白雪姫と一緒に朝ご飯と少しの気持ちの変化
密かにもう一話投稿してみる。
「タカくん、起きてください」
自分を呼ぶ優しい声が聞こえ、隆史は重い瞼をゆっくりと開けた。
寝起きで少し視界が悪いが、目の前には白い髪と青い瞳が目に入る。
「おはよう、ございます」
「おはよう」
ボーッとしながらも、隆史は姫野に挨拶を返す。
抱きしめながらのために緊張しすぎて寝付いたのは日付が変わってからだったが、次第に頭が覚醒してくる。
ただ、覚醒するとともに、恥ずかしい気持ちが溢れかえってきてしまう。
朝なのに身体が熱いが、それでも何故か離したいとは思えなかった。
恐らく恥ずかしいのは姫乃も同じで、かなり……いや、顔全体が熟れた林檎のように赤くなっている。
恥ずかしそうな顔をしている姫乃も、離してほしくはなさそうだ。
「朝も、タカくんに抱きしめてもらうと、凄い安心します」
本当に安心していると伝えるためか、姫乃は隆史の頬に手を当てる。
「だから……いつでも抱きしめて、いいですから」
恥ずかしそうに言ってきた姫乃は、照れすぎるのか自分の顔を隠すように隆史の胸に埋めた。
胸の中で「あう……」という声が聞こえたのは気のせいではないだろう。
抱きしめられるのは姫乃にとって慰めてもらうのと同義なはずだし、抱きしめられて安心したいのかもしれない。
「そろそろ起きて、ご飯食べない?」
ずっとこのままの状態では心臓に悪いため、抱きしめていたい気持ちはあれどご飯を提案した。
身体が熱くなっている影響でカロリーが消費されたようで、隆史はお腹が空いている。
早く姫乃の手料理を食べたいという気持ちがあった。
美味しいのだし、食べたいと思うのは普通のことだ。
「分かりました。作りますね」
少し残念そうな顔をしながらも、姫野は離れてご飯を作りに行った。
☆ ☆ ☆
「いただきます」
テーブルに朝食が用意され、隆史は座って朝ご飯を食べ始める。
本日は洋食で、マーガリンが塗られたトーストにハムとサラダだ。
トーストなんて誰が作っても味なんて変わらないだろうが、何故か姫乃の作ったトーストはあり得ないほど美味しかった。
外はサクサク、中はフワフワという自分好みの食感だからかもしれない。
麻里佳の作るトーストも同じ食感なのだが。
「姫乃の作る料理は何でも美味しいね」
「ありがとうございます。タカくんに言われると嬉しいです」
頬を赤くしながらトーストを食べる姫乃は可愛く、このタイミングで改めて白雪姫と呼ばれるに相応しいな、と思った。
学校では何でも淡々とこなしているため、恐らく男子の中では恥ずかしがっている姫乃を見れるのは隆史だけだろう。
自分だけが見られる特別感を覚えて、何故か嬉しい気持ちになった。
麻里佳が好きなはずなのに他の人を独占したいという気持ち……隆史はどうしていいか分からなくなる。
好きな人を独占したいだけならまだしも、他の女の子を独占したいなんておかしな話だ。
でも、もし姫乃が他の男子と仲良くしてたら間違いなく良い気持ちにはなれない。
いくら女子たちから虐められないようにするために一緒にいるとはいえ、独占するのは間違いだろう。
「その、あーんってしますか?」
香ばしく焼かれたハムをフォークに刺した姫乃は、隆史の口元に持ってくる。
未だに慣れないものの、あーんってしてくれるのが嬉しくなって口元にあるハムを食べた。
焼き加減も丁度良く、ウスターソースで味付けされたハムは絶品だ。
「あの……これからは私にご飯を作らせてくれないですか?」
「え? ご飯を?」
「はい。タカくんを見てると式部さんと一緒にいたい気持ちはあるけど、少し辛いように思えます」
確かに好きな人と一緒にいたいが、フラれたから話せても辛い時がある。
「私がいればタカくんを慰めてあげることが出来ます。辛い時はいつでも私を頼って、ください」
「分かったよ」
真剣そうな瞳を向けられたので、隆史は首を縦に振った。
女子たちから虐められなくなるために一緒にいるだけでなく、辛い時はお互いに慰め合おう、ということだろう。
いつでも慰めてもらえる相手がいることは精神的に楽になり、隆史にとって姫乃と一緒にいるメリットでもある。
ただ、学校でも一緒にいるから、確実に男子から嫉妬の視線を向けられるだろう。
女子たちから敬遠されている姫乃は、白雪姫と呼ばれるくらいに男子からは人気があるのだから。
もし、嫉妬の視線を向けられてストレスが溜まってしまったのであれば、姫乃に慰めてもらえばいい。
「ありがとう」
「いえ、お礼を言うのは私の方です。一緒にいることは私の保身にもなるのですから」
確かに一緒にいれば女子から虐められなくなる可能性が上がり、お互いにとってメリットがあるからの提案だろう。
「でも、今日は家に帰るけど。麻里佳と約束したから」
昨日に明日は一緒に食べるから、とメッセージをしてしまったため、帰らなかったら麻里佳のお怒りを買うことになる。
だから姫乃には申し訳ないが、今日だけは帰らないといけない。
「分かりました。なら私も一緒に行ってもいいですか? 式部さんと話してみたいですし、私がいれば少しでも楽になるかと思いますので」
「ん。大丈夫」
そういった約束をした隆史は、美味しいトーストにかぶり付いた。




