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白雪姫と幸せで豪華な晩ご飯

「これ凄い……」


 十九時になると食事がテーブルに並び、伊勢海老やアワビ、松茸といった普段なら食べられない豪華な晩ご飯だ。


 商店街の福引きだから食事にはそこまで期待していなかったが、予想以上に豪華な晩ご飯になる。


 普通に泊まりに来たら一泊で何万とかかるだろう。


「そうですね」


 未婚の母を持つこと以外にあまり不自由なく暮らしている姫乃でも驚く食材なようだ。


 家庭環境からか姫乃の作る食事は割と家庭的な物が多く、それらももちろん美味しいが、アワビや伊勢海老といった豪華な食材を使われている旅館の料理も美味しいだろう。


 そもそもごく普通の一般家庭で育っている隆史には、こんな豪華な食事なんてしたことがない。


 こんな晩ご飯が食べられるだけでも来た意味があるだろう。


「食べる前に」

「あ……んん……」


 豪華な晩ご飯を食べたら普段みたいにイチャイチャしながら食べるのは難しいと感じたため、姫乃を引き寄せてキスをした。


 何度しても幸せを感じるキスはいつまでも出来そうだが、食欲も人間の三大欲求の一つだから早くご飯を食べたい気持ちもある。


 ただ、姫乃は食事よりキスをしていたいらしく、頭をガッツリ掴まれたから離れることが出来ない。


 もちろん離れようと思えば離れられるが、キスは一番の幸せだから隆史もご飯よりキスだ。


「んん、んちゅ……」


 キスによって甘い声を漏らしている姫乃は、本当に幸せそうな表情をしている。


「そろそろ食べようか」


 息継ぎのために一度離れてて、お腹が空いている隆史はそう提案した。


 キスの時は息をしないが、する前や後は美味しそうな匂いが脳を直撃したから食べたくなる。


 アワビや伊勢海老特有の磯の香り、松茸の芳醇な香りを目の前にして我慢出来る人はいないだろう。


「はい」


 蕩けたような表情の姫乃も、どうやら早く食べたいらしい。


 テーブル越しに向かい合うようにして座り、二人して「いただきます」と言って豪華な晩ご飯をたべ始める。


「ヤバいくらい美味しい」


 まずはアワビの刺し身を醤油に少し付けて食べると、コリコリ、とした食感に磯の香りが口の中に広がった。


 元々海鮮料理が好きで誕生日などで回転寿司に連れて行ってもらった寿司も美味しかったが、この旅館に出てくる料理は回転寿司とは比べ物にならないくらいに美味しい。


 アワビは回転寿司で出てこないから比べる物ではないかもしれないが。


「そうですね」


 同じくアワビを食べた姫乃も同意見なようだ。


 ただ、向かい合って座っていて離れているからか、足でチョンチョン、と突いてくる。


「伊勢海老も美味しい」


 蒸されている伊勢海老は縦半分に切られており、口に入れた瞬間にプリプリの身から甘くて濃厚な味が口全体に広がった。


 伊勢海老だったら以前食べたことがあるから味は知っていたものの、旅館で出てくる伊勢海老は以前のとは味が別次元だ。


 同じ種類でも個体や大きさによって味は変わるのだろう。


「私が作った料理より美味しく食べますね」


 自分の手料理より旅館の料理を美味しく食べるからか、姫乃が不満そうに「むう……」頬を膨らます。


 旅館の料理に嫉妬するなんて思ってもいなかったが、どうやら自分の作った料理をもっと美味しく食べてほしいのだろう。


 好きな人には何でも自分が一番になりたいものだ。


「俺は姫乃の料理が一番好きだよ」


 旅館の料理も美味しいが、愛情が込められている姫乃の手料理が一番美味しい。


 あくまで隆史基準のため、ほとんどの人は旅館の料理の方が美味しいと答えるだろう。


 高級旅館なのだし、その道のプロが作っているはずなのだから。


「ありがとう、ございます」


 一番好きだと言われたからか、姫乃は恥ずかしそうに頬を赤くして「あう……」という声が漏れた。


 好きな人に言われたら嬉しいのだろう。


「その……これからも美味しい料理を作ります、ね」

「ありがと」


 上目遣いで言われると破壊力抜群で、隆史は恥ずかしいのを誤魔化すために松茸の天ぷらを食べた。


 松茸は本来秋に旬を迎えるが、今では一年中食べられるようだ。


「大人だったら日本酒が進むんだろうな」


 今日の晩ご飯は和食のため、大人が飲むとしたら日本酒だろう。


「そうですね。大人になってからも来たいですね」

「行きたいね」

「はい。約束、しましょう」


 箸を持っていない左手を出して小指を立ててきた。


 指切りをしようということだろう。


「分かった」


 姫乃と指切りをしてまた旅行に行く約束をし、美味しいご飯を食べた。

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