白雪姫の独占欲
「全く眠れなかった……」
「そうですね」
正式に付き合いだした翌日、二人は朝になるまで眠ることが出来なかった。
理由は簡単で、付き合えた嬉しさのあまりキスを沢山してしまったのと、浮かれすぎたためだ。
誰しも初めて恋人が出来たら浮かれてしまうだろう。
隆史と姫乃も同じ状態になってしまったのだ。
「今から寝るわけにもいかないし、起きないと」
「ですね」
カーテンの隙間から漏れ出る朝日、鳥の鳴き声が聞こえてから眠気が出てきたが、今から寝ると旅館の美味しい朝ご飯を食べることが出来なくなる。
それにせっかく箱根に来たのだし、日中は寝ないで観光デートを楽しみたい。
寝るのは家でも出来るのだから。
「タカくんとやっと本当のデートが出来ます」
頬を赤らめてくっついてきた姫乃も、どうやら同じことを思っていたようだ。
今までは仮染めの関係だったが、今ではきちんとしたデートをすることが出来る。
なので嬉しいという気持ちがあってもおかしくはないだろう。
「そうだね。これから沢山デートしよう」
「はい」
今は旅行に来ているため、最高の思い出を作ることが可能だ。
隆史は姫乃の背中に腕を回し、おはようのキスをする。
んん……、と甘い声は朝から本能が出そうになるが、いきなりガッツいてもよろしくない。
だから軽いキスをしただけで唇から離れる。
「もっとしても、いいのですよ?」
どうやら軽いキスをしただけでは足りないらしく、姫乃からおねだりしてきた。
正式に付き合う前からキスを沢山していたのだし、この程度では満足出来ないのだろう。
「我慢出来なくなる」
恋人になれば色々と我慢する必要がなくなってくるため、本能を抑える必要が少なくなる。
「私に対しては、我慢しないでほしいです」
本人は恥ずかしいことを言っていると自覚があるようだが、それでも我慢しないでほしいらしい。
あう、と呟いた姫乃は、頬を真っ赤にして恥ずかしさを隠すように顔を胸に埋めてきた。
恥ずかしがったのはキス以上のことを想像したのかもしれない。
付き合い始めた翌日、しかも朝からする気はないのだが、姫乃は将来結婚してくれるなら抱かれてもいいと考えているのだろう。
「私はタカくんの彼女、ですから」
照れながらも「えへへ」と笑みを浮かべる姫乃は本当に可愛く、恥ずかしくても告白して良かった、と心底思った。
つい最近まではお互いの傷を慰め合うだけの関係だったが、本当の恋人になると彼女の一つ一つの言葉から感じる嬉しさが全然違う。
「その内野獣になる自信がある」
彼女に我慢しなくてもいいと言われて理性が抑えられる彼氏はいない。
むしろその言葉を聞いた瞬間に押し倒す男の方が多いだろう。
「私が側にいる時限定ならなってもいいですよ。でも、ひなたや式部さん相手になってはダメですから。んちゅ……」
胸からヒョコっと顔を出してきた姫乃は、独占欲を表すかのように隆史の首筋にキスをした。
ちゅー、という音が聞こえてくるため、キスマークを付けているのだろう。
(絶対に離れたくない)
キスマークを付けられながらそう感じた。
高校生で付き合って結婚までいくカップルがどれだけいるか分からないが、将来は絶対に結婚したい。
好きすぎるから結婚までいける自信はある。
「タカくんの周りには式部さんやひなた、春日井さんと可愛い女の子がいっぱいなので、独占したくなります」
首筋から離れた姫乃は、やはり独占したかったようだ。
「心配ないよ」
少し前まで好きだった麻里佳は恋愛対象として見てくれないし、美希には毛嫌いされている、ひなたは面白半分なとこがあるため、他の人を好きになる可能性はない。
むしろ既にこんなに愛してくれる人がいるというのに、他の人に目移りするなんて全く考えられないことだ。
「一ヶ月くらい前に式部さんに告白したのにですか?」
図星を言われて言い返せなかった。
確かにフラれて一ヶ月で他の人を好きになったのだし、姫乃からしたら心配する要素ではあるのだろう。
それでも付き合ってくれたということは、好きすぎてたまらないということだ。
「どうやらタカくんは身近にいる女の子を好きになる傾向があるようです。だからずっと私が身近にいます」
ギュっと抱きしめられた。
確かに小学生低学年の時は姉、少し前までは幼馴染みと、身近にいる人を好きになる傾向があるかもしれたい。
香菜は姉だから恋から除外するとしても、麻里佳は幼馴染みだから最も身近にいた異性だ。
そして今現在は毎日のように一緒にいる姫乃を好きになった。
「一緒にいてね」
「はい。んん……」
再びキスをし、朝から姫乃の感触を楽しんだ。




