白雪姫の身体を拭く
「くちゅん……」
一緒にいる約束をした後、姫乃は可愛らしいくしゃみをした。
寒さからか身体を小刻みに震えさせており、このままじゃ間違いなく風邪を引いてしまうだろう。
ずぶ濡れで屋上にいるのは思った以上に体温を奪われてしまうらしい。
「保健室に行こう」
屋上だと風があって濡れた身体から体温が奪われてしまうが、室内であれば幾分かマシになる。
「その……こんな姿を他の人に見られたく、ないです」
よくよく姫乃を見ると、濡れた白いブラウスが透けて素肌が見えていた。
ブレザーを二重に着ているから見えている面積が多いわけではないが、もし、保健室に行く途中で誰かとすれ違ったら恥ずかしいのだろう。
今は授業中で人とすれ違う可能性は低いものの、教師と出会うかもしれない。
でも、先程まで桜色だった唇が薄紫色になっているし、早く何かしらの対処をした方がいいだろう。
出来るならお風呂に入った方がいいのだが、この高校は公立だから校舎にシャワー室などはない。
もしかしたら当直用であるかもしれないが、生徒に貸してくれたりしないだろう。
説明したら可能性はゼロではないにしろ、今の姫乃はこの状態で屋上から出るのを嫌がっている。
だからここで何とかした方がいいだろう。
「ならどうする?」
色々と考えるも、隆史の平凡な頭では具体策が何も思い浮かばなかった。
「タカくんが、私の身体を、拭いてくれません、か?」
「……は?」
タカくんが身体を拭いてくれませんか? と聞こえたような気がして、隆史はフリーズしてしまう。
身体を拭くということは彼女は服を脱ぐということで、姫乃の素肌が見えてしまうということだ。
いくら異性の幼馴染みがいようとも、女性の素肌を見るのに慣れているはずもなかった。
小学生の時ならともかく、今は一緒にお風呂に入ったりしないのだから。
「鞄の中にタオルがあるので、タカくんが私の身体を、拭いてください」
手を上下にモジモジ、と動かしたり消え入りそうな声だから物凄い恥ずかしいのだろうが、姫乃はどうしても屋上で濡れた身体をどうにかしたいらしい。
そうでなければ身体を拭いてほしいなどと言ってこないだろう。
「俺に裸を見られてもいいのか?」
いくら屋上で濡れた身体をどうにかしたいと言えど、異性に裸を見られるのに全く抵抗がないわけではないのは彼女の言動を見ていれば分かる。
「恥ずかしいですけど、タカくんは優しいですから、私に襲いかかるわけではない、と思ってます」
「確かに襲う気はないが……」
もし、隆史が昨日からガッつくような態度であれば、姫乃は慰めてもらおうと思ってすらいないだろう。
抱きしめてしまったとはいえ、あくまで紳士的に対応されたから襲われることはない、と判断したらしい。
「ならよろし……くちゅん……」
再びくしゃみをした姫乃の身体は震えており、これ以上放っておくわけにはいかないだろう。
「分かった」
恥ずかしいからってグダグダやっていたら姫乃が風邪を引いてしまうため、頷いた隆史は「鞄開けるね」と言い彼女の鞄のチャックを掴んで開けた。
今日は丁度体育があったからタオルを持ってきていたようだ。
「じゃあ……ふあ……」
身体を拭くために姫乃の方を向くと、ブレザーとブラウスを脱いだ彼女の姿。
スカートと下着ははいているもののそれ以外は全部脱いでおり、女性の身体に免疫がない隆史には刺激が強い。
普段服で隠れている胸元が、タイツでおおわれている生足が露になっている。
あまりに刺激が強い光景を見て、隆史は頭に全身の血液が集まっていくような感覚を覚えた。
「あの……お願い、します」
くるり、と背を向けたため、背中を拭いてほしいのだろう。
流石に前を拭いてもらうのは抵抗があるみたいなので、背中を拭き終わったら自分でやるようだ。
「う、うん……」
女性の身体を拭くのは凄い抵抗があるが、これ以上濡らしておくわけにはいかない。
思春期になってから女性の身体を見たのが初めてのためか、緊張してタオルを持っている右手が震えてしまう。
「んん……」
早く拭いてあげないといけない気持ちがあるため、隆史はあくまで風邪を引かないように拭いてあげるだけ、と自分に言い聞かせて姫乃の背中を拭く。
普段拭いてもらうこともないだろうし、背中という滅多に触れられない場所だからか、姫乃の口からの甘い声が漏れた。
思春期男子にとって可愛い女の子の甘い声は破壊力抜群で理性がゴリゴリ、と削られていく感覚に陥ったが、何とか我慢をして背中を拭いていく。
男の本能にはそこまで逆らえないようで、拭きながらも姫乃の背中はしっかりと見てしまう。
特に白い布から視線を離すことが出来ない。
「ありがとう、ございました。後は自分で拭きます」
思っていた通り、前や足は自分で拭くようだ。
頷いた隆史はタオルを姫乃に渡し、これ以上みないように彼女に対して背を向ける。
「あの……今は一人でいたくないので、側にいてください」
「分かっ……ふあぁい?」
誹謗中傷、水をかけられて心に傷を負った姫乃は、背を向けていても側にいると分かるようにか、自分の背中を隆史の背中にくっつけてきた。
いきなりのことで驚いてしまい、隆史は思わず変な声を出す。
「昨日から甘えてばかりで、ごめんなさい。でも……でも、今はタカくんと一緒に、いたいので……」
タオルを持っていない方の左手で、姫乃はワイシャツの袖ではなくて隆史の手を掴んできた。
麻里佳と手を繋ぐことは沢山あるものの、他の女の子とは初めてだから隆史の心臓は今までにないほどに跳ね上がる。
ドクドク、と激しい鼓動を姫乃も感じているだろう。
でも、今の精神状態では確かに一緒にいてあげた方がいいかもしれない。
「分かった。とりあえず早く拭いてくれ」
「はい」
頷いた姫乃はタオルで自分の身体を拭き始めた。
可愛らしいフリルのついた下着姿の姫乃を脳内に記憶してしまったのは言うまでもない。