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記憶喪失の薬師ですが、寡黙なはずの魔法師団長様が溺愛モードで離してくれません!!  作者: 柊 一葉


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だんだん思い出してきました

亡者の森は、昼間でも薄暗い。

魔法を使って明るい光の球体をそこら中に浮かべるグランジェーク様ならランプいらずだけれど、普通の人は灯りがなくては数メートル先が不安になるほどだろう。


ところが一転、湖の周辺にくると木々がなくなっていて、太陽の光が降り注いでいる。白い砂は水分を多く含んでいて、その上をぴょこぴょことカエルや水鳥が歩いていた。


湖面はきらきらと光が反射し、透明度が高い。覗いてみると、泳いでいる小魚や水草が見えた。


「きれい」


大きく息を吸い込むと、緑の木々の匂いや花の香りがする。

倒れてからずっと緊張しっぱなしで、こんな風にリラックスできるのはすごく久しぶりなように思えた。


「シュゼ、あそこ」


グランジェーク様が指さしたところには、貴重な白い花が咲いていた。

採るとすぐに煙みたいになって消えてしまう不思議な花で、その一生のうちのほとんどは蕾の状態なので、こんな風に咲いているのはめずらしい。


「わぁ、初めて見ました!千年花、でしたっけ?」


ある学者が千年待ってでも咲いているところを見たいと言った幻の花。

見ているだけで幸せな気分になり、私は自然に笑顔になる。


「千年待たずに見られましたね」


そんな冗談を言うと、グランジェーク様はほっと安堵したように微笑む。


「シュゼがやっと君らしく笑ってくれた」


「え?」


優しい声音でそんなことを言われ、どきりとした。

グランジェーク様は、私のすることを一つも見逃さないように観察しているみたいで、しかもそれに一喜一憂しているみたい。


「シュゼが嬉しいなら、俺も嬉しい」


表情も仕草も、言葉も、彼のすべてから私への想いが伝わってくる。

まだ受け止めきれない私は、うろたえて目を逸らしてしまった。


私は一体どんな顔で、グランジェーク様のことを見ればいいのだろう?

何て返事をすればいいんだろう?


そもそも付き合っていた記憶がないのに結婚してしまい、私の中ではいっきに距離が近くなった感じがしてついていけない。


あの日、目覚めたときにグランジェーク様を見たときから、ずっと心の中がざわざわしっぱなしだ。


頬に手を当て、どうにか熱を冷まそうとがんばってみる。


「…………」


「……何です?」


手が届く距離から、じぃっと観察されると気になる。

そんなに見られること前提で私は生きていないのだ。


「うん、ちょっとね。そういえば、記憶を失う前のシュゼは、どうして俺を好きになってくれたんだろうなと思って」


「え?」


私は、きょとんとした顔でグランジェーク様を見る。

記憶がない私は、当然その答えを持ち合わせていない。


見つめ合っていると、彼は少しだけ眉尻を下げて言った。


「ごめんね。本当の俺は、シュゼの好きな『大人でかっこいい男』じゃなくて」


「私が好きな?」


大人でかっこいい人が好き、私はそんなこと言ったっけ?

もしかしてそれも忘れているの?


でも、もしも過去の私がそう言ったのならそれは──


「お姉さん!」


森の中から声をかけられ、私は驚いてそちらを振り向く。

そこには、籠を持った少年が笑顔でこちらに手を振っているのが見えた。


「え、何?私?」


どう見ても私に向かって笑いかけてくれている。


「知り合い?」


グランジェーク様に尋ねられ、私は困り顔で首を横に振る。

私に少年の知り合いなんていないはず。


そう思っているうちに、少年はタタタッとこちらに向かって走ってきた。

「よかった!また会えた!」


また?やはりこの子は私のことを知っているらしい。

白いシャツに紺色のベスト、黒のひざ丈ズボンという姿からして裕福な家の子どもだろう。


供の人間がいないところを見ると、高位貴族の子ではない。けれど、その身なりの良さから貴族令息であることはわかる。


「こんにちは」


記憶がないなりにも、私は少し笑みを浮かべて少年に挨拶をする。

人懐っこい笑顔の少年は、グランジェーク様と私に向かって籠の中を見せてくれた。


「見てください!今度は自分で見つけられました!」


籠の中には、大きめの苺とその葉や茎が入っていた。これは、クラウディオたちと一緒に来たときに私が採取した苺と同じ種類のものだ。


「このあいだはありがとうございました!苺のおかげで、弟がちゃんと薬を飲んでくれたんです!」


嬉しそうに報告する少年に、グランジェーク様が尋ねる。


「このあいだも、この森で?」


「はい!苺を探しに来たけれど見つからなくて、それで困っていたらお姉さんがくれたんです」


じっと少年を見ていると、何となく思い出してきた。

おぼろげに浮かんでくる少年の姿に、私は「あぁ」と思わず漏らす。


「あのときは青い帽子を被っていた、よね?」


「はい!」

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(978-4758094894)
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