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誰のために





異世界への転生。

自身の死。


それらをカルデラに語った神宿は、重い息を吐いた。



「…それじゃあ、トオルはもう」

「ああ…」



もう家族に会うことも出来ない。

もうこの世界で死ぬことも出来ない。



「……まぁ、今更どう騒ごうとも、仕方がない…って言えば、仕方がな」



神宿はそう言って笑いながら、言葉を続けようとした。

だがーーーー






「ーー仕方がないわけがないじゃない!!」







その時。

目の前に立つカルデラは立ち上がり、怒り任せに言葉を叫んだ。

そして、彼女はその瞳から涙をボロボロと零しながら、


「私は、勇者がどんな辛い目に会うのかを知っているの!! お父様から聞かされたの!! 勇者ってだけで、背負わなくてもいい責任を背負わされる、それが勇者だって!!」

「………カルデ」

「それなのにッ!! 何でトオルはそんなに笑っていられるの!!どうして、トオルは嫌だって、叫んでくれないの…!」


それは幼い頃、彼女の父。

剣豪シサムから勇者となった者の末路を聞かされた。


そして、それはーーー避けられない運命でもあったのだと…。



しかし、だからこそ。

例え意味がなくても彼にーーー神宿に嫌だと言って欲しかった。




だが、それでも彼は、




「……叫んだところで、どうにもならないからさ」



そう言ってはくれなかった。

また困ったように、優しげな笑みを浮かべるだけだった。


「自害阻止と自然治癒、この二つがある以上、俺はこの世界からリタイヤすること出来ないし……勇者候補だって事と、なしには出来ない」

「ッ、で、でも」

「だけど……それでも全部が嫌ってわけじゃない」



勇者候補として落とされ、また死ぬことも出来ず、この世界から逃げることも出来ない。



しかし、それでも彼はーーーー自分のことを大切に思ってくれる、アーチェやカルデラに出会うことが出来た。



だからこそ、神宿は笑っていられるのかもしれない。



「…トオル」

「まぁ、何となくだけど、勇者って言葉に嫌な感じはしてたんだ。…だけど、勇者って事が他の奴らにバレなければ……俺はまだこの場所にいられるんだろ?」



神宿はベッドから起き上がり、カルデラの元へと歩いていき、そんな泣きじゃくる彼女の頭に手を置く。



「だったら、その間だけでもーーー楽しむさ、俺は」


そうして、神宿はーーー笑いながら言った。




「アーチェの期待に応えて、カフォンの悪い噂を払拭させる。それからお前とも約束した、回復魔法の習得とかも手伝うさ」







茫然とした表情を向けるカルデラ。

対する神宿は再び口元を緩ませながら、その手を離し、カルデラの横を通り過ぎていく。



「あ、トオル」

「それじゃあ、ちょっと師匠が心配だから、見てくる」




そして、彼はそう言っては軽く手を振りながら、その部屋を後にするのだった。












一人、空き部屋に残されたカルデラは神宿が言った言葉を思い出す。



アーチェのために。

カフォンのために。

そして、カルデラのために。



……しかし、



「…でも、その目標がなくなったら…」



そのどれもが全て終わった時。

勇者としての運命だけが残された時…。





「トオルは…どうするつもりなの……」




先の見えない悶々とした不安が、カルデラの心を強く締め付ける。


誰もにも言えない、その言葉にーーー彼女は再び涙をこぼすしかできなかった…。



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