もはや夫婦
「新婚旅行から帰ってきた夫婦が来たよ」
休日明けという学校が面倒な月曜、隆史は姫乃と一緒に手を繋ぎながら教室まで来ると、冷やかすようにつかさがそんなことを口にした。
あくまで新婚旅行の体なため、本当にしたわけではない。
実際に結婚したらするつもりだが。
どうやらつかさは隆史たちを完全に夫婦として認識しているらしい。
何人かの女子はつかさの言葉に共感を得たようで、「うんうん」と頷いている。
それほどまでにお似合いだと思ってくれているのだろう。
本当に嬉しい限りだ。
「に、二宮さん……」
恥ずかしくなったのか、姫乃は「あう……」と頬を赤くした。
旅行前は恥ずかしながらでも新婚旅行だと言っていたが、実際に恋人同士になって言われると恥ずかしいようだ。
「つかさでいいよ。私たちの仲じゃん」
ツンツン、とつかさは姫乃の頬を指で突く。
記憶が確かであれば姫乃とつかさは一緒に遊びに行ったことなないはずで、休み時間に話す程度だ。
だけどつかさの中では姫乃は親友になっているらしい。
ただ、姫乃に同性の友達が出来るのは良いことだ。
「つ、つかさ、ちゃん」
頬を赤くしながら小声だけど姫乃はしっかりとつかさの名を口にした。
何とも初々しい姿だ。
「姫乃ちゃん可愛いよぉ」
「ちょっ……」
恥ずかしがっている姫乃は本当に可愛く、その可愛さに我慢出来なくなったのか、つかさは彼女に抱きついた。
「あ、姫乃ちゃんは旦那さん以外の人に抱きしめられたくないのかな?」
「あう……」
普段は隆史以外の人に抱きしめられることはないようで、姫乃は本当に恥ずかしそうだ。
最初隆史が抱きしめた時も凄く恥ずかしそうにしていたし、こうなるのは仕方ないだろう。
「高橋くんがいなかったら私が姫乃ちゃんを妻にしたいくらいだよ」
「絶対に渡さないから」
「あ……」
つかさから奪い取るように姫乃を抱きしめる。
少し乱暴だったかもしれないが、姫乃は嬉しさを表すように隆史の胸に顔を埋めた。
あり得ないほど可愛いため、思わず頭を撫でてしまった。
「本当に新婚夫婦だね。誰も入る余地がないよ」
そう思ってしまうほどにバカップルなのだろう。
「俺は姫乃を離さないよ」
ギュっと姫乃を抱きしめてしまったのは、本当に彼女が愛おしいと思ったからだ。
永遠に離したくない。
つかさに夫婦と言われたのと、教室で抱きしめられたからか、姫乃は恥ずかしそうに「あう……」という声を出した。
未だに頬は熟れた林檎のように赤くなっているだろう。
どうして姫乃はこんなにも可愛いんだろう? とつかさも思っていそうな顔をしている。
「高橋くんみたいな旦那さんも持てて姫乃ちゃんは幸せだね。こんなにも愛されてるんだから」
「はい。とても幸せ、です」
おでこを胸板にグリグリ、としてくるのは、もっとこの幸せを感じていたいからだろう。
ただ、姫乃は隆史が旦那だというのを否定するつもりはないようだ。
将来は必ず結婚するのだし、否定してくても問題はないだろう。
「人前でもこんなにくっつくんだし、二人きりの時は高橋くんにあんあん言わされてるのかな?」
朝っぱらからぶっ込んでくるな、と思ったのは口にしないでおく。
「そういうのは、まだ秘密、です……」
どういう意味なのか分かってようで恥ずかしそうな声だったが、否定しなかったらされていると言っているようなものだ。
実際にあんあん言わせてしまったが。
恥ずかしさからか、姫乃の身体が熱くなっている。
「まあ、夫婦なんだからしててもおかしくないよね。男子が殺しそうな勢いで高橋くんのこと見てるけど」
白雪姫と言われるほどの美貌を持った姫乃を抱いた隆史のことを、本当に男子は殺しそうな勢いで見ている。
大抵の男子は「高橋爆発しろ」などと思っているだろう。
彼氏が彼女を抱くのは結構普通のことだし、しても問題はない。
それに他の恋人たちだって同じように肌を重ねているはずだ。
「リア充爆発しろとはまさにこのことだね」
こうなっているのはお前のせいだよ、と言いたかったが、丁度予鈴が鳴ったから口にはしなかった。




