バンドマン
A:よぉ、久しぶりだな。
B:そうだな。
A:何だ? 俺の美文字案件か?
B:何だよ、その言い方。まあそうだけども。
A:字が美しい人間は性格も美しい、何でも協力するぜ。
B:自分でそう言うヤツは大体性格悪いけどな。
A:美文字トレーナーを敵に回すと怖いぜ?
B:じゃあ性格悪いじゃん。
A:まあいいや、またオマエのバンドのジャケット題字を俺が書くのか?
B:今日はそれじゃないんだ。
A:でも美文字案件って言っただろ? オマエが。
B:その言い方慣れないな、二度と言うな。
A:じゃあ俺の美文字をどう使うんだよ。
B:LINEのIDを書いてほしい。
A:いや知ってるだろ、俺のLINEのIDなんて。
B:そうじゃなくて、俺のLINEのIDを書いてほしい。
A:どういうユーモア?
B:ユーモアじゃなくて、ほら、俺、字汚いじゃん。だから。
A:いや説明不足が止まんないな。ちゃんと説明してくれ。
B:ライブに来ていた可愛いファンにLINEのID渡すじゃん?
その時の字が汚くて引かれることあるから、オマエに書いてほしい。
A:えっ、バンドマンってそんなことしてんの?
B:主語が大きいな、俺たちのバンドと、あと大体のバンドだよ。
A:じゃあその主語通りじゃん、まあオマエら界隈ってことな。
B:そういうこと、そういうこと。
A:そんなことに美文字を使うな。
B:いいだろ、別に。
A:全く……バンドマンってそんなことしてんのかよ、いいなぁ。
B:いいんだ。
A:俺もそのバンドに入れてくれよ。
B:まあオマエもビジュアルは悪くないけどさ。
何の役割するんだよ。
A:だから美文字を書くっていう。アートディレクターみたいな。
B:別に今までも貢献してくれていたから、
アートディレクターで入れてもいいけどさ。
A:いいんかい。
B:ライブで何するんだよ、同時に字でも書くアートするのかよ。
A:いや、俺ラップできるかもしれない。
B:えっ、そうなの?
A:というか学生の頃、ラップやってたし。
B:マジかよ、じゃあバンドがミックスチャーになるってこと?
A:そういうことになるな。
B:めちゃくちゃモテそうじゃん、やったぁ!
A:全然アリなんだ。
B:どうせ作詞作曲もボーカルも俺だから、俺が決められるし。
A:ワンマンかよ。
B:じゃあさ、どんなラップかちょっと聞かせてくれよ。
A:まあテストもあるだろうな、曲名は『文字の世界』だ。
B:OK、じゃあ手拍子だけしとくわ。
A:
気に食わなければ即炎上 よく検討せず、言葉で盛る戦争
天井知らない砲煙弾雨 暇だし、とりま行こうぜスタンス
勝手に発足、第三者委員会 燃え盛るだけの代案無い人災
黙って心配してるわけじゃない 笑って人災見てるダメな会
B:……。
A:
無関係な人間の揚げ足取り 壊れてるのに、代えない檻
すぐにかみつく、猛獣のよう ネットで誰にでも強襲届く
覆う暗闇、簡単に悪意と繋がり 嫌いが連なり、未来が塞がり
文字が怖くて震えてしまい 何も出来なくなり潰れて、自裁
B:ダメだよ!
A:えっ? どこがダメだった! 結構良いリリックじゃないっ?
B:俺たちのバンドはもっとチャラいリリックなんだよ!
ビール飲んで遊んでYeahみたいな感じなんだよ!
何か重たいんだよ!
A:いや! フックというかサビまでラップさせて!
B:フックってサビのことな、じゃあサビをラップしてみろよ。
A:
文字の暴力、道徳をどう説く 果たしてあるのか、効力
いや文字には文字で闘いたい 優しい世界にただ会いたい
B:ダメだよ! やっぱり!
何、ガチで世界を変えようとしてるんだよ!
A:いやでも音楽ってこうあるべきじゃん。
B:さすが美文字! 性格が良すぎるわ!