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怒っている幼馴染み

「たっくん、朝帰りとはどういうことかな?」


 姫乃の家を出て自分の家に帰ると、制服姿の幼馴染みである式部麻里佳(しきべまりか)が笑みを浮かべて玄関に立っていた。


 正確には口元は笑っているが目が笑っておらず、茶色い瞳は完全に光を失っている。


 どうやら連絡もせずに朝帰りしたことを怒っているらしい。


 恋愛感情がない割に凄い過保護で、麻里佳は何でも面倒を見ようとしてくるのだ。


 長い生まれつきの茶髪をポニーテール調にしている麻里佳は姫乃の次にモテるらしく、良く一緒にいる隆史は男子から嫉妬される。


 凄い過保護なのは、告白を断った時に言った弟のように見てるからだろう。


「と、友達の家に泊まったんだ」


 嘘は言っていない、と自分に言い聞かせながら麻里佳の質問に答えた。


 姫乃自身がどう思っているか分からないが、慰め合ったり一緒にご飯を食べたのだし、友達と言っても問題はないだろう。


「嘘は言ってないけど、何か隠してる顔だね」


 長年一緒にいる幼馴染みだけあって、麻里佳は隆史の考えがある程度分かるようだ。


 同じ歳なのに姉ぶっているだけある。


「それに、私以外に泊まるくらい仲の良いお友達、たっくんにいたっけ?」


 麻里佳の心を抉るような一言に、隆史は言葉に詰まってしまう。


 美少女幼馴染みがいるためなのか、同性の友達がほとんどいない。


 全くいないというわけではないものの、泊まるくらい仲の良い友達は皆無だ。


「そ、それより今はシャワー浴びてご飯食べたい」

「そうだね。朝帰りしたから学校まで時間ないしね」


 どうやらこの場は切り抜けられそうで、隆史は急いで玄関からお風呂場に向かう。


 昨日はアルコール入りのチョコを食べたせいでお風呂に入っていないから髪や身体がベタついており、いち早くシャワーを浴びたい気分だった。




「何で十秒チャージ出来る飲料?」


 お風呂から上がって朝ご飯を食べるためにリビングに向かうと、テーブルには十秒で栄養チャージが出来る飲み物が置かれているだけだった。


「たっくんが朝帰りしたから時間がないの」


 ツーン、とまるでツンデレのような台詞を言った麻里佳は、かなり怒っているようだ。


 以前に隆史が寝坊してしまった時ですらきちんと朝ご飯を食べるように言ってきたのだし、今回の朝帰りでかなり怒っているのが分かる。


 両親が家にいない今の高橋家は麻里佳が大黒柱のようなものであり、彼女がいなかったらこの家は崩壊する。


 鉄筋コンクリートの分譲マンションだから実際に崩壊するわけではないのだが、麻里佳がいなくなったら隆史の生活がだらしなくなるのだ。


「さっさと飲んで学校に行くよ」

「ああ」


 隆史の分だけでなく自分も数十秒でチャージ出来る飲み物を飲んだ麻里佳は、スクールバッグを持って立つ。


 頷いた隆史も急いで飲み干し、麻里佳と一緒に学校に向かった。


☆ ☆ ☆


(あれ? 意外と話せてるな?)


 歩いて学校に向かっている途中、昨日フラれたばかりなのに麻里佳と普通に話せていることに気付く。


 顔を見るとフラれた時のことを思い出して泣いてしまうかと思ったが、そんなことなく話せている。


 恐らくは昨日姫乃に慰めてもらったおかげだろう。


 そうでなければ今も一緒にいるのは辛かったはずだ。


 慰めてくれた姫乃に感謝しつつ、隆史は麻里佳の隣を歩く。


「その、昨日はごめんね」


 突然謝ってきて申し訳なさそうにしている麻里佳は、一応告白を断ったことは気にしているようだ。


「もういいよ」


 恋愛対象として見られていないのに付き合っても意味ないし、出来るだけ諦めるようにしよう。


 それがお互いのためになるのだから。


 いつまでも気にしていたらお互いに気まずくなり、疎遠になってしまう。


 食事面で大変お世話になっている麻里佳に離れられては非常に困るので、お互いに告白の件は忘れるのがいいかもしれない。


 一緒にいても思っていたより全然話せているのだし、その内諦めることが出来るだろう。


「たっくんは優しいね。お姉ちゃんとして自慢の弟だよ」


 スクールバッグを持っていない右手で指を絡めるように手を握ってくる。


 こういったことを隆史限定で自然とやってくるから困るし、そのせいで諦めるまで時間がかかってしまいそうだ。


 こうされても離れたくない、と思ってしまう辺り、惚れてしまっているからだろう。


 さすがに昨日の今日で完全に諦めるのは無理な話だ。


だからと言って付き合えないのに手を繋がれて全く辛くないわけではなく、少しは遠慮してほしいと思う。


「でも、朝帰りはいけないんだからね」


 キリキリ、と握る手が強くなる。


「気を付けます」


 何回も言ってくるほど怒っているようで、今度からもし泊まるようなことがあるのであれば、きちんと伝えようと思わずにいられなかった。


 手を繋いで仲良く歩いている光景を見ている銀髪の女子生徒がいるのを知らずに……。

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