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記憶喪失の薬師ですが、寡黙なはずの魔法師団長様が溺愛モードで離してくれません!!  作者: 柊 一葉


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監獄での対面

お邸の中の一階に、応接室(監獄)はあった。

一見、普通の応接室だけれど、その壁は半透明で、中の様子が廊下から見えるようになっている。


当然、そのことに応接室(監獄)の中にいる人は気づいていない。


ダークブラウンの髪を高い位置で結い上げ、臙脂色のドレスを着た貴婦人は、ソファーに座って涼しい顔でお茶を飲んでいた。


きつそうな目元は私の思い出どおりの印象で、最後に会った祖父の葬儀から七年経っているだけあって、美しいがさすがに年を重ねたなと感じた。


「今さら何しに来たんだろう」


ブリッジ子爵家で一緒に暮らしていたのは、私が七歳のときまでだ。弟ばかり可愛がる両親は、私のことが邪魔になり、存在しないかのように扱っていた。

見かねた祖父が引き取ってくれたから、今の私はある。


しかも、私の名前はもうシュゼット・クラークだ。祖父の娘である。戸籍はすでに、ブリッジ子爵家から離れている。


グランジェーク様は、私の肩にそっと手を置いて言った。


「俺が対応しよう」


「え?」


会わなくていいの?

驚く私に、彼は何てことないように微笑む。


「以前のシュゼから、両親のことは聞いているよ。会いたくないのに会う必要はない。この先も付き合うつもりがあるなら別だが」


「いいえ、できればかかわりたくないです」


「それなら、君は部屋で待っているといい」


にこりと笑ったグランジェーク様は、メイドロボから上着やタイを受け取ると、魔法でそれを一瞬にして身につけて母の待つ応接室へと入っていった。


グランジェーク様が「会わなくていい」と言ってくれたことに、正直言ってほっとした。

私は、外から二人の様子を見守ることにする。


彼が入っていくと、母は立ち上がり恭しく礼をする。

身分的には、グランジェーク様が侯爵家当主であり魔法師団長で、圧倒的に上の立場だ。母もそれはわかっていて、かなり下手に出た態度を取っている。


「ご用は私が伺いましょう」


グランジェーク様の冷静な声は、威圧感も漂わせていた。

母は少しそれに怯んだようだが、大げさなくらいににこやかに挨拶をする。


「初めてお目にかかります、シュゼットの母でエリヴィアナ・ブリッジと申しますわ。この度はご結婚おめでとうございます」


そうか、昨日は動揺していて気づかなかったけれど、私は両親を結婚式に招待していなかったんだ。

まぁ、呼ぶ理由がないよね。七年も連絡を取っていなかったんだから、「私ならそうするわね」と納得だ。


グランジェーク様は、媚びるような母の態度にも反応を示さず、ソファーに座って淡々と告げる。


「祝いの言葉はわかった。だが、結婚式の翌日に約束もなしに訪ねてくるのは礼を失しているのでは?」


その言葉に、母は少し苛立った様子だった。でも、それをごまかすように笑って席に着く。


「娘が結婚したと新聞で知って、驚きましたの。まさか有名な魔法師団長様と結婚するなんて、驚きで駆けつけた次第でございますわ」


そうか、私は報告もしていなかったのか。

プライドの高い母のことだ、バカにしていた娘が大物と結婚したのに連絡一つ寄越さず、さぞ腹が立っただろう。


母の態度からは、グランジェーク様の恩恵にあやかりたいという気持ちが見え見えだった。私のことを娘とも思わず放置したくせに、今になって結婚相手の地位や権力が魅力に想えてやってくるなんてどうかしてる。


そもそも、私の今の身元保証人は薬師長なのだ。

祖父が死んで、新たな身元保証人が必要になったとき、拒絶したのは一体誰だったか?

忘れていた怒りがふつふつと込み上げてくる。


「ところで侯爵、私の娘はどちらに?娘に会わせてください」


母がそう尋ねると、グランジェーク様は会わせる気はないという態度を露骨に示す。


俺の(・・)シュゼは、部屋で休んでいる」


母の眉がぴくりと動く。


「まぁ、侯爵夫人になったからってそんな怠惰な……。実の親が来たのに顔を出さないなんて」


困ったように笑いながらそう言う母に対し、グランジェーク様は冷淡に告げた。


「シュゼットに親はいない」


「は?」


「あぁ、墓にはすでに挨拶に行った。心配には及ばない」


どうやら、祖父の墓には挨拶に行ったらしい。

ことごとく、グランジェーク様との記憶が消えている。


母はさすがに苛々してきたのか、顔を顰めて訴えた。


「私はシュゼットの母親です!あの子は私が産んだんですよ!会う権利はございますわ!」


今さら過ぎる。私は苦々しい気持ちになった。

さすがに見るに堪えないので、私は応接室へと入っていこうと動く。けれどそのとき、グランジェーク様から不穏なオーラが放たれた。


「……だと?」


「え?」


母が怯えた表情に変わる。


「たかがおまえ程度の存在が、シュゼと会う権利を主張するのか?この世のものはすべて、シュゼにとって必要かそうでないかの二つだ。おまえはシュゼにとっていらない」


「なっ!」


「シュゼが必要とする人間は俺だけでいい。育ててもいない母親が特別な存在だというのなら、俺は速やかにおまえを消さなくてはいけなくなる」


「ひぃぃぃ!」


魔力の波がオーラになって揺らいでいるのが見える。

これは相当お怒りだ。


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(978-4758094894)
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