幼馴染みと転校生の絡み
メインヒロインの白雪姫乃のイラストです
「あれ? お客さんかな?」
学校から帰ると、玄関には麻里佳の他にもつ一つ靴が置いてあった。
隆史の姉でいようとするために友達をあまり家に呼ばないのだが、今日は何故か連れてきたようだ。
靴の大きさ的に美希ではないみたいなので、クラスメイトでも連れてきたのだろう。
何故自分の家じゃなくて高橋家に連れてきたのかは不明だが、この際何も言わないでおく。
「高橋くん、この人どうにかして……」
姫乃と一緒にリビングに行くと、やつれた様子で制服姿の香苗が隆史に助けを求めてきた。
ある程度の予想ができ、何度行っても香菜の幽霊だと信じ切っているのだろう。
「じゃあ何で家に来た?」
誘いを断って家に行かなければいいだけの話だが、香苗がこの家に来てしまった時点で負けだ。
「その……家にケーキがあるって言ってたから……」
ケーキの誘惑に負けてしまったらしく、テーブルには食べた跡が残っていた。
あははは……と苦笑いしてから視線を反らした香苗は、よほどケーキが好きなのだろう。
女の子なのだし、甘い食べ物が好きなのは頷ける。
「幽霊も食べ物食べるんだね」
香苗を香菜の幽霊だと信じ切っている麻里佳は、彼女と話せて満足そうな表情だ。
「俺にはどうしようも出来ないから頑張れ」
どうにか出来るのであればもうしているため、隆史は香苗に向かって親指を立てた。
「幼馴染みなのでしょう?」
「そうであっても、出来ることと出来ないことがある」
「そんな……」
はあ……と深いため息をついた香苗は、もう諦めるしかないと思っているかもしれない。
何度言っても聞いてくれないのだし、心底麻里佳に呆れているのだろう。
「アイスもあるけど食べる?」
「いただくわ」
どうやら本当に甘い食べ物に目がないらしく、麻里佳の言葉に香苗の表情が明るくなった。
甘い物は別腹とよく聞くが、食べすぎは身体によろしくない。
スタイルが良さそうなため、食べても太らない体質なのだろう。
「麻里佳、俺もアイス食べたい」
「私も食べたい、です」
「うん。準備するから待ってて」
嬉しそうに頷いた麻里佳は、冷蔵庫があるキッチンに向かっていく。
鼻歌混じりなため、香苗と話して嬉しく思っているのかもしれない。
あくまで香菜の幽霊ではなく香苗なのだが……。
「あなた達って本当にいつも一緒なのね」
椅子に腰掛けた隆史と姫乃を見て、香苗はニヤニヤ、と悪そうな笑みを浮かべた。
前に興味があると言っていたため、色々と聞きたいことがあるのかもしれない。
「バカップルだから」
「あ……」
座ったまま抱きしめると、姫乃が甘い声を出した。
甘い声をずっと聞いていたいが、流石にあまり人様に聞かせるわけにはいかない。
全てにおいて独占したいのだから。
「バカップル過ぎよ」
人前でもイチャイチャしている隆史たちを見て、香苗は「はあー」と深いため息をついた。
どうやらかなり呆れている様子だ。
「お待たせ。アイス持ってきたよ」
冷蔵庫から取り出したアイスを持ってきた麻里佳も椅子に座る。
「香菜さんはバニラが好きだったよね」
相手の意見を聞くことなく、麻里佳は香苗の前にバニラアイスを置く。
確かに香菜はバニラが好きだったが、だからといって見た目がそっくりな香苗が好きだとは限らない。
「バニラ大好きよ」
食べるのが好きそうな香苗にとって、バニラアイスは大好物なのだろう。
カップアイスの蓋を取った香苗は、スプーンを持ってアイスを食べ始めた。
「んんー、美味しいわ」
本当に美味しそうな表情で食べている。
「うんうん。昔もそんな風に食べてたよね」
確かに前にこんな風に美味しそうに食べていた。
香菜とは違うのだが、どうやらアイスが美味しすぎて香苗は麻里佳の声が聞こえていないようで反応しない。
反応しないかはともかく、隆史自身も今の香苗を見て香菜と重なってしまった。
本当に生前の香菜は美味しそうに食べていたのだから。
なんだかな、と思いながら隆史もアイスを食べた。




