命が尽きてからが本番
大聖堂を出たグランジェーク様は、迷いなく歩いていく。
憧れの人にお姫様抱っこされているのに、喜びよりも不安の方が断然勝っていた。
落とされないようにぎゅっとしがみついているうちに、魔法馬車が停めてある場所へと到着する。馬車と言ってもそれを引く馬はおらず、操作用の杖を持った御者ロボットが御者台にいるだけで、この国でも有数のお金持ちや魔法使いしか乗れない代物だ。
グランジェーク様が近づくと、何もしなくてもスッと扉がスライドして開き、彼は慣れた様子で中へ乗り込む。
ようやく下ろしてもらえるのかな?
ちょっと期待したけれど、彼は私を抱きかかえたまま腰を下ろした。
「シュゼ、昨日から取り乱してすまなかった」
「え?あ、いえ……」
真剣な顔でそう言われると、何とも申し訳ない気持ちがよみがえる。
今のグランジェーク様には、闇に飲まれた雰囲気はなく、堂々とした凛々しい雰囲気で「私の知っている」彼に戻ったように思えた。
けれど、その瞳に篭る熱は本物で、私への愛を情熱的に訴えかけていた。
見つめ合うと胸がどきりとして、逃げたくなってしまう。
「シュゼ」
「はい」
「忘れてしまったのなら、記憶を取り戻せばいい。取り戻せないなら、今度こそ君の心に俺のことを刻みつければいい。俺は何も絶望することはないと気づいた」
どういうこと!?
突然の前向き発言に、私は驚いて目を瞠る。
「あの、そうはおっしゃいましても、私は」
「問題ない。俺は、君を心から愛している」
真剣にそう告げられれば、一気に体温が上昇する。
頬が熱くて、どうしていいかわからなくなった。
問題ありまくりですよね!?
私、なんで結婚することになったかまったく覚えていないんですよ!?
どうしてそこまで言い切れるのか?
神父様の前で宣誓したから?
それとも、結婚しなきゃいけない理由でもあるの?
混乱する頭で、必死に考える。
けれど、次の瞬間。
彼は私の手を取り、懇願するように言った。
「シュゼ、俺のそばから離れないで」
その声の切なさに、私は反射的に頷いてしまう。
あ、私、流された。
どう考えても流されている。
けれど、今この状況で無理だとは言えなかった。
両親からも愛されなかった私が、ここまで必要とされているのだ。
この人は確かに、私を恋人だと思っているんだ。
「憧れの魔法師団長様」なんかじゃなく、「シュゼットを大切に想ってくれる人」なんだと痛いほどに伝わってきた。
嬉しくないわけがない。
記憶を失くしてしまっても、私はこの人のそばにいなきゃと思った。
「これから」
「うん」
「どうか末永くよろしくお願いします」
「……あぁ!」
グランジェーク様は感極まったように微笑む。
そして、私の手の甲にそっとキスをした後で言った。
「命が尽きるまで、いや、尽き果てても君のそばに」
重い。すごい重い。憧れの人がすっかり変わってしまっている。
外を流れる景色は素晴らしくスピーディーで、私たちはあっという間にお邸へと到着した。
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