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白雪姫と夜のお散歩

「夜はちょっと冷えるね」

「そうですね」


 タイツを脱がすという恥ずかしい体験をした日の夜、隆史は姫乃と一緒に散歩をしていた。


 春で気温が上がってきたとはいえ夜になると寒く、身体が冷えないように手をしっかりと繋ぎながらだ。


 姫乃の方は白いワンピースの上からピンクの上着を羽織っているが、隆史は制服だから彼女の体温を感じないと寒い。


 いや、姫乃の温もりを感じていたいという言い訳だ。


 指を絡めるようにして手を繋ぎ、永遠にこの温もりを感じていたい。


 好きな人の側にいたいと思うのは当たり前のことなのだから。


「夜は静かでいいですね」

「そうだな」


 駅前は夜でも賑わっているが、少し離れると人は少なくなる。


 仕事終わりらしき人とすれ違うからゼロではないにしろ、静かに散歩出来るのはいいことだ。


 すれ違う人ほぼ全てが姫乃の美しさに目を奪われているが。


「綺麗、だ……」

「……え?」


 月明かりが彼女を照らして幻想的に見え、思わず口にしてしまった。


月明かりに銀髪が照らされると本当に幻想的で、まるで美術館で作品を見ているかのような錯覚に陥る。


「えっと……今のはナシで」


 綺麗だと思ったのは本当だか、無意識の内に口にしてしまったので、隆史は恥ずかしくて身体が熱くなった。


 手を繋ぎながらも両手を使ってブンブン、と左右に振り、なかったことにする。


 一度言ったことをなかったことにするなんて出来るわけではないが。


「ナシにしてほしくない、です。タカくんの言葉だから……」


 綺麗と言われて恥ずかしくなったであろう姫乃は、左右に振っている隆史の手を両手を使って優しく握ってくる。


「今や毎日一緒にいるタカくんの言葉を、なかったことにしたくありません」


 月明かりが反射して宝石のように綺麗な青い瞳がしっかりとこちらを見つめ、本当になかったことにしたくないようだ。


 確かに綺麗だと言われたのになかったことにされたくないだろう。


 女性はいくつになっても綺麗でありたいのだから。


「ごめん。その、本当に綺麗だよ」

「ありがとう、ございます」


 自分で言っておいて恥ずかしくなった隆史と、言われて恥ずかしくなったであろう姫乃は、同時に視線を逸らす。


 すれ違ったOLらしき人がこちらを見て「初々しいカップルね」とクスクス、と笑ってきたためか、姫乃の頬はさらに真っ赤に染まる。


 実際には付き合っているわけではないが、やっていることは恋人同士のそれと変わらないから思い出して恥ずかしくなったのだろう。


 そう思うと隆史も恥ずかしくなり、身体が熱くなっていく。


 春の夜で寒いはずなのに、サウナにいると錯覚するほどに熱い。


 それは姫乃も同じらしく、手から彼女の熱さが伝わってくる。


 今すぐにでも冷房の涼しさが欲しいが、この熱さだけはずっと感じていたい。


 好きな人の温もりなのだから。


「その……散歩続けましょう」

「う、うん」


 身体の熱さを感じながらゆっくりと歩き出す。


 今は身体が熱くても、しばらくすればお互いに落ち着いてくるだろう。


「タカくん、夜も一緒にいてくれてありがとうございます。虐めはなくなりましたけど、夜は思い出して悲しくなることがあるので」

「大丈夫だよ」


 好きな人と一緒にいたくなるのは当たり前なのだから。


 それに好きな人が悲しい想いになるのであれば駆けつけて慰めてあげたいのだ。


 ずっと一緒にいるのは不可能だとしても、せめて一緒にいる時は楽しいと思ってくれると凄く嬉しい。


「姫乃は俺がいつでも慰める」

「あ……」


 なるべく寂しい想いをさめたくないため、隆史は姫乃を引き寄せてから抱きしめた。


 外で抱きしめるのは恥ずかしいが、寂しい想いを少しでも無くせるなら躊躇はしない。


「ありがとう、ございます」


 散歩だというのにしばらく抱き合っていた。

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