デートだったらしい
そうだ。確かに私はこの子に会った。
オクト・ハーディ、それが少年の名前だったような。十二歳の男の子で、「弟が病気なのに、薬を飲みたがらない」って言っていた。だから、どんな味でも甘くしてしまう苺を採りにきたんだって。
その話を聞いたアウレアがツンとすました顔で「苺くらいあげるから泣くんじゃないわよ!」って言って、でも彼女はまだ見つけられていなくて。それで、私が見つけた苺の中から二つをあげたんだった。
「確か、オクトくんだったよね?この近くに住んでいるの?」
私は中腰になり、少年と目が合うようにかがみながら尋ねる。
「森のすぐそばに、別荘があるんです。今は、母さんと弟と使用人とそこで暮らしています」
「そう」
弟想いの優しいお兄ちゃんだな。私は微笑ましく見つめた。
ここでグランジェーク様が口を開く。
「弟が薬を、というのは、弟は病気なのか?」
いきなり突っ込んだことを聞いた!
気にはなっていたけれど、デリケートな話だと思って聞かなかったのに、グランジェーク様がものすごくあっさりと尋ねたのでびっくりした。
「えっと、ジャレンは療養が足りないんだって父さんは言っていました。突然叫んだり泣いたり、物が飛んできたりするから危なくて、でも別荘でゆっくりしていれば治るだろうって」
「療養?」
それは病気なんだろうか。
聞く限りでは、癇癪持ちという印象になるけれど……?
グランジェーク様は、私とはまた違った違和感を覚えたようだった。
「弟はいくつだ?」
「六つです」
「叫んだり泣いたりするのはいつ?」
「夜中が多いかなぁ。夜寝た後に、突然起きて暴れるんです」
それは家族も大変だろうな。本人も疲れが溜まってつらいだろう。
「睡眠時歩行症とか夜驚症とか……?眠りの深度の変化に体がついていっていないのかしら?」
私が首を傾げてそう言うと、少年は悲しげに言う。
「母さんはジャレンに霊が取りついてるんじゃないかって、ずっと怖がってて……。カーテンとか外れちゃって、物も飛んでくるから危なくて」
その言葉に、グランジェーク様が顔を顰めた。
「物が飛んでくるのは、弟が手で物を投げてるんじゃないのか?」
「投げません!勝手にぶわって飛んでくるんです」
私とグランジェーク様は、顔を見合わせる。
「無意識に魔法を使ってる……?」
「その可能性がある」
幽霊が憑りついているというケースもないわけではないが、子どもの魔力が暴発している方が可能性としては高い。
「六歳なら、すでに魔力判定を受けているはずですよね……?」
一般的には、三歳くらいで魔力判定を受ける。
その際に、才能のあるなしはわかるはずなのに。
グランジェーク様は腕組みをして、思案しながら言った。
「判定後にそれが覆ることはある。十歳までは魔力が不安定だから。だが、無意識に物が飛ばせるほどの魔力に目覚めるのは珍しい」
「グランジェーク様は、オクトくんの弟が魔力持ちだと?」
「魔力持ちが見つかったら即座に報告が上がるはずなんだが、今のところ魔力判定以外で子どもが見つかったという話は上がっていない」
魔力持ちの保護は、魔法師団の仕事である。早いうちから、魔法の基礎や力の制御方法を学ぶことは本人の命にかかわる大事なことだからだ。
「一度本人を見てみなければわからないな。行ってみるか」
手遅れになる前に、とグランジェーク様はすぐに少年の住む別荘へ行くことを決める。
「シュゼ、デートはここまでで終わりになる。すまない」
え?今日はデートだったの?
私は一拍置いて、疑問を飲み込んで返事をした。
「大丈夫です。心配ですから、私も一緒に行きます」
グランジェーク様は少年の肩にポンと手を置いて言った。
「別荘に案内してくれ。弟を助ける方法があるかもしれない」
「本当ですか!?すぐに案内します!」
ぱぁっと目を輝かせるオクトくんは、期待に満ちた声で勢いよく返事をした。
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