その後
まばゆい光と激しい風。一瞬だったはずなのに、それはとても長い時間のように感じられた。
私は冷たい床にうずくまっていて、でも何の痛みも衝撃もやってこない。
ただ、天井からパラパラと小さな破片が降ってきて、何かに当たる音がしていた。
「ん……?」
目を開けると、私の周囲には半円状の光の防御膜が張られているのが見える。
これに当たった破片が床に落ち、次々と高い音を上げていた。
「ジャレンくん……?」
奥にあった壁がなくなってしまっている。魔力で吹き飛ばされたそこから差し込む陽の光の眩しさに、私は思わず目を細めた。
「シュゼ、大丈夫か?」
「グランジェーク様」
私のすぐそばに立っていたグランジェーク様が、その腕にぐったりとしたジャレンくんを抱いていた。私を守ってくれたのは、グランジェーク様の魔法だった。
はっと気づいて振り返れば、オクトくんと母親にも防御魔法がかけられていて無事だった。あの一瞬のうちに、グランジェーク様はここにいる全員を守ってくれていた。
「この子は無事だ。すぐにマルリカのところへ連れて行く」
私を安心させるよう笑みを見せたグランジェーク様は、穏やかな声でそう言った。ジャレンくんは魔力を使い果たし、気を失っているだけみたい。
この子が無事でよかった。私はほっと胸をなでおろす。
「さすがに転移魔法は無理ですね」
ジャレンくんには、もう体力は残っていないだろう。こんなに細くて小さくてしかも精神崩壊状態に陥ったのだから、とても転移魔法に耐えられそうにはないように見えた。
グランジェーク様も同意見で、ジャレンくんをその肩に抱え直すと私に左手を差し伸べた。
「馬車で向かおう。立てるか?」
「……はい」
私は彼の手を借りて立ち上がる。
そして、放心状態のオクトくんに駆け寄ると、私もまたグランジェーク様がそうしてくれたように手を差し伸べた。
「立てる?」
オクトくんは愕然としつつも私の手をかろうじて握り、震える足腰をどうにか動かしてその場に立つ。
「行こう」
グランジェーク様は壁がなくなってしまったところから庭に出て、馬車の停めてある正面玄関へと向かった。
私たちの姿を見つけたアウレアが、護衛が止めるのも振り切って走ってくるのが見えた。
***
城内にある魔法師団の棟に着くと、グランジェーク様は眠った状態のジャレンくんを部下の魔法使いたちに預け、彼らはすぐに医局へと向かった。
ジャレンくんは、とても小さくてか細くて、透き通るような白い肌が儚げでとても哀れに見えた。
「六歳なんですか?あんなに小さいのに」
グランジェーク様の秘書官であるリンクスさんは、ジャレンくんを見て痛ましいと顔を顰める。ふわっとした黒髪に青い瞳が妖艶な彼は、見た目に反して毒舌だと有名だ。
「一体どんなスカスカの脳みそしてたら、あんな少年を傷つけられるんですか?親には同じ目に遭って野垂れ死んでほしいですね」
怒りをあらわにするリンクスさんに対し、グランジェーク様は執事として働いていたスヴェトさんから聞いた話を簡潔に伝える。
「サリュ教信者の子どもだ。三歳のときに一度鑑定を受けて、魔力がないと判定されている。だが、一年ほど前から素養が出てきていたらしい」
「その時点で届け出てくれれば……。酷い話ですね」
「認めたくなかったんだろう。自分が魔力持ちを産んだことを」
サリュ教信者の両親は、自分たちの子どもが魔力持ちだなんて信じたくない、という動機からジャレンくんを別荘に隠した。
彼らからすれば、魔法使いはこの世の理に反する存在。悪霊が憑りついている、と思いたかったのかもしれない。
「ついには、すべてをなかったことにしようとした母親があの子を殺そうとした。それで精神崩壊状態になったらしい」
「なんとおぞましい」
婦人を連行したアウレアの護衛騎士によれば、婦人はしきりに「破門される」と怯えていたそうだ。
我が子の命より、我が子が魔力持ちだと露呈すればサリュ教を破門される方が恐ろしいだなんてどうかしている。
連行されてきた婦人に対し、グランジェーク様は言った。
「サリュ教のおまえたちは俺たち魔法使いを『自然に反する存在だ』と言うが、体裁のために我が子を手にかけようとするおまえほど自然に反している者はいない」
集まっていた魔法使いたちは、婦人に軽蔑の眼差しを向けていた。
けれど、それが婦人に本当の意味で伝わることはなく、彼女はいつまでも破門されることだけを恐れて泣きわめいていた。





