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人を穿ちてモノノケ語り  作者: 下鴨哲生
友と木魅
36/44

十七の幕

「おいおい。あれは……」

 私は言葉少なめにうなった。

 我々の耳に聞こえてきた声はとても幽霊のものとは思えない元気な少年の声だった。そしてその少年がこの世を生きるただの少年だということに気づくのはその七秒後。

勝也(かつや)君じゃないの!」

 私の後ろから京狐が声を張った。勝也と呼ばれたその少年はしりもちをついたまま小さく「うげっ」とつぶやき、上体を起こし、その場から逃げようとする。

 しかし旭はそんな彼に狼の銃の銃口を向けた。

「わぁー! わぁー! やめろっ!」

 勝也は再びしりもちをついた。顔の前で手を振り回し、旭がむける銃におののく。

 その光景を見て、我々はもう一度走り出し、彼らのもとへと近づいた。

「待て旭っ。それは普通にビビる」

 旭はそばによってきた私を確認すると「ふふっ」と冗談ぽく笑いながら銃をおろした。

 京狐をさくらもこちらに駆け寄ってくる。京狐はしりもちをつく勝也の両肩に手を置き「大丈夫」と声をかけている。

「何で銃なんか持ってんだよ! 犯罪だろ!?」

「大丈夫。あれは一応偽物だから」

 取り乱す勝也をおさめるべく、京狐が言った。「一応」という言葉が何故だか珍妙だ。

「それより勝也君。どうしてここにいるの?」

 そこで少年は再度京狐のことを確認し、ぎょっとしていた。顔の血の気が徐々に引いていく。

「嘘言ってもムダだからね」

 京狐のその一言になぜか私もたじろいだ。普通になんかこわかった。

 目の前でそれを言われた勝也は周りを見渡して誰かに助けを求めていたが、見事なまでに全員が目をそらしていた。

 そして、観念した勝也がなんとか強気になりながら「おまえらが……」と口を開き始める。

「哲の病室からお前らが出てきたから」

 つい最近、というよりつい数時間前に聞いた名前が勝也の口から発せられたことに、我々は少々うろたえた。


 少年の名前は平沼勝也(ひらぬまかつや)

 この少年は亡くなった少年の友であるという。

 京狐が彼のことを知っていたのは、勝也が哲の入院中に何度も面会に来ていたからだという。

 亡くなった少年と仲睦まじく会話する光景を彼女は何度も目撃し、反対に勝也のほうも少年を気に掛ける京狐のことを知っていた。故に彼は京狐を目撃した瞬間逃げ出そうとしたわけである。

 勝也は今日の昼、少年が入院していた病室から我々が出てくるのを目撃した。

 ついでに、我々が病室前で交わした会話も聞いたらしい。

「哲の幽霊に会うんだろ?」

 勝也は我々に問いかけた。

「幽霊に会うつもりはない。俺はモノノケを撃ちに来たんだ」

 旭は勝也に冷たく言い放つ。子供に対してそんなことを言ってもわからないだろうとも思うのだが、残念ながらこの男はこういうところで嘘をつかない。

「モノノケ……?」

 案の定、勝也は旭の話をうまく理解できていないようだった。しかしその話の一点だけは彼にも理解できたようであった。

「撃つって……あの銃でか?」

「ああ」

「哲の幽霊を?」

「その少年から生まれたかどうかは知らないが」

 モノノケは人の感情を依り代として生まれる。だが、その感情を依り代として生まれるだけという話でもあり、そのモノノケは依り代とした人とは別物である。

 故に、今回のモノノケが亡くなった少年を依り代としていたとしても、それはもう少年ではない。

 しかし旭は、それを明言しなかった。

 勝也は膝の上で拳を固く握りしめている。

「俺も連れて行ってくれ!」

 勝也は我々に向け、勇ましくそう言い放った。その目には小さくとも確かな覚悟があるようにうかがえる。

「どうして君は、そこまで?」

 旭が少年に問いかけた。

「友達だからだ!」

 その一言に、旭は満足したように微笑む。そして、そのまま勝也の前に(ひざまず)くと彼の顔をまっすぐ見てこう言った。

「では友のために、俺も力を貸そう」

 旭は勝也の同行をすんなり受け入れ、彼に力を貸すことを約束した。

「いいの旭君?」

 旭が同行を許したのを見て、京狐が確認する。

「ここにいる以上、どこかに置き去りにすることもできないでしょう。一人であれこれされるより安全です。それに……」

 旭は最後に何かを言いかけていたが、そこで彼はピタッと口を閉ざした。何を言おうとしたのか気になったが、その後彼は言葉を続けなかった。


     〇


「なぁ桃狸はさぁー」

「おい、いきなり呼び捨てか」

「いいじゃんかー」

 軽く自己紹介を済ませ、我々は再び、亡くなった少年の病室へと向かう。

 その道中、勝也は私に話しかけ、その生意気な口調を披露していた。

「んで、どうした?」

「うんー桃狸はさぁ、あの兄ちゃんと友達なのか?」

 そんなこと、考えたこともなかった。

 私が京狐や旭と行動を共にするようになったのは、およそ六十年前からだ。それからずっと私は旭のモノノケ祓いを見てきたわけだが、どうして一緒にいるかと聞かれれば、どうしてなのか自分でも答えが出ない。

 強いていうならば、他に行くところもないし、一緒にいたほうが面白く生きれるだろうと思ってのことだが、やはりそれもピンとこない気がする。

 だからといって、我々が友達や仲間という関係に値するのかと問われれば、それもなにか気恥ずかしく、私にはわからない。

 そんな私にとっての質問の答えはこれしかなかった。

「俺にもなにやら分からんよ」

 勝也の問いに対してはっきり答えることができない大人げない私であるが、

 そもそも人間の尺度ではかられる"友達"という表現に、アヤカシである我々を当てはめるのは筋違いな気もする。

 私の答えに対し、勝也は「つまんねぇの」とただ一言残し、目の前を歩くさくらのもとへと走っていった。

 おいおい、質問しといてそれだけか。

 私は心の中でため息をついたが、もとはと言えば私の答えが中途半端であったからであり、私はそれを思い出して本当のため息をついた。

 そして次の瞬間、私は勝也の桜に対する無垢(むく)及び衝撃の質問を耳にする。

「姉ちゃん! 姉ちゃんはさぁーあの兄ちゃんの彼女なのか?」

「はぃ!?」

 何故勝也が京狐ではなく、さくらに対してこの質問をしたのか。そして相手が旭であったのかはこの際言及しないが、私は思わずその質問を聞いて吹き出した。

 幸いなことに、先頭を歩く旭はずいぶんと遠い位置にいるため、おそらくこの会話は聞こえていないだろうが、彼らを挟む私と、恐らく京狐にもこの会話は丸聞こえである。

「ちっ、ちがうよ!? 私は……」

 さくらは瞬時に否定したが、なんとなく口惜しそうである。

「そっかー兄ちゃんかっこよかったもんなぁー姉ちゃんじゃ……」

「へぇ? 勝也君。それはどういう?」

 さくらが一瞬、鬼のような形相になったのを私は見逃さなかった。

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