あざとい後輩の策略
「せんぱーい、しょうがないので可愛い私に構うことを許可してあげます」
学校が終わって校門を出た時、待ち構えていたかのようにあざとさ全開の美希にウインクしながら言われた。
朝から降っていた雨は止んでおり、これから姫乃とデートしようと思っていた隆史には美希の存在は邪魔でしかない。
手を繋いでいる姫乃も本心ではそう思っているだろう。
「逆ナンは彼女がいるから間に合ってます」
面倒な後輩の相手などしてられず、隆史は美希に手を振ってから帰ろうとする。
「ちょっ……待ってくださいよ」
だけどそう上手くいくわけもなく、美希に腕を掴まれてしまった。
結構強く掴んできたため、そう簡単に帰すわけにはいかないと思っているのなろう。
「何?」
本当に面倒でならないが、流石にここまでされては何も聞かずに帰るわけにはいかない。
不満な表情になってしまうものの、隆史は美希に視線を向ける。
「こんなに可愛い後輩兼妹が構うことを許可してるのに、何でそんな不満そうなんですか?」
むう、と美希が不満そうに頬を膨らます。
本来なら可愛い後輩と離れて嬉しいかもしれないが、これからデートに行くのを邪魔されたのと、毒舌なのに不満がないわけがない。
「不満だからだよ」
はあー、とため息混じりに答える。
いつも姫乃と一緒にいるとはいえデートには行きたいし、出来ることなら彼女を嫉妬させたくない。
少し話すくらいなら問題ないものの、あまり話しすぎると不満がたまるだろう。
「もう……先輩は相変わらずツンデレさんなんですから。本当は私と話せて嬉しいんですよね」
物凄くポジティブなのは置いとくとして、ツンデレというわけではない。
本当に不満だし、ツンツン、と頬を突いてくるのは止めてほしいと思う。
美希にとっては男の子は可愛い私があざとく接すれば嬉しいはず、と思っているようだ。
だから不満そうな態度を見せる人はツンデレと認識してしまうらしい。
確かに彼女がいなくて毒舌じゃなかったら、話しかけられて嬉しいと思うかもしれないが。
「しょうがないので私が先輩を素直にさせてあげますよ」
「ちょっ……」
姫乃と手を繋いでいない方の腕を美希に掴まれてグイっと引っ張られたため、隆史は少しバランスを崩した。
「お兄ちゃん、可愛い可愛い私ともっと仲良くしましょ?」
耳元で聞こえた甘い声は間違いなく美希のだ。
この囁きを耳元で聞かずために引っ張ったのだろう。
それに嫌なのにお兄ちゃんと呼んだのは、よほどのことがあるのかもしれない。
まあ、麻里佳と仲良くしたいためだろうが。
「遠慮します」
麻里佳と仲良くなるために親しい人を利用する……そんな人と仲良くしたいとは思わない。
いや、フラれた傷を癒すために姫乃と一緒にいた隆史が言えることじゃないかもしれないが、美希と仲良くしたいとは思えないのだ。
「もう……私と仲良くするのは麻里佳先輩のためにもなるんですよ」
こんなことも分からないんですか? とヤレヤレ、といった感じのため息混じりに言われた。
「いいですか? 麻里佳先輩は先輩をフったことを後悔しています。いくら弟として思っていたとしても、一緒にいれる時間が極端に減ったからです」
「そうか……」
いつまでも姉弟のような関係が続くのが嫌だったから告白したのだが、今になって麻里佳は断ったのを後悔しているらしい。
恋愛感情がないのにOKされるのは嫌ではあるものの、関係が変われば恋愛感情も生まれた可能性もある。
今更麻里佳と付き合いたいと思わないが。
「大切な弟に彼女が出来て寂しいと思ってます。でも、妹になった私が先輩と仲良くしたら麻里佳先輩も私も仲良くしていいんだって思うはずです」
確かに理にかなっているかもしれない。
今の麻里佳は隆史と仲良く出来なくて寂しい、転校生である香苗を何故か香菜の幽霊だと思いこんでいるため、少なくともどちらかの問題は解決すべきだろう。
それが手っ取り早いのが以前みたいに仲良くすることだ。
「そして先輩の妹である私も自然と麻里佳先輩とさらに仲良く……」
グヘヘヘ、と欲望がただ漏れだった。
毒舌を向けている相手と仲良くしようとするのだし、何かメリットがなければしないだろう。
「確かに麻里佳のことは何とかしたい」
「なら私の案に乗るしかないです」
本当に麻里佳については何とかしたいが、それを姫乃が許すかどうかは別問題だ。
本当の姉弟だったらまだしも、異性と仲良くされれば姫乃が嫌がるだろう。
「私は、タカくんの好きなようにすればいいと、思います」
チラッと視線を向けると、姫乃が笑みを浮かべて答えてくれた。
どうやら麻里佳に関しては姫乃もどうにかした方がいいと思っているらしい。
「でも、だからって春日井さんと仲良くしすぎるとのはダメ、ですよ」
「分かってる」
あくまでもほどほどに、ということで、隆史は麻里佳との呪縛を解くために美希の案に乗ることにした。




