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第九話 初仕事

ほんの少しだけイチャイチャを取り入れました。梓たんかわいい

 「奉仕度チェック?」

 「そうよ」


 梓は椅子から立ち上がって人差し指を僕に突き付けてきた。その勢いのまま彼女は意気揚々と語り始めた。


 「私の使用人になるには並大抵のことじゃないわ。掃除、料理、その他諸々の家事全般は超一流でなければならないわ。そのうえで私に最高の奉仕を提供しなさい」

 「最高の奉仕って何?」

 「そこは悠太に任せるわ。とにかく私を喜ばせなさい」


 なかなかに抽象的な仕事内容だ。家事全般はこれから頑張るとして、梓への奉仕って具体的に何をすればいいのか見当もつかない。


 「まずはこの家の掃除から始めてもらいましょうか」

 「了解。ちょっとアリサさんに聞きに行ってくるよ」


 そう言って僕は階段を下りてリビングに向かった。


 

 「アリサさん、お時間少しいいですか?」

 「なにかしら?」


 一階のキッチンで料理の下ごしらえをしていたアリサさんは僕の言葉に上半身だけをひねってこちらに向いた。


 「梓お嬢様にこの家の掃除を命じられたのですが、勝手がわからないのでアリサさんに教えてもらおうかと思って」

 「なるほどね、じゃあ手伝ってもらおうかな」

 

 作業がひと段落したのかアリサさんはタオルで手をふきながらリビングのソファに腰を下ろした。僕も座るべきか迷ったが、一応仕事中だったので傍らで立って聞くことに決めた。その姿にアリサさんは若干苦笑していた。


 「今日はとりあえずこのリビングを掃除してもらえるかしら」


 アリサさんから掃除用具の場所、掃除するべき場所、注意が必要な場所、諸々の手ほどきを受けた。そのあとは実際にアリサさんに教えてもらいながら部屋の掃除を進めた。普段から親が家にいなかったせいか、身の回りのことはある程度自分で世話をしてきた僕はアリサさんの教えを忠実にこなすことができた。


 一度掃除が終わった個所も入念に見直し、自分の中で満足が行くレベルまできれいになったら次の掃除に移った。そのせいでリビングの掃除だけでも一時間はかかってしまった。


 「すみませんアリサさん。時間をかけすぎてしまって……」

 「いいのいいの。ここまできれいになったのは悠太君のおかげなんだから」


 アリサさんは少しばかり疲労を滲ませた顔で苦笑いをしていた。次からはもう少し要領よくやらないとこの家全ての部屋を掃除しきることができず、アリサさんの時間を奪ってしまうかもしれない。次回への反省点を胸にとどめながらアリサさんにお礼を言って僕は一度梓の部屋に戻った。

 

 

 「おかえり、どうだった?」

 「大変だったよ……」


 疲労困憊、とまではいかないけど慣れない仕事にすこし疲れながら梓の部屋に入った。彼女はというと机に向かって参考書を広げながら勉強をしていた。彼女はいつも学校では成績がトップだけど、それは彼女が天才だとか、親の遺伝によるものとかだけではない。彼女は何事に対しても手を抜かず、そして努力を怠らない人間だった。


 「ちょっとだけ時間がかかっちゃってアリサさんに迷惑かけちゃったよ……」

 「あー。まあ最初はそんなもんよ。気にしないで次頑張ればいいのよ」


 励ましてくれるのはうれしいけど視線は参考書にくぎ付けだった。超どうでもよさそう……。


 「とりあえず今日の掃除はこれだけでいいって。次は何すればいいの?」

 「うーん、今日はこれで終わりでいいわよ。初日だし」


 ようやく顔を上げた梓はその勢いのまま背伸びをしていた。随分お疲れの様だ。目元をぐにぐにと押さえている。


 「肩でも揉もうか?」

 「へっ?」


 突然カランとペンが落ちる音が部屋に響いた。見れば梓が手に持っていたシャーペンは床に転がっている。当の本人は視線は参考書に向けながらも硬直していた。彼女は壊れたブリキ人形みたいなぎこちない動きでこちらを見た。


 「ゆ、悠太。今、なんて」

 「いや、疲れていそうだし肩もみでもしようかなって。ほら、梓も『最高の奉仕をしなさい』って言ってたし」


 最初に聞いたときは何をすればいまいちわからなかったけど、多分こういうことだと思う。梓が今してほしいことを汲み取って最上の形で提供する。主の幸せを第一に考える。これがたぶん専属使用人としての在り方だと思う。


 だと思っていたんだけど、梓はいまだに視線を彷徨わせながら二の句を継げないでいた。また何か間違ったのかもしれない。これだけ混乱しているってことは肩もみ自体が嫌だった可能性もある。


 「あ、いやだったら無理にはしないよ。ごめん――」

 「い、嫌じゃない嫌じゃない!」

 

 食い気味に言われて今度はこちらが面食らう。胸の前で握りこぶしを作りながら首を左右に振っている。


 「そ、そうなんだ。じゃあしようか?」

 「う、うん。お手柔らかにお願いします……」


 妙にかしこまった様子で僕に背を向ける梓。そのしおらしい態度に僕まで混乱しながらゆっくりと梓に近づく。


 軽くウェーブのかかった艶やかな黒髪の隙間からちらっと覗く煽情的なうなじ。意外なほどに華奢で女の子らしい肩のライン。その肩にゆっくりと手を置く。触れたとたん、びくっと梓の体がはねた。女性特有の体温の高さと柔らかさが直に伝わってくる。そのまま痛くならない程度に丁寧に指を彼女の体に埋め込んでいく。


 「あ、うまいわね。すごく気持ちいいわ……」

 「そう?よかった」


 彼女は気持ちよさそうに僕に体を預けている。その緩み切って安心した姿を見て僕まで嬉しくなった。いつも肩ひじ張って型にはまった振る舞いを求められている彼女にとっては、家が一番心を落ち着かせられる場所だろう。彼女はもっと気楽に生きるべきだ。


 「ふう、ありがと。なかなかよかったわよ」

 「お褒めにあずかり光栄です」


 はにかんだ笑顔を見せる梓。学校で見せるよそ行き笑顔よりもこちらのほうが自然体でいい。


 「こ、これからは毎日しなさいよ!?」

 「そんなに毎日疲れてるの?」

 「ええ疲れてるわ!毎日肩が外れそうなくらい疲れ切ってるわ!」


 毎日肩もみが必要なのは社会に疲れた社畜ぐらいだろう。未来の社畜製造組織である学校に通うこともある意味同じようなものかもしれない。


 「まあ、僕でよければいくらでもしてあげるよ」


 その言葉に嬉しそうに満面の笑みで彼女は頷いた。毎日疲れてるんだなあ。


 ☆


 そのあと僕はアリサさんに呼ばれて梓と一緒に夕食を共にした。今回は時間が足りなくてできなかったけど、もう少し色んなことに慣れれば料理も手伝うことができてアリサさんの負担を減らすことができるかもしれない。それはそうと料理がうまい。僕も家では自分で料理するからこそわかることだけど、レストランで出してもおかしくないほどのおいしさだ。


 アリサさんのご馳走に舌鼓を打った僕はそのままの流れで帰宅させてもらえることになった。初めての慣れない仕事をした僕を気遣ってくれたのだろう。そのありがたい申し出に甘えさせてもらった。


 「では、今日は失礼しました。それと色々とありがとうございました、アリサさん」

 「いいのよ、久しぶりに悠太君に会えて嬉しかったわ。梓もよね?」

 「わ、わたしはべつに……」


 そう言ってプイっと顔を逸らされた。 


 「照れてるだけだから気にしないで」


 アリサさんから耳もとでこそっと言われた。途端に梓から睨むような鋭い視線が飛んできた。何も言ってないのに。


 「じゃあまた明日ね、梓。おやすみなさい」

 「うん、おやすみなさい」


 今度はしっかりと返事を返してくれた梓に頷きながら僕はかばんを背負いなおして歩き出す。こんな時間まで外にいることは久しくなかったので肌を撫でる夜風が気持ちいい。僕は疲労感と達成感、少しの後悔を噛み締めながら帰路についた。



明日もしかしたら投稿しないかもです。明後日は確実に投稿します。進捗はツイッターにて呟いているのでよければフォローしてください

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