幼馴染みと後輩の絆
「麻里佳先輩と一緒……嬉しすぎます」
隆史と姫乃が買い物デートしている頃、麻里佳の部屋に泊まった美希はまだ彼女の家にいた。
憧れの先輩の誕生日を祝うことが出来たし、そのまま泊まれて幸せな気持ちでいっぱいなのだろう。
麻里佳先輩の部屋いい匂い、と呟いているのは、気のせいだと思うことにした。
「最近はたっくんと一緒にいれる時間が少ないからね。これからも時々来ていいよ」
およよ、と少し悲しい表情を麻里佳は見せる。
弟のように思っている隆史に告白されてフって以降、一緒にいる時間が本当に減った。
隆史と同じく心に傷を負った姫乃と出会って二人が一緒にいるようになったからだ。
隆史に仲の良い友達が出来るのはいいことだが、一緒にいる時間が減ると悲しい。
誕生日は祝ってくれたものの今日はほとんど一緒にいれないし、隆史は彼女である姫乃に夢中だ。
弟に彼女が出来るのは嬉しいが、一緒にいる時間が少なくて複雑な気分だった。
(フラない方が良かった、のかな?)
一緒にいる時間が減るくらいならフラないで付き合えば良かったかも、と少しだけ思う。
今までも接触はしていたし、付き合ったとしても関係がそこまで変わるものではない。
(で、でも……付き合ってたらエッチなことを……)
隆史に抱かれるシーンを想像してしまい、麻里佳の身体はサウナに入っているくらいに熱くなった。
接触するくらいなら問題ないものの、エッチなこととなると恥ずかしい。
麻里佳にとっては触られるより見られる方が恥ずかしいのだ。
でも、付き合えばすることにはなるのだろう。
「なんか麻里佳先輩が妄想してるような……」
「……はっ?」
変な妄想をした麻里佳を美希がジド目で見つめていた。
「麻里佳先輩、もしかして先輩をフったことを後悔してます? 先輩とエッチなことをしてる妄想をしていたようですし……」
「そ、そんなことないよ」
慌てて否定したが、今の美希を見ていては納得していないのは丸わかりだ。
あざとさがある美希は、相手の心理を読み取るのが得意らしい。
「そ、そういう美希ちゃんはどうなの? たっくんに妹になりたいって言ってたし」
隆史のことにはなるが、慌てて話題を反らす。
「普通好意がない相手に妹になりたいなんて言わないよね?」
本当の兄妹ではなくて先輩と後輩の仲であれば、普通は妹になりたいと思わないだろう。
なので少なからず好意があると思うのは普通のことだ。
「私が先輩に好意? ないに決まってるじゃないですか。麻里佳先輩を独占してたんですから」
美希にとっては憧れの先輩を独占するのは許せないことらしい。
笑顔であるものの目が笑っていないため、本当に好意はないのだろう。
「じゃあ何でたっくんの妹になりたいの?」
「そんなの麻里佳先輩ともっと仲良くなりたいからに決まってるじゃないですか」
私が先輩を好きだなんてありえません、と美希は呟いたので、本当に仲良くなりたいからなようだ。
「話を戻しますけど、麻里佳先輩は先輩をフったことに後悔してますか?」
やはり話を戻された、と麻里佳は思う。
「そうだね。後悔してる、かも……」
まだ確信はもてないが、一緒にいれる時間が減ったから後悔しているのかもしれない。
変に嘘をついてもしょうがないと思ったため、麻里佳は美希に本心を打ち明けた。
「私はたっくんのお姉ちゃんでずっと一緒にいれると思ってた……でも、最近のたっくんは白雪さんに夢中で寂しいよ」
これからも一緒にいれる時間がなくなっていくと思うと、どうしようもないくらいに涙が溢れてくる。
フったことを後悔しようにも、最早時間を戻す術はない。
もう一緒にいれる時間が少なくなるのを受け入れるしかないのだろう。
「麻里佳先輩に彼氏が出来るのは嫌ですが、泣いている麻里佳先輩を見るのはもっと嫌です」
ギュっと抱きしめてきた美希は、本気で泣いている麻里佳を見るのは嫌だと思ってくれているようだ。
「先輩は彼女が出来ても麻里佳先輩のことを気にかけてくれてます。その証拠に私に助けを求めてきましたもん」
「助けを?」
「はい。邪険にしている私に助けを求めてきたってことは、先輩は本気で心配してるんですよ」
そうでないと私を頼ったりしません、と呟いた美希の表情は自身満々そうだった。
一緒にいれる時間が減るからフォローを入れてほしい、といった感じだろう。
「そもそも先輩は麻里佳先輩のことが好きだったんですよ。今は恋愛感情はないでしょうが、大切な幼馴染みと思ってくれてるはずです」
「そう、だよね。幼馴染みじゃなくてお姉ちゃんと思ってほしいけど、寂しさが和らいできたよ。美希ちゃん、ありがとう」
少なくとも大切な幼馴染みと思っていないのであれば、隆史は麻里佳のことを突き放したりするはずだ。
そういったことがないから大切だも思ってくれている……そう思うと少し楽になった。




