無自覚でくる白雪姫は特級相当
「あ、あーん」
時刻は十二時過ぎ、熱々のお粥を作ってくれた姫乃はスプーンでお粥をすくい、「ふーふー」と息を吹きかけて冷ましたら隆史の口元に持ってきた。
もう一度寝たからだいぶ体調が良くなってきた隆史は上半身を起こし、姫乃の献身的な看病を受けさせてもらっている状況だ。
「自分で食べれるから」
前に体調を崩した時に麻里佳にあーんで食べさせてもらったことはあったが、知り合って間もない姫乃にやってもらうのは恥ずかしい。
幼馴染みとは距離が近いから大丈夫だったのとは訳が違う。
風邪とは違う感覚で身体が熱くなり、頬は真っ赤に染まっているのだろう。
恥ずかしくて姫乃の顔をまともに見ることすら出来ない。
「ダメです。タカくんは病人なんですから大人しく食べてください」
ぷくー、という声が聞こえたので、恐らく姫乃は頬を膨らましているのだろう。
可愛く怒っている姫乃を見てみたい気持ちはあるが、本当に見れない。
「早く食べないと冷めちゃいますよ。あーん」
確かにお粥は温かい方が美味しいだろう。
すーはー、と深呼吸をして覚悟を決めた隆史は、目の前にあるお粥を食べていく。
(美味い)
決して濃いわけではないが味はしっかりと付いており、病人でも美味しく食べられる味付けになっていた。
野菜もしっかりと煮込まれているからなのか、甘みがあって本当に美味しい。
自分がお粥を作ったら間違いなく味が濃くなりすぎるか味がないお粥になるだろう。
一人暮らしをしてもう一年はたっているようだし、ある程度の料理は美味しく作れるらしい。
いつか幼馴染み離れしないといけないから自分でも作れるようにならないといけないものの、つい麻里佳に甘えてしまう自分がいる。
(何か情けないな……)
一昨日に慰めてもらっただけではなく、姫乃にご飯を作ってもらったり看病してもらって甘えてしまい、隆史は今の状況が本当に情けないなと思う。
しかも普段から麻里佳という姉のような存在の幼馴染みに甘えているし、小さな頃から甘えてばかりだ。
姫乃からは慰めてもらったと言われたが、実際には抱きしめただけ。
好きな人である麻里佳にフラれてしまったのだし、これを機に自分も変わらないといけないのかもしれない。
「美味しく、なかったですか?」
色々考えたせいで複雑な表情になったからか、姫乃はこちらを見て悲しそうな顔をした。
もしかしたら隆史の表情を見て美味しくないのかも? と思ったのかもしれない。
「美味しいよ。ちょっと考えごとをしてたから。ごめん」
「いえ、体調が悪い時は逆に色々と考えてしまいますよね」
確かに体調が悪い時は何かと考えてしまい、不安になってしまう時がある。
「でも、不安になってもタカくんには、私がいますから」
ニッコリ、と笑みを浮かべた姫乃に本当に勘違いしそうになった。
あくまで慰めてもらったお礼で看病してくれているのだし、あの破壊力抜群の笑顔に騙されてはならない。
決して姫乃は笑顔を振りまいて周りの男子を惚れさそうと考えているわけではなさそうだし、無自覚にやっているのだろう。
ただ、普段教室で見る笑みとは何かが違う気がした。
学校では意識的に作っているように見えるのに対して、今の笑みは無意識に自然と出た感じだ。
やはり慰めてもらったのが相当嬉しかったのだろう。
「はい、あーん」
お粥は全部あーんってされながら食べる羽目になった。
☆ ☆ ☆
「ご馳走様」
「お粗末様でした」
あーんってされるという恥ずかしい想いをしながら食べる羽目になった隆史は、風邪とは違った身体の熱さを感じた。
今までもっと恥ずかしいことをしたのにも関わらず恥ずかしいと感じるのは、少し……ほんの少しだけ姫乃を特別に感じたからかもしれない。
あくまで好きな人は麻里佳だが、一昨日からこうも濃厚な絡みをしては特別視せずにいられなかった。
幼馴染みにされても平気だったのは、やはり昔から一緒にいるのが大きいのだろう。
長年一緒にいればある程度恥ずかしいことも出来る。
「その、顔が赤くなっていますけど、熱が上がったんですか?」
「え? そんなことないと思うけど」
身体に熱さは感じるものの、絶対に風邪のせいではない。
「失礼、します」
「ちょっ……」
熱があるのを確かめるためなのか、姫乃は隆史のおでこに自分のおでこをくっつけた。
デジタル社会の現代は体温計という便利な物があり、本来であればそれを使うだろう。
でも、何を思ったのか、姫乃はおでこで熱を測ってきた。
吐息が感じられるほど近く、少し近づけただけで桜色の唇に自分の唇を触れさせることだって出来る。
吐息すら甘い匂いだ。
「熱はそこまでなさそうですね」
「ないから離れて」
「あっ……すいません」
ようやく自分が恥ずかしいことをしたのに気付いたのか、姫乃は隆史から離れた。
離れた姫乃の頬はあり得ないほど真っ赤になっている。
おでこで熱を測ってもらうのは麻里佳にしてもらったことはあるものの、やはり他の人にしてもらうのは恥ずかしい。
(姫乃は特級相当だ)
そんなことを思いながら、隆史は恥ずかしくてベッドに横になって掛け布団を顔まで被った。




