白雪姫とのバカップル認定?
キリが良さそうなのでもう1話。
「白雪姫に彼氏があぁぁ」
手を繋いで教室に着いた瞬間、こちらを見た男子生徒たちから悲鳴みたいな声が聞こえた。
学校一の美少女で白雪姫と呼ばれる姫乃が男と手を繋いで登校してきたため、彼女を好きな男子たちが嘆いているようだ。
登校中も手を繋いでいたし、ましてや引き寄せてイチャイチャしたことにより、もう姫乃には特定の男が出来た、と思わせることが出来ただろう。
これで姫乃のことを諦める男子が大勢いるだろうし、女子たちから嫉妬による虐めがなくなるはずだ。
ただ、姫乃を見ると明らかに恥ずかしがっており、「あう……」という声を出している。
こちらももちろん恥ずかしいが、我慢して姫乃を連れて席に向かう。
登校しただけで終わり、では意味がないため、休み時間も一緒にいる必要がある。
教室ではこのまま手を繋いでいる必要はないかもしれないが、姫乃が恥ずかしそうにしながらもしっかりと手を握ってくるから離すのを止めた。
隆史は自分の席に鞄を置き、周囲の視線を集めながら姫乃の席に向かう。
ある程度の視線は集まると思っていたが、まさかクラスメイトのほぼ全員が見てくるのは完全に予想外だった。
今まで麻里佳と一緒にいた時もある程度の視線は集まっていたものの、こんなには初めてだ。
多少なりとも慣れているからいいが、それでも気分は良くない。
「その、ごめんなさい」
「気にしなくていいよ」
心配そうにしている姫乃の頭を撫でる。
ん、と甘い声を出した姫乃の顔は明るくなり、本当に撫でられるのが好きなんだな、と再び実感した。
「ああぁぁぁ……白雪さんが恋する乙女の表情をしてるうぅぅぅ」
今にも血の涙を流しそうな悲しい声だ。
彼女を好きな男子からしたら実質失恋みたいなものだし、悲しくなる気持ちは分かる。
隆史自身、先週失恋したのだから。
でも、姫乃が女子から虐められなくなるのと、隆史の失恋の傷が塞がるまで我慢してほしい。
ただ、何故か姫乃が他の男子と仲良くしているのを想像すると、心の奥底でモヤっとした不快な気分がした。
何故するのか良く分からないが、少なくとも姫乃と一緒にいたいと思っている。
「でも、白雪さんが幸せなら俺はそれで……」
どうやら既に諦め始めた男子もいるようだ。
元々あまり接点のない男子だろうし、憧れがあっただけなのだろう。
本気で好きなのであれば、すぐに諦めるようなことは出来ない。
「高橋は式部さんが好きなんじゃないのかあぁぁぁ」
先ほどから教室が阿鼻叫喚で、耳を塞ぎたいほどだ。
実際に隆史が好きなのは麻里佳なため、男子生徒が言ったことは間違いではない。
だから本当に耳を塞ぎたくなってしまう。
煩いのは主に男子で、女子は興味ありそうな視線、「やっと彼氏を作ったのね」と清々しそうな声も聞こえた。
恐らく今言った女子は姫乃の虐めに関わっているだろう。
今すぐにでも「姫乃に謝れ」と言ってやりたいが、隆史はグッと堪えた。
ここで言ってしまうと姫乃が虐められていたことが公になってしまうし、多分彼女は虐められたことを知られたくないだろう。
だから我慢したのだ。
それに女子たちは「虐めた証拠があるの?」と言ってきそうなので、確たる証拠がないと言っても無意味だろう。
でも、女子たちは姫乃に特定の男が出来て清々していそうなため、もう大丈夫なのかもしれない。
姫乃に彼氏が出来て傷心しているイケメン男子を自分が慰めてゲットしてしまおう、と考えているだろう。
まともに話したこともない女子が彼氏を作ろうとどうでもいいことなので、その当たりは好きにすればいい。
「教室でもこんなにイチャイチャ……完全にバカップルじゃないか」
ただ、手を繋いでいるだけだが、見ている男子は隆史と姫乃がバカップルだと思っているようだ。
(確かにバカップルかもしれない)
麻里佳と手を繋ぐことが普通だったために恥ずかしさはあるものの、手を繋ぐことが恋人同士がすることだと分かっていなかった。
今までやってきたのがバカップルがすることだと実感した隆史は、これ以上ないくらいに身体が熱くなる。
「私とタカくんがバカップル……」
えへへ、と姫乃は何故か嬉しそうな笑みを浮かべた。
(勘違いしそうになる)
あくまで姫乃は女子から虐められなくなるためにやっているだろうし、バカップルと言われてそこまで嬉しいはずがない。
でも、本当に嬉しそうな笑顔を見せられては勘違いしそうになるし、あまりの可愛さにドキっとして心臓の鼓動がさらに早くなる。
(俺が好きなのは麻里佳のはずなのに……)
二人の女の子が頭の中から離れず、隆史は予鈴がなるまでモヤモヤしていた。
ここでポイント増えてくれることを祈ります。




