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傷の舐め合い

「お見苦しいとこをお見せしてすいません」


 夕日で空全体が赤くなり始め、泣き終わった姫乃は隆史から離れた。


 カーカー、とカラスの鳴き声が聞こえ、後数十分も立たずに日が沈むだろう。


「気にしなくていい」


 辛い時は誰かに頼るものだ、と口にした隆史は、目を真っ赤にしている姫乃の頭を撫でる。


 今まで美少女である幼馴染みと良く一緒にいたおかげか、姫乃と触れ合うことに抵抗がなかった。


 幼馴染みがいなかったら、今日まともに話したばかりの女子の頭を撫でれなかっただろう。


「ん……でも、高橋くんも辛いはずなのに……」


 頭を撫でられて気持ち良さそうな声を出した姫乃は、自分も辛いはずなのにこちらの心配をしてくれているらしい。


 それだけでフラれたショックが和らいでいくのが分かった。


「大丈夫」


 今も全く辛くないわけではないが、姫乃と話せたおかげでだいぶマシになっている。


 おかげで家に帰って泣くことはなさそうで、趣味であるアニメを見ることが出来るかもしれない。


「高橋くんは優しいのですね。その優しさに甘えてしまいました」

「いいよ。俺の胸であればいくらでも貸すから」


 胸で泣かれたおかげでブレザーとワイシャツがびっしょりと濡れているが、男として名誉ある濡れ方と言ってもいいだろう。


 少しであろうとも女の子を慰めることが出来たのだから。


「まあ、そんなことない方がいいんだろうけど」


 女の子が辛くて涙を流すなどない方がいいに決まっている。


「そうですね。でも……高橋くんの胸は、とても安心、出来ました」


 頬を赤く染めている姫乃からの甘い言葉のように思えた。


「私が慰めて貰えましたし、今度は高橋くんが私の胸で慰められる番、です」

「……は?」


 予想だにしてない言葉に頭を撫でたままフリーズしてしまう。


 私の胸で慰められる番……つまりはあの大きな膨らみに顔を埋めるということだ。


 男の胸に顔を埋めるのとは訳が違う。


「高橋くんも辛いはずなのに慰めてくれて本当に嬉しかったです。だから私の胸であれば、貸してあげても、いいです」


 いくらお返しといっても胸を貸すのは恥ずかしいらしく、姫乃は髪の隙間から見える胸まで真っ赤になっていた。


 恥ずかしいなら言わなきゃいいのだが、どうしても自分の胸で慰めたいようだ。


 いわゆる傷の舐め合いをしようということなのかもしれない。


 もし、このまま慰めたいお礼に抱かせて、と迫ることも可能……いや、流石にそこまでは無理だろう。


 男性経験皆無ということだし、初めては好きな人としたいと思うのが普通だ。


「どう、したのですか?」

「いや、流石にそれは……」


 いくら美少女である幼馴染みと一緒にいるからと言えど、女性の胸に顔を埋めるなんてことに慣れているわけもなかった。


 でも、男の本能として女性の胸に顔を埋めてみたいと思ったのは事実であり、理性と本能が頭の中で戦っている。


 純潔な姫乃が自分の胸で慰めてあげる、と言ってきたのは、本当に感謝していると同時に借りを返したいからだろう。


 なので本能が勝って襲いかかるわけにはいかない。


 フラれた初日に他の女性を抱くなんて軽い男だと思われてしまうのだから。


「白雪の厚意を利用して襲いかかるかもしれないぞ」


 放課後になってからだいぶ時間がたち、学校に残っているのは先生と部活動をしている者たちだけだろう。


 屋上なんてあまり人が来ない場所だし、襲われても姫乃は助けを求めることが出来ない。


 人があまり来ないのは姫乃に嫌味や妬みを言うために呼び出したことから分かる。


「優しい高橋くんがそんなことをするとは思えません。それに高校生なら無理矢理した時のデメリットはお分かり、ですよね?」


 あくまで胸で慰めてあげるだけで、他のことをしたら後で警察を呼ぶということだろ。


 高校生であっても罪を犯せば逮捕されるし、最悪少年院行きになる。


 そうしたら将来はまともに働くのは難しくなるだろうし、今だけの快楽より将来を求めるべきだろう。


 流石に初めてまともに話した男子に抱かれたいとはビッチじゃないと思わない。


 優しいと思ったのは、自分も辛いのに慰めてくれたからだろう。


「分かった。遠慮なく」


 どうしてもしてほしいということだし、隆史は姫乃に甘えることにした。


 先程まで泣きまくった影響で口の中が乾きつつも息を飲み、両手を広げている姫乃の胸に顔を埋める。


 ムニュ~、と今まで感じたことのない柔らかさと女性特有の甘い匂いに一瞬だけ理性が飛びかけたが、何とか本能を抑えることが出来た。


 距離が近い幼馴染みがいるものの、胸を顔で感じたことはない。


「ごめん、今は泣くことが出来ないや」


 身体中の水分が涙として流れてしまったくらいに泣いた隆史に、今更泣くことは出来ないでいる。


「大丈夫ですよ。辛いのが今でも伝わってきますから」


 辛い想いが胸から伝わってくるのだろう。


「嫌じゃない?」

「嫌だと思ったらそもそも提案していません。今は何も考えず私のむ、胸で癒やされてください」


 実際に顔を埋められてさらに恥ずかしくなったようで、姫乃の鼓動が早く激しく動いている。


 今まで男の顔を自分の胸に埋めさせたことなんてないだろうし、恥ずかしくても仕方ないだろう。


 隆史はフラれたショックを姫乃の胸で慰めて貰った。

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