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人を穿ちてモノノケ語り  作者: 下鴨哲生
友と木魅
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七の幕

 さくらとの話を終えた後、私は宿舎のほうへと歩いた。

 今日も特にこれと言って何もすることがない。そのため、広間の縁側にでも腰掛け、団子の一つでも食そうと考えた。これこそ優雅な休日の過ごし方なり。

 本殿の前を過ぎ、庫院をぐるっと迂回して、目的の縁側が見えてくる。

 私としては一人で優雅に時間を過ごすつもりであったが、残念ながらそこにはすでに先客がいた。

「本なら部屋で読めよ」

 私は座椅子に座って優雅に読書にふける旭に声をかけた。その声に反応し、彼は私の方へ顔を向ける。

「団子ならここにあるよ」

「何故分かった!?」

「君がここに来る理由なんて、食うか、寝るか、食いながら寝るかの三つしかないだろう?」

「それ以上に充実した時間なんてない」

 私は当初の予定通り縁側へと腰掛け、当初の予定にはない旭との会話に花を咲かせることにした。

 旭が差し出した皿から三色団子を手に取り、一番上の桃色団子を頬張る。

「うむ。くるしゅうない」

 私は美味なる意を示した。

「誰に対して言ってるわけ?」

「団子」

「それはそれは。君のお腹の中で喜んでいることだろう」

 旭はバカにしたようにふっと笑ってから、手に持つ本のページをぺらりとめくった。

 そんな旭を意にも返さず、私は二番目の白い団子を食した。

「彼女はうまくやっているかい?」

 ふと旭が団子を頬張る私に聞いた。彼女というのは恐らく、さくらのことを言っているのだろう。

「うまくやってるもなにも、毎日見てるだろう? 問題ないって」

 旭は私の言葉に対し、短く「そうだな」と返した。

「むしろ心配なのはアイツのほうだ。もう一か月も帰ってきてないぞ。いくらアヤカシとはいえ、働きすぎだ」

 私はそう言いながら、最後の緑の団子を口に入れ、残った串を皿に放った。そんな私の発言に旭は少々、驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑みを戻し、目線を本へと戻す。

「おやおや、いつもは『帰ってくんな』と言っているのに。なんだかんだ心配なんだね」

「誰が心配なんぞするか! 俺はただそんなことをするなんて狸として信じられんと言っているだけだ」

「あの人は狐だ」

「アヤカシとしてって意味だ!」

「はいはい」

「何が『はいはい』だっ!」

 断じて言っておくが、別に私は彼女を心配しているというわけではない。断じて違う。


 その後も私と旭は、生産性のない抵抗といなしを続けたが、あまりにも不毛であったし、何よりこれをお見せするのは私の沽券(こけん)にも関わってくるため、不本意ながら省略させていただく。ホントに、不本意ながら。


 静かになった縁側に、仕事がひと段落ついたのであろう、さくらがやってきた。彼女は庭園側から姿を現し、我々の姿を見るや否やこちらへと小走りでやってくる。

 しかし、こちらに行きついてから、彼女は目の前で停止し、我々のほうを見ながらもじもじし始めた。「どこに座っていいのかわからない。そもそも、図々しくここに座っていいのかすらわからない」といった表情をしている。

 そんな彼女を、我々は少し笑いながら見ていた。そして一言。

「団子食べる?」

 私は言った。


     〇


「ふぁの、ふぃつもんふぃれもふぃいれすか?」

「なんだって?」

 団子をはさんで私の隣に座ったさくらが、口に団子を頬張りながら何かしら喋っている。一気に二つ口に突っ込んだせいか、まったくもってそれが聞き取れない。

 彼女は団子をよく咀嚼して飲み込んだ後、我々に向かって再度それを言い直した。

「質問してもいいですか?」

「別にそんなかしこまんなくてもいいのに」

 さくらはいつも礼儀正しく、我々に対しても礼節を払っている。そこが彼女の良い所だろう。

 私はそんなさくらの質問を我々は遺憾(いかん)なく受ける。

「それで?」

「あっはい。えっと、ここ一週間ずっとここにいますけど、モノノケを探しに行ったりとかはしなくていいんですか?」

 確かにここ一週間、我々はモノノケが絡む案件に巻き込まれていない。そのため、大変優雅な毎日を過ごせているわけだが、さくらにとってはそれが疑問なんだろう。

 こういう質問に答えられるのは私ではなく旭のほうだ。

「モノノケは探しに行って会えるようなものではありませんよ。それに、探しに行かずとも我々はそれに手繰(たぐ)り寄せられてしまうんです」

 そう言いながら、彼は背後から狼の装飾がなされた銃を取り出した。

「こいつがね」

 銃を見せた後、彼はそれを自分の横の畳の上へと置く。どんな状況であろうとも、旭がこれを手放すことはない。

「ほんとに面倒なもんだよ。旭に関わってる俺までモノノケ案件に巻き込まれる。巻き込まれなかったとしても、旭が一人で勝手にふらふらとどっかに行って、数日間宿舎から行方不明になることもある。旅していたころにはそんなこと気にする必要もなかったんだけどなぁ」

「えっ、旅?」

 さくらが私の言葉を聞き返した。

「旅っていうか、放浪だな。俺達がここに来たのは三年前。それまでは身寄りもなく、ただだらだらといろんなところを放浪するだけだったんだ」

 今思えば、なかなかに奇抜なことをしていたのではと思う。

 我々が生まれたころであれば、各地を旅する流浪人なんてのは多くいた。しかし時代は流れ、現代に近づくにつれ、そんなものも少なくなり、人々はみな安定した土地を求めた。

 できることならば、我々もそういった場所があればと願った。だが、我々のようなモノはそんなものを持つ身分にない。

 しかし今、我々は天丈寺という場所で居場所を見つけた。それがなんと幸運なことか。

 何度考えても、そんな場所をくれた源さんには感謝の念しかない。

「まっでも、ここにいてもモノノケと出会っちゃうことには変わりはないんだけどね」

 私は気を取り直し、さくらに笑顔を向けた。

「その通り。恐らくだが、そう遠くないうちにまたそういった事が舞い込んでくる。多分、一か月ぶりに帰宅した狐と一緒に」

 旭の言葉に、私とさくらの頭の上にハテナマークが浮かんだ瞬間である。

「たっっだいまぁぁぁ!」

「遠くないどころじゃなかったな」

 庫院のほうから聞き覚えのある女の声が響いた。

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