白雪姫と後輩と漫画喫茶
「ここはいい所だね」
学校が終わった後、隆史は姫乃と一緒に漫画喫茶に訪れた。
放課後は麻里佳が香苗と会わないことを見送ったし、今日は大丈夫だということで姫乃とイチャイチャするために来たのだ。
漫画喫茶は普通だったら仕切りの壁が二メートルとないが、この部屋は完全に個室。
カップルや友達同士できてヘッドホンをしなくても音声を楽しめるようになっている。
家でイチャイチャもいいが、たまにはこういった場所でイチャイチャするのもいい。
ドアの一部がガラスだから外から見えるものの、ドリンクバーや漫画、映像コンテンツが沢山あるから楽しめる。
「たまに来たりするんですか?」
「するよ」
二千円出せば十二時間入れるため、姫乃と出会う前までは漫画を読むために行っていた。
漫画は大体三ヶ月から半年で新刊が出るし、数ヶ月に一度は来て楽しむ。
「いつもは漫画を読むために来るけど、今日はこうやって楽しむために来たから」
「あ……んん……」
恋人同士が個室にいてイチャイチャしないわけがなく、隆史は姫乃を引き寄せてキスをした。
流石にキスより先のことはしないが、沢山イチャイチャするつもりだ。
姫乃もイチャイチャは大歓迎のようで、蕩けた表情でキスを受け入れてくれている。
「式部さんと漫画喫茶に来たことはあるのですか?」
「あるね」
悪役令嬢や婚約破棄などが好きな麻里佳は、漫画化されたのを読んだりしている。
ラノベは漫画喫茶にないから買ったりしているが、漫画まで揃えるとなるとかなりお金がかかるからこういった所で読むのだ。
本当に好きなのは買ってるみたいだが。
「式部さんはタカくんの初めてをいっぱい奪っていきます……」
嫉妬しているかのような声だった。
独占欲が強い姫乃は、本当は全ての初めてが欲しいのだろう。
でも、隆史には異性の幼馴染みがいるため、流石に全てを貰うのは不可能だ。
「それはどうしようもないよ」
よしよし、と姫乃の頭を撫でて落ち着かせる。
「分かってますよ。でも、タカくんの欲求を満たすのも、ずっと一緒にいるのも私だけです」
過去にあったことは変えられないため、これからの未来を独占したいらしい。
グリグリ、とおでこを胸板に押し付けてくる姫乃は可愛く、ずっと一緒にいたいと思える。
「そうだね」
ずっと一緒にいたいと思うのはこちらも同じだ。
そのためにはどうにかして麻里佳の呪縛を解かなければならない。
一番良いのは好きな人を作ることだが、ずっと姉でいたいと思っているからか難しいだろう。
麻里佳は香菜の死から姉であろうとするため、弟っぽい人を連れてくるのも無理だ。
「しょうがない。麻里佳については春日井に頼るか」
麻里佳のことを尊敬している美希であれば喜んで駆けつけるだろう。
スマホを手に取った隆史は、美希に電話をかけた。
☆ ☆ ☆
「麻里佳先輩について助けてほしいとは何事ですか?」
電話をかけて三十分ほどで美希が漫画喫茶にやってきた。
息を切らしているため、走ってきたのだろう。
それほどまてに麻里佳に対して強い憧れを持っているのが伺える。
「その前に何で麻里佳があんなに俺に対して姉ぶるか知ってる?」
「詳しくは知らないですね。あれですか? 前に先輩がお姉ちゃんになって? とか言ったんですか?」
本当に詳しく知らないようで、茶化すように言ってきた。
「違うよ」
「そうなんですか? 先輩が甘えて麻里佳先輩がお姉ちゃんになったかと思ってましたよ」
甘えたことがあるのは間違いない。
「はっ? もしかして私が先輩の妹になれば、合法的に麻里佳先輩の妹になれるんじゃ……?」
閃いたように言ってくるが、間違いなくなれないと断言出来る。
麻里佳はあくまで隆史の姉でありたいだけなのだし、本来は幼馴染みの関係だ。
「可愛い可愛い私が先輩の妹になってあげますよ?」
「ならなくていい」
耳元で甘えたような声を出してくるが、生憎妹は募集していない。
それについ最近まで辛辣な態度を取っていた相手を妹にしたいなんてこれっぽっちも思わないのだ。
さらには麻里佳と仲良くないたいがためになので、きちんとお断りしておく。
吐息混じりだったので耳がくすぐったかったのは言わないでおくことにした。
「タカくんは私とずっと一緒なので駄目です」
嫉妬したであろう姫乃に、グイっと引っ張られた。
「まさか式部さん以外にも危険人物がいたとは……」
ボソっと小声で呟いているが、美希は麻里佳と仲良くなりたいために妹になりたいだけだろう。
だから危険人物というわけではない。
「今から色々話すから協力して」
「麻里佳先輩のためであれば喜んで」
隆史と麻里佳、そして姉である香苗、転校してきた香苗について話し、美希に協力をお願いした。