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人を穿ちてモノノケ語り  作者: 下鴨哲生
友と木魅
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二十三の幕

 銃が紅く輝きだし、まるで血液が流れるような赤いオーラを帯び始めた。その銃が徐々に降りてきて、旭の前に静止する。

 旭はその銃をしっかりと握った。

 その瞬間、彼の体に紅いオーラが流れ込む。それが狼の入れ墨となって旭の体に絡みつく。そして、それが顔にまで達したとき、彼の髪の全てが紅く染まった。

「モノノケよ。俺はお前を撃たなければならん。許せ」

 瞳は紅く、召し物は白に、その手には銃を。

 これが、我が友人のもう一つの姿だ。

 

 木魅が旭に向かって右手を振り下ろした。

 旭はその方向へと手をかざす。旭にその手が届くかと思われた時、木魅の手は旭が作り出した結界の壁によってはじかれた。

 そのすきを狙って、旭は木魅の手を狙って引き金を引いた。

 バンッッ!

 轟音を立てて放たれた弾丸は木魅の手を引き裂き、飛び散った肉片たちは小さな赤子の形になった。こちらに迫ってくるその肉片達に旭は容赦なく引き金を引く。

 それを受けた肉片達はドロドロとした本当の肉片を残してはじけた。

図体(ずうたい)こそデカいが……のろいな」

 旭は銃口を木魅の左足に向けて、撃つ。

 足がはじけ、手の時と同じように肉片達が旭に襲い掛かってきたが、彼はそれを何も問題なくあしらった。

 体勢を崩した木魅がその場に倒れる。そして、バタバタともがいた後、木魅はその体を徐々に崩し始めた。

 顔から小さな赤い分身があふれ出し、その数が増えるごとに木魅の体が崩れていく。

 木魅はその体をもとの小さな状態に戻して、その場を何とかやり過ごそうと思ったらしい。

 だが、そんなことは我が友人にはお見通しであった。

「無駄」

 旭は左手を病院の天井に向かって(かか)げた。その動きに合わせて、私は天井を見上げる。

 そこには怪しげな紅い光を発する御札がびっしりと敷き詰められていた。彼が我々から離れてしていた"準備"であった。

「破ァァァァァァァァァァ!」

 旭が手を振り下ろす。

 動き出した御札達が紅と白の雨となって、崩れかけの木魅とその分身たちに降り注いだ。

 御札は木魅達を包み込み、ソレを巻き込みながら集結していく。誘導されたソレは旭の目の前で球体になった。木魅は御札によって凝縮され、出ようにも出られない。

 ソレらは完全に拘束され、すでに勝負は終わった。

 旭は球体に向けて銃口を向けた。その引き金を引けば、今回のモノノケ祓いは完遂である。

 だが彼はその引き金を引かなかった。

 そして、旭はその顔を、さくらと共にいる勝也に向けた。それに気づいたさくらが勝也の背中を押して旭の隣へ誘導する。

 それを確認した旭は、涙をこらえる勝也にこう言った。

「少年。お前に別れを惜しむ時間をやろう。一言だけだ」

 旭からの言葉を受けた勝也は、唇をかみしめ、うつむいた。しかしそれも一瞬のこと。彼はなにかを決意したように目の前の球体を見つめた。


「――」


 勝也の言葉を聞いて、旭はふっと微笑み、銃口を球体へ向け直した。

 狙いを定める。


 ――ごめ――あ――とう――


 引き金が引かれるその瞬間、木魅が切れ切れに言っていた言葉が何だったのか。

 木魅が祓われた今、それを確認することはできないが、きっとそれは勝也に対するメッセージだったと信じていたい。


     〇


 休日の過ごし方は人それぞれ、アヤカシそれぞれである。

 だが、仕事を終えた後や、面倒な事柄を達成した後すぐの休日と言えば、やはり縁側に寝転がってゴロゴロ以外にすべきことはないだろう。

「あんたはいつもゴロゴロしてるでしょうよ」

「うるへい」

 私のことを上から見下ろす狐に私は反抗した。

「少しは寺の手伝いでもしたらどうだい?」

「お前も読書してるだけだろうが」

 ちなみにここには旭もいる。

「それより……アレは本当だったんだよな」

「アレって? ……あぁ……アレ」

 それは旭がモノノケを撃ってから少しあとのこと。

 我々は勝也と共に病院を出た。麻酔科の仮眠室で夜を明かし、何事もなかったかのような病院のエントランスを抜けて我々を出迎えたのは、空都の綺麗な青い空であった。

「それで、こいつどうするよ」

 私は京狐の隣に立つ勝也を見ながら問いかけた。

「私が送っていくわ。親御さんにはうまく説明しとく」

「いや、そうじゃなくて……」

 いくら本人が望んだとはいえ、勝也は自分の友を安楽死へと導いたと言える。それについてどう対処するのか。これは難しい問題だ。

「あぁ……それなら大丈夫よ」

 京狐がケロっとした顔で言った。

「だって、哲君が亡くなったのと勝也君のことは全く関係がないもの」

「は?」

 私はとてつもない間抜け顔だったと思う。

「哲君に投与していた薬はモルヒネ。つまり医療用麻薬よ。痛み止めとして投与していただけ。だからそれを抜いたとしても、それが直接死に至るなんてことはないのよ。それに、勝也君が点滴を抜いた後、すぐに私が対処して点滴をしなおしたから、何一つとして問題なんてなかったのよ」

 京狐の言葉に唖然としている中、彼女は勝也の目の前にしゃがみ、彼と向かい合う。

「だから、勝也君はなにも気に病むことはない。最後の言葉、立派だったわ」

 勝也は涙をぐっとこらえて京狐にお礼の言葉を述べた。


     〇


「本当に決まってるじゃない」

 私はその言葉を聞いてとりあえず安堵した。

「私は嘘をついたことなんて一度もないわ」

 一気に不信感が増した。

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