みんなで墓参り
「お姉ちゃん、久しぶり」
学校が終わった隆史は、真奈の『香奈さんの墓参りに行こう』の一言により、姫乃や麻里佳たちと一緒に姉のお墓まで来ていた。
以前来た時は二年生に進級する前の三月だったため、来るのは約四ヶ月ぶりだ。
前は月に一度のペースで来ていたが、姫乃と一緒にいるようになってからは行っていなかったし、期末テストも終わったので、真奈の提案は丁度いいタイミングだったかもしれない。
「香奈さんの幽霊が学校に通っているのに墓参りする必要あるのかな?」
未だに勘違いしている麻里佳もたまに来てはお墓の掃除など手伝ってくれるが、死んでいるのだからお墓参りするのは当たり前だ。
ほとんどの人は命日とかになるかもだけど。
「あるに決まってるでしょ」
幽霊じゃないのを否定しようにも無意味なため、その辺りについては言わないでおく。
何度言っても信じてくれないのだから。
香苗についてはご愁傷様としか言いようがない。
「俺にめちゃ可愛い彼女出来たから紹介するね。姫乃っていうんだ」
元から肩を抱いてくっついていたが、さらに自身へと引き寄せて紹介した。
「お姉さん、隆史くんとお付き合いさせていただいてます白雪姫乃といいます」
隆史の姉である香奈のお墓の前に来て緊張してしまっているのか、姫乃の頬が赤くて話し方もいつもより少しだけぎこちない。
お墓とはいえ彼氏の姉の前なのだから仕方ないだろうし、隆史も姫乃の母親の前では緊張してしまったのだから。
『めちゃめちゃ可愛い彼女だね。流石私の弟。でも、しばらく来てくれなかったから少し寂しかったぞ』
そう言っているように思えた。
本人がいないから実際には言っていないというのは分かっているが、そう思ってしまったのだから仕方ない。
「掃除しようか」
約四ヶ月ぶりに来たから以前より少し汚れてしまっている。
姫乃と濃厚な時間を過ごしていたから来れなかっただけだが、お詫びにきちんと掃除するつもりだ。
掃除は少し苦手なものの、大好きな姉のためなら頑張れる。
線香は掃除が終わったらあげるつもりだ。
「そうだね。隆史くんが姫乃ちゃんに夢中になって掃除サボってたみたいだし」
お墓の汚れ具合から察したらしい真奈は、ニヤニヤ、と笑みを浮かべている。
確かに夢中になってしまったが、そんな顔しないでほしい。
いくら姉のことが好きであったとしても、思春期あたりから周りにいる異性を好きになってもおかしくないのだから。
「それは否定しないけど、ここで茶化さないで」
香奈のお墓の前で言われると恥ずかしくて文句を言ってしまう。
でも、大抵の人は毎月お墓参り行くってことはないはずだし、少しくらいはきっと許してくれる。
だからと言ってサボりたいわけではないが。
「タカくんが望むなら毎月私も一緒にお墓参り行きますよ?」
家族は大切にしたいとダメですよ、と言われているかのような気分になった。
家庭環境が良ろしくない姫乃からしたら、亡くなってる家族であっても大事にしないとダメだと思っているのだろう。
父親から大好きな母親と一緒に暮らすのすら許されない、妹からは嫌味を言われるのにそう言える姫乃は凄い。
普通だったら精神的に病んで家族のことを嫌いになるだろう。
でも、姫乃は明らかに嫌いにまではなっていない。
クラスメイトに悪口とか言われて傷ついたことはあれど、実際には強い心の持ち主だ。
「そうだね。これからは一緒に行こうかな」
「はい」
嬉しそうに返事をした姫乃や真奈たちと共にお墓の掃除をした。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「ふう。暑いから疲れたね」
もうすぐ梅雨が明けるからなのか今日は雨が降っておらず、強い日差しがある中の掃除は体力を消耗しながらも何とか掃除を終えた。
ふう、とため息を吐いて手で汗を拭い、カバンに入っているペットボトルのお茶を飲む。
流石に少し緩くなっているが、汗をかいた後に飲むと凄い美味しい。
皆も汗をかいて喉が渇いたのか飲んでいる。
「さてさて。線香あげよ」
家から持ってきた線香を取り出した真奈は、一人一人に渡していく。
お墓参りに来て線香をあげない人などいないだろう。
チャッカマンを使って線香に火を付けた後、火の勢いを殺すために左右に降っていく。
勢いが無くなって煙が出るようになった線香を香炉にある灰にさす。
(お姉ちゃん、今は皆のおかげで幸せにやってるから見守っててね)
両手を合わせてそう頭の中で思う。
少しどころか大分意味不明な人もいるが、それでもここにいる人たちのおかげで幸せだ。
彼女も出来て甘々でエロエロな生活を送っている。
もし、天国からこちらの世界を覗けるのであれば、病んでた隆史を香奈はかなり心配していただろう。
でも、今は皆のおかげで立ち直れて元気だから安心しているはずだ。
姫乃は直接会ったことあるわけではないが、きちんとお参りしているし、皆もちゃんとしている。
皆と少し雑談した後にお墓から離れた。




