報われることのない物語
一年、二年の月日が経ち、剣豪シサムには妻が出来た。
また領地に住む人々からは盛大に慕われ、王宮のように建てられた城には数々の旅人、新米の兵隊たちが集うようになった。
そして、剣豪自ら兵士たちを鍛えるなどといった事から、各都市からも注目を集める存在へとなった。
威厳ある存在ーーとは少し程遠い、その領地の王へとなった。
ーーーーそんな、ある日のことだ。
「勇者狩り、だと?」
「はい」
とある情報元から、その噂を耳にしたシサム。
同時に彼の脳裏には、数年前に別れたユリン、そしてティオルの顔が浮かびあがり、
「……すまんが、その勇者狩りが起きた場所について、詳しく調べてくれ」
「はい」
何かーー嫌な予感がする。
眉間にシワを寄せるシサムは直ぐ様、外へと出る準備を行い、情報元にあった勇者狩りーーーーその付近にあった村へと足を向けるのであった。
「…シサム様、ここです」
勇者狩りが行われた現場では何も得られなかった。
シサムは少しでも情報を手に入れようと、兵隊を数人連れ、少し離れた地にあるその村へとやってきた。
だが、その村には既にーー
「近辺にある村から情報を集めたところ、この村は既に…」
「………」
その数日前ーーー魔族によって住民皆が殺されていた。
それがこの時代における、此の世のさがでもあった。
だが、その話よりもーーー
「……これはなんだ?」
シサムが先に目に止めたのは村の中央。
そこには、焼け焦げた地面と、同じく焼け焦げた木材で作り上げた二つの十字架。
まるで大人用と子供用、それらに分けたようなものがその現場に置き捨てられていた。
「…し、シサム様」
「……この村の…生き残りはいるのか?」
「え…あ、はい。他の村ではありますが、盗みを働いた男が一人いたと」
「なら、そこへ案内しろ」
胸の内からやってくるざわつき。
それを押さえ込むように、シサムは険しい表情で、その話に出た盗みを行なった男の元へと向かうのだった。
滅びた村から遠く離れた地。
罪人が入れられる、その牢獄にその男はいた。
村の住民が全員殺された前日に村を出たおかげもあって、その男は死なずに済んだのだという。
そして、牢獄の檻を境に剣豪シサムとその男が対面し、向かい合い、
「質問にこたえろ」
威厳ある口調で、シサムは言った。
「あれはなんだ? まるで、生贄を吊るしあげたような痕……あそこでお前たちは何をやっていた?」
その言葉通り、剣豪シサムが疑問を抱いたのにはワケがあった。
魔族によって殺された。
それなら、話はまだ簡単だった。
だがーーーーーーシサムは知っていた…。
ーーーーー魔族という存在が、あんな殺し方をしない、ということ。
だからこそ、この男に聞かなければならないとシサムは思ったのだ。
あの村で、起きたことをーーー
ーーーーと、その時。
「ーーーアイツらが、悪いんだ」
「なに?」
男の言葉に片眉をあげるシサム。
そんな彼に対し、その男はーーーーーーー
「アイツらが、悪いんだッ!!!」
狂気に満ちた顔でーーーー
「勇者なのに!皆を守らないといけない
!!それだっていうのに!!あのユリンとかいうヤツが勇者をやらなかったから! だからっ、俺たちの村のッ! 子供がみんな死んだんだ!!」
「ッ!?」
ーーーーあの村で起きた悲劇を、男は語り、始めたのだった。
ーーーーーそして、それから数日が経った中。
その日は大雨で地面が濡れ、視界が見えづらかった。
しかし、それでも、
「ーーーーユリン」
部下を戻らせ、一人歩き続けた剣豪シサムは、ようやくかつての仲間。
「…シサム、か」
全身と剣、それらを血に染めた男ーー勇者ユリンと再会を果たすのだった。
ーーーーあの牢獄で、男は語った悲劇。
その話にはーーー二人犠牲者が存在していた。
シサムと別れ、それからしばらくしてユリンは勇者を辞めた。
そして、新しく見つけた村に住みつき、また一人の娘を恵む事が出来た。
ーーーまるで夢のような一時の平穏が、ようやく、彼らに訪れようとしていた。
だが、そんなある時ーーーーーーその村に、悲劇は起きてしまった。
ユリンが漁のため、村を空けたーーその時、魔族が責め入り村に住む子供たちを殺し回ったのだ。
当然、ティオルもまた魔族を倒すのに、貢献した。
いやーー彼女のおかげで村人全員が死なずに済んだのだ。
ーーーーだが、その時。
お前たちが…勇者を続けてさえいてくれれば!!
俺の子は!私の子わ!! 返せ!返せ!!!
何で私たちの子は助かって!何でお前たちの子供は死んでない!!!
許さない!許さない!!!
ーーー魔族でない。
ーーー守るべき人間が、ティオルたちに牙を剥いた。
ーーーーーーーーーそれは明らかなまでの逆恨みだった。
だが、魔族との戦いによって疲労していたティオルにとってーーーー抵抗することすら出来なかったのだ。
ーーーーーそして……
「 」
村へと帰ってきたユリンは、その瞳で見てしまった。
村の中央。
立たされた十字架に火がつけられ、焼き殺された我が妻と、そして、我が子の姿をーーー。
雨が降り続く中、勇者とは程遠い殺気に満ちた瞳を向けるユリン。
そんな彼に、シサムは言葉を掛ける。
「ユリン…もう、やめてくれ」
「何がだ」
「勇者を狩る、その行いをだ。…事情は、全て聞いた。お前の怒りや悲しみは、俺にも理解できる! だが、お前の行いは、もう!」
「ーーーーーー何が勇者だ」
ユリンは、ゆっくりとした動きで振り返る。
「俺たちは勇者に疲れ、勇者であることをやめた。そして、都市とは程遠い村で平穏に暮らしていたんだ。ただそれだけだったんだ。ーーーーーそれなのにッ」
ユリンは歯を噛み締め、瞳孔を見開きながらーーー叫んだ。
「何故!! 俺たちが、俺の妻と子が殺されなければなからなかったッ!!悪いのは魔族だろ!俺たちがやったわけでもない!!他に勇者はいた!それなのに!!!それなのにッ!!!」
勇者である事は特別な事でもある。
だが、同時にその者は魔族を倒さなければならないという、悲しい宿命を背負わされることになる。
魔族、そして、守るべき人間たち。
そんな彼らから身を守るためにもーーー勇者は戦い続けなければならなかったのだ。
勇者を捨てたものの末路に、至らないためにも……。
勇者を放棄したからーーーー彼の子はーーーテティオルは、殺されてしまった…。
そしてーーーーーその結果、ユリンの心は死んだ。
「魔族は減らない。なら、数える程しかない、勇者を殺せばいい」
「ユリン…」
「そうすれば、もう誰も勇者がいないからなんて、言わなくなる!! そうだ!そうすれば!!」
「ユリンッ!!」
シサムの叫びと同時に、狂気に満ちた表情で襲いかかってくるユリン。
そうして、勇者と剣豪。
互いに望んでいなかった、戦いが始まってしまった。
ーーーーーー激しい剣戟が、長時間と続いた。
激しく剣を重なり合い、泥や水、そして血が何度もなく飛び散る。
だがーーーーーー決着は訪れてしまった。
「っ、がぁ!?!」
それは、剣豪シサムが持つ剣。
その輝きに満ちた鉄の刀身がーーーーユリンの心臓を貫いたのだ。
両者荒い息を吐きながら、その場に倒れる二人の男。
ボロボロの姿と痩せこけた体をしたユリンと鎧に身を固める剣豪シサム。
ーーー勝ち目などないことぐらい、以前のユリンなら直ぐにわかるはずだった。
「……ユリン」
倒れるユリンに、そう名を呼ぶシサム。
だが、対するユリンは荒い息を吐き、既に虫の息に等しいほど、死にかけていた。
ーーーだが、最後に彼は言ったのだ。
「ーーーーーーーすまなかった…ティオ…ル」
それは、後悔から出た言葉だった。
そうーーーー自分が勇者でなければ……という…。
頭上から降り続ける雨が、血を濁す。
その場で息を引き取ったユリンを見つめる剣豪シサムは、その場に崩れ落ちーーーーー
「ユリン、ユリンッ、ぅぅぅ、うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーッ!!!」
大粒の涙とともに、嗚咽を叫び続けた。
ーーーーー誰も報われることのなかった結末。
それがーーーー剣豪シサムが仲間として同行していた勇者。
ーーーーユリンの物語だった……。




