第七話 友人からの追及
日間4位、週間4位にランクインしました。発狂しました。何回言ったかはわかりませんがそろそろペースがきつくなってきたのでどこかで二日に一回投稿になりそうです。
翌朝、僕はいつもより一時間早く設定したアラームのけたたましい音にたたき起こされていた。時計を見た瞬間二度寝を決め込もうとしたが、昨日のことを思い出して瞬時に頭が覚醒した。そうだ、昨日僕は修二さんから正式に梓の使用人を任されたのだ。そして今日がその初仕事日。いきなりすっぽかすところだった。
結局昨日はその後、特段仕事内容を教えられることはなく使用人についての詳細を軽く教えてもらってお開きとなった。一応この仕事は無報酬ではなくきちんとしたバイトとして扱われることになった。僕はしきりに遠慮したが、修二さんに半ば押し切られる形でお給料ももらえることになった。修二さん曰く「労働の対価として報酬を受け取っておくのも、社会人としての礼儀だよ」とのこと。まだ社会人ではないけれど、学生だからと言って子ども扱いをしなかった修二さんに感謝した。
仕事内容については今日の夜詳しく聞くことになっていて、とりあえず僕の使用人としての初仕事は朝の梓の登校の付き添いである。どちらかといえばボディガードに近い。梓を無事に学校まで送り届けるのが僕の仕事だ。とはいっても普段からやってることなので仕事というよりは習慣に近いかもしれないが。
いつも通り手早く身支度を終え、いつもより早い時間に家を出る。玄関の外に出ると澄んだ空気が胸いっぱいに染みわたり、頭の中がきりっとする。僕は朝特有の空気を噛み締めながら梓の家を向かった。
梓の家の前で10分近くの間ボーっと突っ立ていると、キイと門が開く音と同時に中からひょこっと梓が顔を出した。僕の姿を見つけると、彼女は嬉しそうに僕のもとに駆け寄ってきた。
「しっかり起きれたようね」
「おはようございます、梓お嬢様。ご機嫌はいかがですか?」
そう言うと、梓の眉尻が少し下がった。何かおかしかったかな?
「うーん、なんだかしっくりこないわね、私の前でだけはいつも通りでいいわ」
「……了解。実は言うと僕も違和感があってね」
梓の厚意に甘えて普段の口調に戻す。初仕事から十秒で主に対して砕けた口調になるのはどうなんだろうかとも思ったが本人がいいというならいいのだろう。
歩きながら、僕は梓に向けて手を差し出す。彼女は僕の手をまじまじと見つめながら、頬を赤らめてその上に自分の手を重ねた。何がしたいんだろう。
「……いや、カバン持つよって意味なんだけど」
「あ……。も、もちろんわかってたわよ!」
バっと手を放しながら慌ててかばんを手渡す彼女。僕はそれを受け取って肩に担ぐ。
「じゃあいこうか」
「そ、そうね」
若干顔を赤らめている彼女と一緒に、僕は学校へと向かった。
☆
「……何だかいつもより視線を感じるんだけど」
「……そうだね」
校門付近まで来ると、横や後ろから質量のある視線が肌を刺す。梓だけでなく僕にまで向けられた視線に居心地の悪さを感じながらも彼女と一緒に下駄箱まで行って靴を取り換える。
教室につくと、一斉にクラスメイトの注目がこちらに集まった。僕と梓を交互に見ながら唖然とした顔をしていた。梓はいつもこんな衆人環視の中、『お嬢様』を演じていたのか。僕ならすぐに逃げ出してしまいたくなる。改めて横にたたずむ少女の猫かぶり具合に驚愕する。
その後僕たちはそれぞれの席へ向かった。いくら使用人だからと言って常に主と一緒にいる必要はない。もちろん何か異変が起きないように常に目は光らせているが。
「ちーっす、裕太」
「おはよう、宇佐美」
嫌らしい笑顔をを浮かべながら近づいてくる誠太と市原。すごーく嫌な予感がする。
「聞いたぜ、岩城さんの専属使用人なんだって?」
「何の話かな?」
おどけるようにそう答える僕。昨日は勢いに任せて啖呵を切ったが、冷静に考えると恥ずかしすぎる。知らない人の前ならまだしも友人たちの前で面と向かって言えるわけがない。僕は白を切ることにした。
「クラスの子たちから聞いたよ。大胆なことしたねー、かっこいいー」
「くっ……」
にやにやした顔でからかってくる市原に僕は蹲る。救いなのは彼らのその情報が伝聞情報で実際にその場面を見ていないことだ。あんな姿を見られた日には羞恥で死にたくなる。
「でも悠太がそんな行動に出るなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないと思ってたぜ」
「そうそう。宇佐美にそんな勇気あるはずないもん」
「君たちは僕のことが嫌いなの?そうとしか思えないんだけど」
からかわれるのも嫌だが否定されるのも嫌だ。脆く複雑な僕の心をもっと丁重に扱ってよ。
「それで、それは本当の話なのか?悠太と岩城さんってそんな接点があったのか?」
「う、うん。そうだよ」
僕は顔を引きつらせながらそう答える。馬鹿正直に答えるわけにもいかないから言葉少なになってしまった。誠太は首をかしげていたが、幸いにもそれ以上の追及はしなかった。
「梓に使用人がいるなんて話は聞いたことがないけどね」
市原は不思議そうにそう呟く。
「まあ梓だっていちいちそんな事いわないんじゃない?」
「「梓?」」
あ、口が滑った。
「え、悠太。今岩城さんのこと梓って言った?しかもすごくいい慣れてる感があったんだけど」
「言ってない」
「え、宇佐美って梓とどういう関係なの?」
「ただのクラスメイトで、使用人です」
「使用人が主人のことを呼び捨てにするか?普通」
「だから言ってません。一度耳鼻科に行った方がいいかと思われます」
こういうときだけ耳と勘のいい彼らはまくしたてるように質問攻めをしてきた。冷や汗をだらだらと流しながらもあくまでふざけた答え方をする僕。ちょうどその時始業を告げるチャイムが鳴った。
「ほら、席に戻って。先生に迷惑かけちゃうよ」
「昼休みにしっっっかりと話してもらうから、覚悟しとけよ?」
「放課後も覚悟しといてね?私今日は部活ないから」
そんな捨て台詞をはいて二人とも自分の席に戻っていった。こんなにも憂鬱な朝は初めてだ。僕はこのまま時間が止まってくれることを神に祈った。
☆
神は無慈悲だ。時間を止めることも彼らからの視線を阻止することもしてくれなかった。神などいないことが身に染みて分かった。明日からお賽銭は一円に減らそう。
「やあやあ悠太君。調子はどうだい?」
「……最悪だね、誠太のせいで」
元凶たる誠太は朝と同様の笑みを浮かべながら僕の前の席に腰を掛けた。手に持った弁当を広げながら僕に話しかける。
「もう言い逃れできんぞ、洗いざらい吐きなさい。楽になっておしまい!」
「誰なのさ君は」
「神聖なる裁判官です」
僕はいつから容疑者になったのだろう。
「彼女と話したのは昨日が初めてだよ」
「ダウト。それだけじゃあんな親し気な呼び方にはならない」
即看破された。今朝の失言は思った以上に致命的だった。
「実は、使用人になったのは昨日からなんだ」
「なんだそれ、ずっと前からってわけじゃないのか?」
誠太の疑問はもっともだ。だがそれについて詳しく話すと僕が婚約者であることも話さなければならなくなる。幸いなことに、朝から昼まで時間があったからいろいろと言い訳を用意することができた。
「僕の家は貧乏だからバイトを探していてね。ちょうど見つけた張り紙のバイト募集に応募したらまさかの彼女の使用人でね。下の名前で呼んでるのも彼女の要望だよ」
合間合間に真実味を帯びた嘘を混ぜた。話に信憑性を出すにはこのやり方が効果的だと何かの本で読んだ気がする。その話を聞いた誠太は、意外なことに少し驚いた顔をした。
「そ、そうだったのか……。辛かったら俺に相談しろよ?金は貸してやれんがいつでも助けになるからな?一人で抱え込むなよ」
「う、うん。心配してくれてありがとう……」
本気で心配されてしまった。胸がちくりと痛んだが背に腹は代えられない。『苦学生』というステータスが追加される効果音が脳内に響いた。
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