白雪姫と放課後デートとあざとい後輩
誤字脱字報告くれてありがとうございます。
今回は新キャラの登場です。
「俺が行きたいとこに行っていいのか?」
学校が終わってから、隆史は姫乃と一緒に手を繋ぎながら駅前に来ていた。
目立ってしまったお礼に隆史の好きなところに一緒に行こうということになったのだ。
学校一の美少女で白雪姫と呼ばれる姫乃が特定と男と一緒にいて目立つのは仕方ないのだが、どうしてもお礼をしたいらしい。
「はい。普段タカくんが行くとこを、知りたいです」
上目遣いで甘い言葉は反則であり、隆史は心の中で悶えてしまう。
麻里佳が好きなはずなのに、と思っても、今日はずっと姫乃のことを考えていた。
授業中すら頭から離れなかったし、ボーッとし過ぎて先生に注意されてしまったほどだ。
おかげでクラスメイトから「浮かれているんだな」と笑われた。
「俺が行くとこは女の子が行くようなとこじゃないんだけど……」
全く来ないわけではないが、ほとんどは男性客……しかもアニメが好きな人が多い。
そんなとこに連れて行くのは少々気が進まないものの、行ってみたいと言われたら連れて行くしかないだろう。
「ここだけど大丈夫?」
駅前から少し歩いた裏路地に、月に一度は行くお店がある。
「メイド、喫茶?」
看板にはメイド喫茶と書かれており、それを見た姫乃がキョトン、した何とも言えない顔になった。
アニメとかにあまり興味がない姫乃にとって、メイド喫茶は未知の領域だろう。
「そう。嫌なら変えるけど」
「大丈夫です。タカくんが来る場所ですから」
一瞬だけいかがわしい場所だと思ったのか少し頬が赤くなった姫乃だが、すぐに普段の顔に戻る。
そもそも制服を着ていては変なお店に入れないし、隆史がそういったとこに行くわけがないと思ったのだろう。
初めて来る人にとってはメイド喫茶が少しいかがわしいお店と思われても仕方ないかもしれない。
スタンド看板にはメイドさんの写真が貼り出されているし、可愛い女の子が多いのだから。
でも、メイド喫茶の特集でたまにテレビでやっているので、実際はいかがわしいことなんて全くない。
あくまで客がメイドさんとお話したり、メイドさんのステージを楽しんだりする場所だ。
飲食代は普通のファミレスなんかより高いが。
「入りましょう」
「分かったよ」
初めて入るからか少し緊張したような顔になった姫乃と、共にメイド喫茶へ入っていく。
「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様」
店内にいるメイドさんに愛想良く出迎えてもらった。
いきなりお嬢様と呼ばれて戸惑っている姫乃だが、メイド喫茶というのはこういう所なので慣れてもらう必要があるだろう。
また一緒に来るかどうかは分からないが。
「こんなとこで働き出したのか……」
出迎えてもらったメイドさんは良く知った中学時代の後輩だった。
良く知った、と言っても麻里佳経由で知り合っただけなため、そこまで仲が良いわけではない。
「げっ……先輩」
あからさまに嫌な顔になった後輩――春日井美希は麻里佳に強い憧れを持っているので、良く一緒にいる隆史を見る度に邪険にしてくる。
麻里佳は中学の時に生徒会長をしていたこともあり、麻里佳に憧れている女子は多い。
ただ、隆史が関わると麻里佳の性格が変わってしまうだけだ。
そして中学の生徒会には麻里佳の特権で隆史も入る羽目になった。
肩ほどまである亜麻色の髪、長いまつ毛にキャラメル色の大きな瞳、整った顔にスベスベな乳白色の肌だから美少女なのだが、お店で働いているメイドさんが嫌な顔をしたらダメだろう。
麻里佳に強い憧れを持っているのに違う高校に行ったのは、見た目に反してかなり頭が良いからだ。
中学時代のテストでは常に学年首位で、美希は推薦で私立の高校に入学した。
アルバイトを始めたってことは、既に十六歳になっているのだろう。
どうやら美希が通っている高校はアルバイトしても問題ないようだ。
「お知り合いですか?」
「そうだな。一つ下の後輩」
コレ、と言わんばかりに指を差すと、美希が「むう……」と不満そうに頬を膨らます。
「女の子に指を差さないでください。てか先輩が麻里佳先輩以外の女の子と一緒にいるの初めて見たんですけど、もしかしてフラれました?」
「フラれたよ」
「あらあら。それはご愁傷様です」
何故か両手を合わせて哀れみの目でこちらを見てくるが、間違いなく「フラれてやんの。今まで麻里佳先輩を独占した罰だ。ざまあみろ」と思っているだろう。
普段はあざと可愛い後輩なのだが、本当に隆史に対してだけは毒舌だ。
よほど麻里佳と一緒にいる男が嫌なのだろう。
「麻里佳先輩にフラれて銀髪美少女にジョブチェンですか?」
「転職みたいに言わないでくれる?」
「そうでした。先輩と一緒にいてくれる女の子は貴重ですし、きちんと対応しないといけないですね」
笑顔で毒を吐く美希は本当に腹黒だ。
麻里佳の前では常に笑顔を絶やさないし、毒舌になることはないのだが。
「あ、私は春日井美希です。あなたは?」
「タカくんのクラスメイトの白雪姫乃です。私は春日井さんのことは嫌いみたいです。タカくんのことを悪く言うので」
初対面の相手にそう宣言した姫乃の顔は明らかに不機嫌で、一緒にいる隆史のことを悪く言われたからだろう。
以前信用していると言ってくれたのだし、その人のことを悪く言われれば機嫌も悪くはなる。
どうやら姫乃は隆史を悪く言う相手が嫌いらしい。
「お、おう……すいません」
あまりの迫力に驚いたのか、美希は一歩下がって謝った。
「てか早く席に案内してくれないか?」
「分かりました。こちらです」
すぐさま笑顔に戻った美希に席まで案内してもらった。




