を細めた。

 笑ったんだろう。

 だが、なんでさっきから俺相手に丁寧な口調になっているんだ?


「これからも、エリカと仲良くして下さい」


「ああ、もちろんだ」


「それと……そのうち、生意気な騎士見習いの若造と会ったら、愛想を尽かさずに色々教えてくださるとありがたい」


「お? なんだなんだ。そんな知り合いがいるのか?」


「はっはっは、そんなものです」


 エリカの祖父は笑った。

 俺は彼の物腰から、なんとなくただの農夫ではないっぽいものを感じたのだった。

 だが、結局はよく分からない。


 謎っぽいことを言う老人だなあ。

 首を傾げながら、俺はエリカの元へ戻ってきたのだった。


 甥っ子たちと剣術遊びをしているな。


「さあどんどん掛かってこい! 真の騎士に近づいた私は強いぞ!」


「うおーっ、エリカおばさんちょうつよくなってる!」


「すげえぱわーだ!」


 そりゃあ、実戦をくぐり抜けてきているからな。

 今は得物が木の枝なので大人しいだけだぞ。


 ボーっとこれを見ていたら、エリカはきちんと手加減して、甥っ子二人をふっ飛ばしたところだった。

 泥だらけになった甥っ子たちがケラケラ笑っている。


 いい光景だなあ。

 そう言えば、この辺りは何やら、紛争に巻き込まれているんだっけ。


 後でその話を聞かねばならないな。

 今後の事を考えるうちに、俺はエリカの祖父から聞いた話をすっかり忘れてしまうのだった。

意味深なエリカの祖父である


気に入っていただけましたら、下にある星をツツツーッと増やしますと作者が喜びます。

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[一言] なんか、日本の寓話にもそんな話が…
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