白雪姫にメイド喫茶ででこちゅー
どこでも甘々な二人です。
「じゃあ先輩、ゆっくりしていってくださいね」
席まで案内した美希は、笑みを浮かべて離れていった。
去る時にくるり、と一回転してメイド服を見せつけてきたために短いスカートがふわり、と舞って見えそうになっていたが、中には見えても大丈夫な物をはいてるはずなので問題ないだろう。
メイド喫茶はこのお店以外に行ったことがないから詳しくは分からないが、メイド服は露出度が高くて男心をくすぐる。
男受けを狙っているのだし、どうしても露出度が高くなるのだろう。
「タカくんは、メイドさんが好き、なのですか?」
「まあ、好きかも」
四人席なのに向かいじゃなくて隣に座った姫乃に質問されたので、隆史は答える。
男でメイドさんが嫌いな人は中々いないだろう。
そもそもメイドさんが嫌いならお店に来ない。
「そうなんですね。でも、あの服は露出高すぎますよ……」
何やら小声で呟いた姫乃は頬を赤くし、ホールに出ているメイドさんを見た。
しっかりと見ているということは、もしかしたら着てみたいと思っているのかもしれない。
メイド服は可愛いのだし、着たいと思っても不思議ではないだろう。
「何か頼もうか」
「あ、はい」
メイドさんに見惚れていた姫乃に声をかけ、隆史はテーブルに置いてあるメニューを手に取る。
「え? 高くないですか?」
ヒョコ、とメニューを覗き込んできた姫乃は驚いたように目を見開く。
初めて来た時は隆史も値段に驚いたくらいだ。
「まあメイド喫茶だから」
「何か良い食材とか使っているんですか?」
「いや、普通のファミレスと変わらないと思う」
「いや、だってファミレスの倍はしますよ」
これなら私がタカくんのために何か作って上げた方がいいです、と姫乃は値段に対して不満を漏らした。
確かにメイド喫茶は普通のファミレスの倍くらいの値段はするが、その分メイドさんがサービスしてくれる。
普通のファミレスは店員が料理を運んできて終わりだが、メイド喫茶は話相手になってくれたり、ステージでアイドルのように歌って踊ったり、ミニゲームもあったりするのだ。
その分ドリンクや料理に上乗せしていてもおかしくない。
飲食代にプラスしてチャージ料というのが五百円ほどかかるが。
姫乃に出会っていなければ、失恋の傷を癒やしにメイド喫茶に来ていただろう。
「タカくんは高い料金を払ってでもメイド喫茶に来たいんですね。なら露出度が高くても……」
何やらブツブツと呟きながら考えているようで、姫乃は再びメイドさんを見た。
よほどメイド服を着てみたいのだろう。
(姫乃のメイド姿を見れるなら買うのもありかもしれない)
家に帰ったらネットで注文しようと考えた。
銀髪メイドはラノベで見たことあるし、絶対に姫乃にも似合うだろう。
ただ、他の人に見られたくないので、今度家に来た時に着せてみたい。
そんなことを思いつつも、隆史はドリンクを注文した。
☆ ☆ ☆
「ご主人様、お嬢様、お待たせいたしました。アイスミルクティーとクリームソーダでございます」
まさかの美希がドリンクを持ってきてテーブルに置いた。
隆史がいるのに愛想が良いのは、仕事中だからなのだろう。
愛想良く出来ないのであれば、接客業は勤まらない。
「これからお飲み物が美味しくなる魔法の呪文を唱えますね。ご主人様とお嬢様もお願いします」
「春日井がやるのか?」
「何で不満そうな顔してるんですか? 私みたいな美少女にしてもらえるんだから普通は嬉しいですよ」
確かに美少女ではあるが、知り合い、しかも自分に対して毒舌な人にやってほしくない、と隆史は思った。
「あ、アレですか? もしかして麻里佳先輩に私がここで働いているのを聞いて会いたくなったとかですか? 不満そうなのは会いたいのを隠してるツンデレというやつなんですね」
「はは、寝言は寝て言え」
「薄ら笑い? 私に対して失礼ですよ。失礼な先輩にはこうです」
「いしゃい」
仕事中に客に対して頬をつねるものではない。
麻里佳先輩に聞いた、と言ったということは、美希は麻里佳にはメイド喫茶で働くのを教えたのだろう。
メイド喫茶はこの辺りでは高校生が働くには時給がいいため、美希はメイド喫茶を選んだようだ。
姫乃にされたら間違いなく恥ずかしいだろうが、美希にされても何とも思わないのは彼女に好意がないからだろう。
「タカくんって式部さん以外にも仲の良い女の子がいたんですね」
ツーン、とまるでツンデレのような態度を取った姫乃は、隆史に対してそっぽを向いた。
「姫乃?」
「私と一緒にいるのに、他の女の子を見ないで、ください」
ギュっと隆史の制服の袖を掴んできた姫乃は、どうやら美希に対して嫉妬しているらしい。
どこをどう見たら仲良くしているのか不思議だが、確かに女の子と一緒にいるのに他の女の子と話すのはよろしくないだろう。
今の会話は店員と客の枠を超えている。
「そうだね。ごめん」
「なら許してあげます。でも、その……私を見てるという証拠がほしい、です」
「証拠? 頬にキス?」
先日頬にキスをしたことを思い出し、隆史の身体は熱くなっていく。
今すぐにでも頼んだミルクティーを飲みたいが、魔法の呪文をしていないからまだ飲めない。
「その……おでこにキス、です」
頬を真っ赤にした姫乃は、とんでもないことを言ってきた。
人前だというのにキスを要求してきたのは、本当に嫉妬しているからだろう。
今は共存の関係のため、他の人と仲良くしてほしくないようだ。
「いや、それは……」
二人きりであればともかく、人前でキスなんて恥ずかしくて出来るわけがない。
恥ずかし過ぎて二人きりだって勇気がいることだ。
「して、ください」
ウルウル、と青い瞳に僅かながら涙が溜まっていた。
「わ、分かった……」
物凄く恥ずかしいが、共存関係の姫乃にお願いされたら断るわけにはいかない。
隆史は姫乃のサラサラな前髪を手で退かし、瞼を閉じた彼女の顔にゆっくりと自分の顔を近づけていく。
「あ……」
おでこに唇が触れた瞬間、姫乃の口から甘い声が漏れた。
唇を通して姫乃の体温が伝わってくる。
「やぁーん、甘いですね。甘すぎてお飲み物も甘くなって美味しくなっていそうですが、魔法の呪文は一緒に唱えましょうね」
手をハートの形にして萌え萌えキュン、とやることになった姫乃は、熟れた林檎のように顔が真っ赤になっていた。




