あざとい後輩は積極的
「……何か最近、先輩の周りに女の子増えましたね」
香苗が家にやってきて十分ほどたった後、何故か美希まで来て呆れていた。
確かに少し前と比べて周りに女の子は増えたが、こちらとて望んでいるわけではない。
姫乃が側にいてくれればいいのだから。
増えた、というのは姫乃を始めとした香苗と真奈のことだろう。
姫乃と出会う以前はそこまで女の子と絡みはなかった。
中学時代からの知り合いである美希は香苗と真奈のことは麻里佳な話だけ聞いただけで、実際に見るのは初めてなはずだから仕方ない。
「お前も何で来た?」
姫乃にくっつきながらも尋ねる。
「そんなの決まってるじゃないですか」
ふいに近づいてきた美希は、少し頬を赤らめながらも若干背伸びして自身の口をこちらの耳元まで持ってきた。
吐息が当たって少しくすぐったい。
「お兄ちゃんと仲良くするため、ですよ」
内心は絶対に麻里佳と仲良くするためだろうが、ここはあえて隆史と仲良くするためにしたのだろう。
美希が隆史と仲良くしていれば麻里佳も自分だって仲良くしていいんだ、と思うはずなのだから。
「隆史くんモテモテぇ。この美少女は麻里佳ちゃんの後輩の子かしら?」
「そうだね」
耳元で囁いているのを何故かスルーしたであろう真奈は、早速美希をナンパしたいのもしれない。
でも、憧れであった香奈と瓜二つの香苗がいるからか、美希をナンパしに行こうとしないのだ。
美希のことを知っているということは、以前麻里佳から彼女について聞いたのだろう。
「可愛い子がいるんだし、私じゃなくてその子に行ってくれないかしらね?」
未だにくっつこうと香苗に抱きつこうとしている真奈に必死で抵抗している彼女は、心底離れてほしい、と思っている様子だ。
今日初めて出会ったのだししょうがない。
「私が可愛いのは当たり前ですけど、この人には好かれたくないですね」
本能的に関わってはマズい、と思ったのだろう。
「ちなみに麻里佳の姉だよ」
「本当ですか? 麻里佳先輩の後輩の美希っていいます。よろしくお願いします」
ドン引きしていたかのようにしていた美希だが、真奈が麻里奈の姉と分かって態度を百八十度変えて目を輝かせた。
憧れの先輩の姉なのだから仲良くしたい、と思ったのだろう。
「よろしくね。でも、私は香苗ちゃんに一筋だから」
憧れの人である香奈と瓜二つという理由だけで、真奈は香苗一筋になると決めたようだ。
当の本人である香苗にとっては迷惑極まりないだろう。
出会った初日にこうもくっつかれて、迷惑と思わない人などいないのだから。
「それにしても、この人が先輩のお姉ちゃんそっくりな人ですか。写真を見ましたけど本当にそっくりですね」
抱きつかれそうになっている香苗のことをジロジロ、と見入っている美希は、ここまで瓜二つの人がいるのか? と思っているかもしれない。
隆史自身も初めて見た時も驚いたし、ここまで瓜二つの人は双子でも珍しい。
違う部分を探す方が大変なほどに似ているのだから。
「この子も高橋くんのお姉さんを知ってる人かしら?」
「いや、直接は見たことないよ。写真は見せたことあるから知ってるだけ」
香奈の話をした後に美希に写真をスマホのカメラで撮って送っていた。
あまり仲良くもない香苗の写真を撮ることは出来なかったが、今見て本当に似てると確認を取ったのだろう。
「にしても先輩、麻里佳先輩にお姉ちゃんがいるって教えといてくださいよ。そうすればわざわざ先輩の妹になる必要ないんですから」
いちいち言う必要ないと思ってたし、言っても無意味だから言わなかっただけだ。
「てか、麻里佳からお姉ちゃんいるって聞いてなかったの?」
「はい」
「まあ、真奈姉は上京して一人暮らしだからあまり仲良くなれないよ」
以前に言う必要はないと思ったのは、一人暮らしをしているから普段いないから言っても無意味なだけ。
普段からいるなら既に言って真奈に興味を向けている。
「でも、今の状況を見ると、先輩の方が良さそうですね」
「俺は姫乃一筋だけども?」
隆史の方が良さそう、と思ったのは、真奈が香苗にひたすらくっついているからだろう。
「麻里佳先輩のお姉ちゃんなら是非とも仲良くなりたいんですが、あの人と仲良くなりすぎると危険そうだし、何より無理そうなので」
「俺も無理だけども」
仲良くなりすぎると危険なのは分かるが、生憎と隆史も姫乃一筋だから無理な話だ。
「別に先輩の彼女になりたいわけじゃないです。私は……先輩の妹に、なりたいんです」
再び耳元で甘い囁きをしてきた美希は、どうしても隆史の妹になるのを諦められないらしい。
隆史の妹になることで麻里佳とさらに仲良くしたいと思っているようだが、本当に美希を妹にしたくない。
毒舌な人に興味はないのだから。
「妹はいらない」
「あ……タカくん」
本当に姫乃一筋だから血の繋がりもない、仲良くもない、戸籍も一緒じゃない人を妹にしたい、と思うわけがない、と安心させるために姫乃の顔を自身の胸に埋めさせた。
「もう……先輩は本当にツンデレなんだから。本当は私を妹にしたいんですよね。お兄ちゃん」
ツンツン、を人差し指で隆史の頬を突いてきた美希は、本当に諦めるということを知らないらしい。
それにここまでポジティブなのにも驚く。
「高橋くんの周りには常識人はいないのかしら?」
未だに抱きつかれそうなのを拒否している香苗は、はぁ、と深いため息をついた。