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第一五話 波乱

「どう!?どう!?梓超可愛くない!?」

「うぅ……」


 お土産の物色に飽きた僕と誠太は店内を回って梓たちを探し始めた。そう広くない店とはいえこれだけの人混みともなれば移動も困難なため、見つけるのに少しばかり時間がかかった。先ほどまで騒いでいたグッズ売り場にまだいたようだった。


 僕らがお土産売り場にいる間、どうやら梓は市原の玩具にされていたらしい。近くにあるカチューシャを手当たり次第に梓に着けては悶えていた。今も猫耳型のカチューシャを着けた梓が羞恥からなのか真っ赤な顔でプルプルと震えていた。

 

「なあ、梓さんやばくないか?てか周りのお客さんもちらちらこっちを見てる気がするんだが」

 

 耳元でひそひそと話す誠太の言葉に周りを見渡すと、確かに少しばかり人だかりができていた。あからさまにこっちを見るような人はいなかったけどスマホを触るふりをして梓のほうを見る輩がちらほらいた。


 あんまり長居すると他のお客さんにも店側にも迷惑がかかる。それに今にも恥ずかしさで死にそうな梓を見てられなかった。それに、その姿はすごく心臓に悪かった。


 僕は梓をできるだけ直視しないようにしながらカチューシャを外した。ついでに市原の頭からも同様に外して、急いでレジまで走った。手早く会計を済まして梓たちのもとに戻ると、カチューシャが入った袋を彼女たちに押し付けた。


「ほら、君たち注目されてるから。これ持って外行こうよ」


 彼女たちはぽかんとしながらも言われた通り素直に店外に出る。外に出ると気持ち人だかりが緩和された気がした。

 

「あ、お金いくらだった?」


 ようやく冷静になった市原は手元のカチューシャを眺めながら財布を取り出そうとしていた。それを僕は手で制した。


「お金はいいから。日頃のお礼だし」

「お礼?」


 市原は首を傾げる。彼女自身に自覚はないらしいが、様々な場面で彼女には助けてもらっている。


「いつも梓を助けてくれてありがとね、市原」

「そんなの当然じゃない!梓はあたしの親友よ?」


 臆面もなくそう言い放つ彼女に、僕はまるで自分のことのようにうれしくなる。梓は梓でちょっぴり恥ずかしそうにはにかんでいる。


「それと、その市原っていうのやめてよ。なんか他人行儀じゃん」


 市原は不満げな目で僕を見てくる。確かに僕以外のみんなは互いに名前で呼び合ってる。僕だけいまだ苗字呼びというのも収まりが悪い気がする。


「そのカチューシャ、似合ってたよ。由紀」


 僕らしくもないキザな言いぐさに一瞬の間、由紀は固まっていた。それからはっと気づいてそっぽを向きながら


「あ、ありがと……」


 と蚊の鳴くような小声でお礼を言われた。ただ僕も僕でいい慣れていなかったため、徐々に体の内側が熱くなるのを感じた。


 そのまま気まずい時間を過ごしていると、不意に視線が突き刺さる感覚を感じた。見れば誠太と梓が二人そろって冷たい目でこちらを見ていた。


「悠太……。それはダメだ。梓さんの前でそれだけはやっちゃいけない」

「何の話?」


 誠太は額に手を当ててため息をついている。その姿を不思議に思っていると、今度は梓がずいっと体を前のめりにしながら顔を近づけてきた。


「な、なに?」


 やや引き気味にそう言うが、彼女はじーっとこちらを見つめたまま言葉を発しなかった。それが数秒間続いた後、ようやく彼女は口を開いた。


「わ、私はどうだった……?」


 少し自信なさげな声音でそう聞いてきた。段々と尻すぼみになっていて、言葉の最後はもはや集中しないと聞き取れないレベルの声量になっていた。


「どうだったって、なにが?」

「そ、その、猫耳、似合ってた?」


 恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくる梓に軽く困惑する。年頃の女の子としては自分の格好をほめてもらいたいっていうのは理解できるけど、僕に聞いても身内びいきにしかならないし、そもそも聞く相手を間違えていると思う。


 けど、確かさっきも似たような状況になった時僕が誠太に頼むように梓に言ったら妙な迫力と共にその提案は圧殺された気がする。


「う、うん。似合ってると思う、よ?」


 結局無難な答え方をした上に最後は疑問形になってしまった。だと言うのに梓は嬉しそうに頬に手を当てている。


「なあ、俺たちは何を見せられてるんだ?」

「さあ?」


 遠くの方で誠太と由紀がそんなことを呟いては呆れたようにこっちを見ていた。


 ☆


「くぅー、たのしかったー」


 誠太がコリをほぐすように大きく伸びをしていた。僕もそれにつられて肩をぐるぐるとまわして疲れを和らげる。


 装飾アイテムを買った僕らはそのあとメリーゴーランド、コーヒーカップと動きの激しくないアトラクションに片っ端から乗り込んでいた。梓の体調を考えたうえでの提案だったが、思いのほか熱中してそれぞれ三回ずつ連続で乗り倒した。ずっと座りすぎていたせいか若干お尻が痛かった。


 乗り終わると時刻は5時に差し掛かっていた。あんまり遅くなると親御さんにも迷惑がかかるということで僕たちは最初に入ってきた入口へと帰り支度を進めていた。


「あ、そう言えば一つも写真撮ってなかった」

「「「あ」」」


 僕のその一言に口をそろえてしまったといった表情を浮かべる三人。今日はアトラクションに夢中になっていたあまり写真を撮るのを忘れていたようだ。


「いや、今からでも遅くはないよ。あそこで並んで取ろうよ」


 そう言って僕が指さした先はちょうどこのテーマパークの象徴ともいえるお城がバックに来る人気の撮影スポットだった。夕日が出てる絶好のタイミングのおかげかちょっとした行列が出来上がっていた。


「いいな!最後に撮ろうぜ」


 誠太がノリノリで列に並びに行ってしまった。まだそんな体力が残っていたんだと苦笑しながら後を追った。


 10分ぐらいしてからようやく僕たちの番が来た。四人で映るためには後ろの人に撮影を頼む必要があるので、僕は振り返ってできるだけ愛想よくしながらスマホを手渡そうとした。


「すみません、写真お願いしてもいいですか?」

「おういいぜ――って宇佐美!?」

「え?」


 出し抜けに僕の名前を呼ばれたので顔を上げると、そこには見覚えのある短髪に気の強そうな目つきの青年がいた。


「あれ?陽介じゃねーか。どうしたんだこんなところで」

「誠太もいるのか!?てか岩城や市原まで!?なんで!?」


 僕と五十嵐とのやり取りが気になったのか他の三人もそろってこちらを向きはじめた。


「その前に写真だけ取ってくれるか?」

「あ、ああ。あとできっちり説明してもらうからな」


 なぜか僕を睨みつけながらも素直に写真撮影を引き受けてくれた五十嵐。最後の最後に彼と会ってしまったことで大幅に帰宅時間が引き延ばされることを察した僕はもはや乾いた笑いを漏らすしかなかった。


お久しぶりです。なかなかモチベが上がらなかったのですがこれではあまりに無責任だと思い、完結するまで書き切ろうと思いました。投稿頻度は著しく落ちてしまいますがそれでもよかったらどうぞ温かく見まもっていてください

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