白雪姫と相合い傘
「雨か……」
六月も半ば、学校に向かうために玄関のドアを開けるとしんしんと雨が降っていた。
そろそろ梅雨の時期に突入するため、雨が降ってもおかしくはない。
実際に沖縄は梅雨に入っている。
「雨はあまり好きではありません」
一緒に登校しようとした姫乃は、髪を気にしてか触っている。
雨は髪が痛む原因の一つなのだし、髪を大事にしている姫乃にとっては好きじゃないのだろう。
ただ、髪が雨に濡れなければそれほど問題ないようだ。
なので傘を指して行けば問題ないだろう。
「その……相合い傘、しませんか?」
頬を赤くした姫乃からの提案だった。
既に何度も身体を重ねているのに恥ずかしがっているのは、相合い傘は初めてになるからだろう。
まるで出会った頃のように初々しく頬を赤くしている姫乃が可愛い。
積極的な彼女ももちろん良いが、たまに恥じらってくれるとキュンと胸が高鳴る。
「タカくんとは色々してますが、相合い傘は未経験なので、したいです」
ギュっと腕に抱きついてきた姫乃は、もう自分で傘を指す気がないのだろう。
相合い傘は恋人同士がする定番と言えるかもしれないが、実際にすると肩とか濡れてしまうようだ。
「もちろんいいよ」
彼女からのお願いを断るわけもなく、少しくらい自分の肩が濡れてしまっても相合い傘はしたい。
えへへ、と嬉しそうな表情になった姫乃と一緒に傘を持って外に出た。
☆ ☆ ☆
「えへへ、タカくんと相合い傘、です」
嬉しそうに笑みを浮かべた姫乃は、隆史の腕に抱きつきながらそう言った。
好きな人と相合い傘したいという気持ちがあったのかもしれない。
こちらも嬉しい気持ちはあるが、むにゅぅ、と柔らかな感触と甘い匂いが隆史を襲う。
毎日のように抱いているために、この感触を感じたままは理性が削られていく。
だからといって止めてと言うわけもなく、姫乃の感触を楽しみながら学校へと向かう。
恐らく姫乃はわざと押し付けてきているだろうし、何も言わなくても問題はない。
「姫乃の髪を濡らさないようにしないとね」
自分の身体で最も大事だと言っていたため、髪を濡らすのは何としてでも避けないといけないことだ。
大雨というわけではないが、傘を指さないといけないくらいには強い。
だからサラサラで綺麗な銀髪を濡らさないために傘を少し姫乃よりに傾けている。
「ありがとうございます。優しいタカくんも……大好き、ですよ」
甘い囁きは胸を高鳴らすには充分であり、このまま抱きしめたい気持ちにすらさせる。
キュン死するとはこのことなのだろう。
「いきなりは反則。離したくなくなる」
「離しちゃやぁです」
甘えたような声を出してきた姫乃は、さらに強く腕に抱きついてきた。
二人きりの時だったら間違いなく押し倒しているだろう。
「俺も大好き、だよ」
お返しと言わんばかりに今の心情を伝える。
あう、と恥ずかしそうに頬を赤くした姫乃は、この状態で言われるのに慣れていないのだろう。
抱いてる最中には良く言うが、普段の時はそこまで言わない。
シチュエーションの違いで恥ずかしくなったのだろう。
「タカくんも、反則です」
言い返しただけなのに反則を言われてしまったが、この反応が見れるだけでも口にした甲斐があった。
恥ずかしがる姫乃を見てみたいため、少しSなのかもしれない。
「このドキドキをもっと感じていたいので、やっぱり離すとは出来ません」
抱きつかれているせいか、姫乃の心臓が激しく動いているのを感じる。
沢山抱かれていようとも、恥ずかしくなる時は恥ずかしいらしい。
(もう離すことなんて出来ないよ)
心の中でそう思いながら相合い傘で学校へ向かった。




