みんなで人生ゲーム 3
「香苗ちゃん、香苗ちゃん、私たちも隆史くんみたいにしたいわ」
人生ゲームが始まるからみんなが床に座った。
全員椅子に座れればいいのだが、残念ながら全員分の椅子がないから床に座ってするしかない。
普通は人生ゲームの周りをみんなが囲むだろうが、隆史の膝の上に姫乃が終わっており、真奈は同じことを香苗としたそうだ。
「嫌ですね」
「そう遠慮せずに」
「してません」
何度断られても折れない真奈のハートは強靭で凄い。
「ちゃっちゃと人生ゲーム始めるよ」
真奈の暴走をいつまでも見ているわけもいかず、隆史はパンパン、と両手を叩いてゲームをすることにした。
人生ゲームは小学生以来だし、真奈によって手作りのに差し替えられていたが、大まかなルール自体は変わっていないだろう。
少し前にテレビでやっていてSNSのフォロワー数で勝負が決まる人生ゲームもあるものの、真奈が作ったから昔やったお金持ちの人が勝つルールで変わらないはずだ。
「私から時計回りでいいかしら?」
「いいよ」
ゲームを作った真奈が最初にやるのがいいだろうし、みんな賛成しているかのようだった。
百合百合人生ゲームと言われて反対したいのは、少し興味があるからかもしれない。
怖いもの見たさでホラー映画を見るなと同じ感じなのだろう。
ゲームで何が起きようと現実には何も問題ないのだから。
「何としても香苗ちゃんと結婚するわよ」
気合いを入れたであろう真奈が二つのサイコロを転がす。
人生ゲームの多くはサイコロじゃないはずだが、これは手作りだからサイコロなのだろう。
「合わせて七ね」
サイコロの目は二つ合わせて七になったため、香苗はゴムで出来た小さいな車を七つ先まで進ませた。
この車が人生ゲームで使うコマだ。
「残念。何のイベントもないわ」
人生ゲームは止まったマスに応じてイベントが発生したりするが、真奈はイベントがないマスに止まってしまった。
残念そうな声を出した真奈は、早く香苗と結婚したくてしょうがない、と思っているだろう。
現実ではあり得ないことも出来るのがゲームの良いところだ。
「次は私ね」
隣というか真奈にゼロ距離で座らされている香苗の番になりサイコロを降る。
人生ゲームをするから抵抗するのを止めたらしい。
「十ね」
自分のコマを進めていく香苗は、最大である十を出した。
「何か書いてあるわ」
真奈のマスと違って香苗の止まったマスには何か書かれている。
人生ゲームにはイベントがつきものだからほとんどのマスに何かしら書かれており、先ほどの真奈みたいに何も書かれていない方が珍しい。
普通は大小なりともイベントがあったりするものだ。
「何々……両親が宝くじを当ててお小遣いを百万貰う」
香苗が読み上げる。
この人生ゲームは最近流行っているSNSフォロワーの数を競うのではなく真奈が勝手に作ってため、普通のとはかなり違うらしい。
いきなり百万も貰えるからイージーな人生ゲームだということが想像出来る。
両親から百万貰ったとなると、どうやら成人していないようだ。
「この百万使ってお姉さんといいことしない?」
「しません」
はあはあ、と荒い息をあげて聞いてきた真奈の質問を一蹴した香苗が本当に可哀そうだが、こればっかりは何を言ってもダメかもしれない。
憧れている人と瓜二つの人が現れたのだし、真奈の気持ちが分からないわけではないからだ。
流石に本当に襲い掛かろうとしたら止めるが、いくら真奈でもそんなことはしないだろう。
家族ぐるみで付き合いしてる人が罪を犯して刑務所行きとか勘弁願いたい。
「次は俺だね」
唯一の男プレイヤー、姫乃を膝の上に乗せている隆史の番になったためにサイコロを振る。
「一……」
いきなり一が出た。
こればっかりは運だからどうしようもないが、最初から一が出るのはテンションが下がる。
そもそもサイコロも手作りみたいで何故かゼロがあるのに驚きだ。
「いきなり一が出たから一回休みって悪意ない?」
駒が止まったとこを見るとそんなことが書かれていた。
この人生ゲームは真奈の手作りなのだから彼女の欲望のままに書かれていてもおかしくないが、この書き方は悪意があると言いざるを得ない。
普通の人生ゲームにそんなことを書きはしないのだから。
「そんなことないよ。隆史くんは姫乃ちゃんっていうSSR級の美少女を彼女に出来たんだからそれで運を使っちゃっただけ」
確かに超絶美少女を彼女に出来たが、それだけで全ての運を使うわけがない。
隆史の愚痴を未だに香苗にくっつこうとしている真奈からのひがみのような感じで返された。
「人生ゲームでもタカくんと付き合えるように頑張りますから」
胸板に頬を摩りつけて甘えている姫乃は、本当に人生ゲームで結婚したいようだ。
百合専用の人生ゲームに男女で結婚出来るかなんて分からないが、少なくとも姫乃は結婚する気でやるだろう。
よし、と息巻いた姫乃がサイコロを振る。
「三ですね」
一、二、三、と駒を進めた姫乃が止まったとこの字を見た。
「親からお小遣いを一万貰うですね」
まあ普通といった感じのマスで安心したようだ。
いきなり付き合うとかないだろうし、最初はお金を増やしたり勉強したりというのが多いだろう。
いや、作ったのが真奈だからいきなりエロ展開というのもあり得るかもしれない。
「さあ、どんどん行こう」
テンションが高い真奈の声で人生ゲームが続くのだった。




