幼馴染姉妹の想い
「たっくんに甘えられたいよぉ」
自分の家に帰ってきた麻里佳は、ベッドで横になりながらふと思っていることを口にした。
弟だと思っている隆史が姫乃と仲良くなって以降、ほとんど一緒にいることが出来ないからだ。
それ以前もずっと一緒にいるわけではなかったが、今年の四月から話す機会が本当に減った。
お風呂に入って身体はポカポカと暖かいはずなのに、隆史に甘えられていないからどんどんと冷えていくように感じる。
「麻里佳ちゃんが隆史くんの告白断るからだよ」
久しぶりに姉妹でお風呂に入って何故か麻里佳の部屋にいる真奈は、缶ビールを開けてグビグビ、と飲み始める。
二十歳になってから真奈はビールの美味しさに気づいたようで、ここ最近は毎日飲んでいるみたいだ。
法律上は何も問題ないから飲むのは勝手だが、高校生の妹の部屋で飲むのはどうかと思う。
「だってたっくんは弟だし……」
「でも隆史くんは姉弟じゃなくて恋人同士になりたかったから告白したんだよ」
図星を言われてぐうの音も出なかった。
確かに姉弟でいたいのであれば告白なんてしてこないし、してきたのは隆史なりの覚悟の現れだったのだろう。
ただ、姉弟の関係でいたかったから恋人同士になるのは避けたかったから告白は断った。
「まあ今は姫乃ちゃんにベタ惚れみたいだけどね」
今の隆史は彼女である姫乃にべったりくっついて離れない。
学校ではクラスが違うから詳しくは分からないが、一緒にいる時の二人はずっとイチャイチャしている。
「姉弟みたいな感じに育ったとしても、二人は血が繋がってるわけじゃないんだし、付き合っちゃえば良かったじゃない」
「で、でもでも、付き合ったらエッチなことを……」
隆史に抱かれるシーンを想像して身体が熱くなった。
思春期の男女が付き合えば最終的にすることなんて一つしかない。
でも、抱かれるシーンを想像しても、恥ずかしいだけで嫌な気持ちはなかった。
他の人なら絶対嫌だと思うだろう。
「付き合ってエッチなことをしないなんてその内別れちゃうよ。結婚したら子供作るためにするんだから」
早速お酒が回って酔い始めたであろう真奈がぶっちゃけた。
子孫を残すことは本能であり、そのための行為をするというのは当たり前ではある。
「私は隆史くんだったら抱かれてもいいとは思ってるけどね。実はさ、上京する前に私の初めて貰ってってお願いしたことあるんだけと断られちゃった」
さらにぶっちゃけた真奈は、どうやらすぐにお酒に酔う体質らしい。
その割には飲むペースが早いが、今はそんなことどうでも良くなった。
どうしても聞きたいことが出来たからだ。
「たっくんにお願い? え? 何で?」
「何でって……男の人だったら隆史くんが一番好きだからだよ」
そんなこと今まで一度も聞いたとこなかったが、お酒に酔っているから話したのだろう。
つまみに砂肝や枝豆をテーブルに並べている時点でおっさん臭いな、と思いつつも、真奈が隆史を好きなのことを初めて知った。
普段は可愛い女の子が大好きで手当たり次第声をかけるレズみたいな行動を取るが、抱かれてもいいなんて思っても見なかったことだ。
「お姉ちゃん、たっくんに猛アタックして彼氏にする気ないの?」
「ないよ。だって隆史くんが私を好きでないの分かりきってたし、そもそもその時隆史くん中学生だしね」
でも、あの時の隆史くんは顔を真っ赤にして可愛かったなぁ、と口にした後にまたビールを飲む。
「それに姫乃ちゃんという彼女がいて隆史くんを彼氏に出来るとは思えないよ。隆史くんは身近にいる人を好きになる傾向があるから上京してる私じゃ勝ち目なしい」
今は実家に帰ってきているけど、これからも大学はあるし、もう少ししたら就活だって始めないといけない真奈は、ペロっと舌を出した。
隆史の初恋は明らかに姉である香奈だし、その後は姉のような関係の幼馴染である麻里佳を好きになっていることから身近にいる人を好きになる傾向があるのは見ていれば大抵の人が分かるだらう。
「お姉ちゃんが隆史くんと結婚してくれれば、もっとお姉ちゃんになれるのになぁ」
つい呟いてしまった。
あれだけ周りに美少女がいるのに一切手を出さずにいるし、今では一途に姫乃のことを愛している隆史が、浮気なんてするはずもないだろう。
だから今更猛アタックしても無意味だと分かってはいても、心が何か嫌だと感じてしまった。
彼女がいて嫉妬してしまっているのか、それとも本当の意味での姉になれないから嫌だと思っているのかまでは分からない。
以前に告白を断ったことに後悔してしまったと思ったが、そんなことを呟いたからやっぱり姉でいたいと思っているのだろう。
もし、彼女がいてほしくないのであれば、お姉ちゃんと結婚してほしいなんて言わないのだから。
「麻里佳ちゃんって不憫な生き方してるよね」
「私はたっくんのお姉ちゃんでいたいんだもん」
やはりどうしても姉でいたい気持ちが強かった。




