おてあげ
あれから数日という時間が過ぎた。
だがしかしーーー未だ賢者アーチェは目を覚まさずにいた。
大賢者ファーストが言うには、後数日もしたら勝手に起きてくるじゃろう…とのことなのだが…。
ーーーーいや、それよりも、
「んにゃ〜、トオルく〜ん〜」
当の本人。
賢者アーチェの寝言が凄かった。
しかも、言うこと全部が神宿のことばかりなのだから…。
「…………」
「…………」
後、付け足すと、カルデラとカフォンの二人から来る……冷たい視線が物凄く痛い。
(…ぅぅ……拷問だよな、これ…)
まだ傷も完全に完治していない上、居心地も悪い…。
ゲンナリとした表情を浮かべる神宿は、ドッと疲れたように重い溜息をつくのであった。
そして、話は戻って現在。
アーチェは眠り、先にいた勇者候補のシグサカたちも謝罪の後、早々に出て行った頃。
「しかし、お主も見かけによらず罪な男じゃの〜」
「うるさい。…ってか、いつまでここにいるつもりなんだよ、アンタ」
男子寮の訓練場。
火と風の初期魔法を維持する修行を行う神宿は、隣で不自由なく宙に浮く少女。
大賢者ファーストを見やる。
「まぁ、あのバカ弟子が目を覚ますまでじゃな。どうせ、アヤツは自分が暴走したことすらわかっておらんじゃろうし」
「ん? いや、わかってない、って……普通ああいうやつって、ちょっとは記憶が残ってたりするものじゃないのか? あの時だって、俺の声にも少しは反応してたし」
「馬鹿を言うな。そんじょそこらのバケモノならまだしも、あれは一応は神部類に入る存在なんじゃぞ? 封印できているだけでも奇跡に近いんじゃから」
そう語るファーストが、やれやれといった仕草を見せる。
「……」
……確かに、あの戦乙女ワルキューレからはモンスターとはまた違った脅威を感じた。
対峙したからこそわかる。
それは今まで感じたことのない、また別の悪寒にも似てはいたが……。
「全くこれじゃから素人は」
と、未だベチャベチャ喋る大賢者に神宿は若干ムッとしながら、
「……なぁ、それよりも」
指を別方向に指差しながらーーーー神宿は言った。
「あれ、どうにかしてやれよ」
その直後。
ガン!! バン!! という二つ音が訓練場が破壊していく。
ーーちなみに、それらの行為を行っているのは、ファーストから授けられた魔法具を操る二人の少女。
ーーーカルデラとカフォンなのだが…。
「重っ、重いっ!?」
「わわっ!? あ、あっ、熱い!?」
一人は青い剣の重みに負けて、動けず。
後、一人は銃に込めた魔力量の加減を間違えたらしく、熱を持ってしまった赤い銃にワタワタしている。
「………」
「………」
…その、あまりの現状に神宿が冷たい視線を向ける中、大賢者ファーストは困った様子で渋い表情を浮かばせながら、
「う、うむ……アヤツらの適性を見て、やったつもりじゃったのじゃが……まさか、ここまでとはな」
それはもう。
大賢者ですら、お手上げの現状になりつつあるのであったーーーー。




