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白雪姫の髪をすく

「タカくんに髪をすいてほしい、です」


 学校が終わってから姫乃の部屋を訪れてリビングのソファーに座った隆史に、ワンピースに着替えた姫乃がそう言った。


「髪をすくって……俺にそんなテクニックがあるとでも?」


 髪を切った経験なんてあるわけもなく、切ったらせっかくの綺麗な髪が台無しになってしまう。


 やる前からどうなるかなんて火を見るより明らかだ。


「私は自分の身体で髪が一番大切です。幼い頃はお母さんに切ってもらっていましたが、今は自分で切ってます。他の人には触らせたくないからです」


 本当に髪が大切なのだろう。


 普通は美容室などに行って切ってもらうが、よほど他人に自分の髪を触られたくないようだ。


「俺は付き合う前から姫乃の髪を触ってたよ」


 頭を撫でることが何度もあったし、かなり髪を触っていた。


 もしかしたら最初は頭を撫でられるのが嫌だったかもしれない。


「タカくんは特別、です。むしろ好きなだけ触ってください」


 どうやら心配無用だったようだ。


 自分で髪を切って入れてしてここまで綺麗にしてるのは本当に凄く、他の人なら面倒で美容室に行っているだろう。


 美容師はそれでお金を貰っているプロだから綺麗に切ってくれる。


「自分で髪を切るって難しくない?」

「長さを整えてすくだけなのでそんなに難しくないですよ」


 あっさりと言ってしまえる姫乃が凄いだけだ。


「自信がない」

「大丈夫ですよ。それに、この髪もタカくんのものなので、タカくん好みにしたい、です」


 ギュっと抱きしめてきた姫乃からの甘い囁きだった。


 好みの髪にしたいなら美容師に切ってもらつのが一番いいのだが、付き合いだしてからさらに他の人に触らせたくない想いが強くなったのだろう。


 なので確実に美容室で切ってくれない。


「失敗しても怒らない?」

「怒りませんよ。それにタカくんに切ってもらうのが大事なので」


 どうやら隆史が切るしかないようだし、多少の失敗であれば後から修正がきく。


 切りすぎないよう慎重にすれば大きな失敗はしないだろう。


「分かったよ。姫乃がそこまで言うなら」


 髪を切るのは大変だが、彼女からのお願いを聞くのも彼氏の役目だ。


 それにもし失敗して短くなったとしても、姫乃なら似合うだろう。


 前に銀髪美少女がロングからショートにしていてとても似合っていたからだ。


 でも、姫乃はロングが一番似合いそうなため、失敗はしたくない。


「ハサミなどを持ってきますので、少しお待ちください」


 笑みを浮かべた姫乃は、髪を切る準備を始めた。


☆ ☆ ☆


「まさか専用のハサミがあるとは……」


 姫乃が持ってきたハサミは、美容師が使っているような本格的な物だった。


 さらにはすかし専用のハサミもあり、恐らくは通販で買ったのだろう。


 これなら大きな失敗はなく切れるかもしれない。


 美容師が使っているだけあって、普通のハサミより格段に切りやすいだろう。


「切り方を教えてくれる?」


 将来美容師になる予定がない隆史には、どうやって髪を切ればいいかなんて分からない。


 だけどいつも自分で切っているという姫乃なら分かるだろう。


「はい。でも、少しお待ちくださいね」


 ハサミ以外にも持ってきた物があり、姫乃は大きなゴミ袋を床に敷いてもう一枚のゴミ袋を被って穴が開いているところから顔を出した。


 いつもこうして切っているのだろう。


「お待たせしました。切り方なんですが、毛先は整えるだけなので、ハサミは下から上に向かって髪と同じ角度で切ります」


 そういえば、と以前テレビで髪の切り方についてやっていたのを思い出した。


 結構前だったから忘れていたが、テレビを見た麻里佳がお姉ちゃんぶりたくて「たっくんの髪を私が切る」と言ってきたのだ。


 切ってもらった結果は……あまりよろしくなかったために、今は千円カットで切ってもらっている。


「じゃあ切るね」

「はい」


 優しく銀髪を手で掴んだ。


 相変わらず綺麗な髪だが、これから切るとなると緊張して息を飲む。


「これから愛するタカくんに髪を切ってもらえます。髪にも神経があればもっと味わえるのに」

「いや、痛いだけでしょ」


 髪に神経がないからこそ切られても痛くないだけで、神経があったら痛みで切るどころではない。


 相変わらずのヤンデレ発言だが、大切な髪を切ってもらうとなると特別な想いがこみ上げてくるのだろう。


「タカくんに与えられる痛みは私にとって幸せなんですよ」

「そっか」


 今は姫乃のドM発言を真に受けている余裕なんてあるわけもなく、上手く切れるかの不安しかない。


 大きな失敗はないかもしれないが、出来ることなら小さな失敗もしたくはないのだ。


「本当に切るからね。後悔しないでよ」

「大丈夫ですよ」


 姫乃に言われた通り、ハサミの刃を上に向けてから毛先をゆっくりと切っていく。


 緊張で手が震えるのを止めるだけで精一杯だが、彼氏として彼女の期待を裏切るわけにはいかないし、一度引き受けたら後戻りなんて出来ない。


「ゆっくりで大丈夫ですよ。むしろ何時間でもかかっていいです」


 大切な髪だから大切な人には触られていたいようだ。


 深呼吸してから再び姫乃の髪を切り始めた。

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