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◆新しい魔法




アーチェの弟子となり、それからまた数日が過ぎた頃。

神宿は今、物静かな周囲に何もない個室の中で、手汗を握る思いでソレに集中していた。


「…………っ」


ソレは神宿の掌。その上で宙を浮くようにしてその場に留まる水の塊。

彼は、そのフワフワしたまん丸いソレに対して自転を加える魔法の修行を行っていたのだ。

それも急回転ではなく、一定の速度を維持しながらゆっくりと回転させるように……。

だが、それも束の間。

パチンッ! と球体だった水がその場で破裂し、


「はい、そこまで」


そこで、神宿の背後にいたアーチェの声によって修行は一時取り止めとなった。


「……はぁーっ」


神宿は頭を押さえながらその場に座り込み、荒い息を吐く。

その一方で、そんな彼の様子を見つめるアーチェはウンウンと頭を頷かせながら、修行の成果に対して一人口元を緩ませていた。


「今回は長い時間魔法の維持が出来たみたいだね。うんうん、昨日より今日。確実に成長してるよ」

「はぁ、はぁ……疲れた〜」

「ほらほら、そんな所で倒れて寝ようとしない。後、もうそろそろお昼の時間だからね? お昼ごはん、よろしく〜」

「うっ……」


神宿自身、本当ならこのまま休憩にありつきたかった。

だが、この前の勝負の件もあって神宿は料理当番を勝ち取ってしまってこともあり、


「ご飯〜! ご飯〜!」

「あのヤロウ……」


こうして、午前のアーチェ直々修行が終了したのであった。







「ところで、あの修行いつまで続けるんだよ?」

「うん?」


リビングでちゃっちゃと昼食を作り終え、共に食事を取る神宿はそう言って最近ずっと思っていた不満をアーチェに嘆掛ける。

だが、一方の彼女はそんな彼に対してニヤニヤと口元を緩ませ、


「いつまでって、ずっとだよ? あ! もしかして、そろそろ飽きてきちゃった?」

「うっ」

「まぁ、男の子だもんね〜? そろそろかな〜とは思っていたんだけど」

「……わ、悪かったな」


からかわれていると分かり、顔を赤くさせる神宿。

子供っぽいと言われれば、実質的には子供であるのだが、それでもそこはやはり男の子ということもあって、多少は凄い魔法などを使ってみたいと思う気持ちもあるのだ。

ーーーーとはいえ、


「でもね。あれは基礎中の基本だからね、一応は無我にしちゃダメな感じだし」


気持ちは分かるも、基本は疎かにしてはいけない。

そう説明する手前で渋い顔を見せる神宿に対し、アーチェはしばし考え込み、



「う〜ん、まぁ、とはいえちょうどいい頃合いでもあったわけだし、トオルくん? 試しに新しい魔法にチャレンジしてみる?」

「……え!?」



その言葉に、神宿はあからさまに顔を上げ驚いた表情を見せる。

だが、その目の奥には、新しいおもちゃを欲しがる子供のような煌めきがある風に見え、


(かわいいなぁ〜)


アーチェはそんな眼差しに対してニコニコとしながら、軽い調子で掌に小さな水の塊を作り出した。


「それじゃあ見ててね」


そして、神宿が見つめる中、アーチェはその水を操り球体を変化させていく。

それはまるで生きているかのような小さなミニチュアの蛇へと姿を変え、


「こ、これって……」

「これは造形魔法っていう魔法なんだけど」

「造形……?」

「うん、造形はどの系統でも使うことが出来る魔法で、慣れれば何でも思い通りに作ることが出来ちゃうの」

「……な、慣れれば」

「え〜と、例えば剣や槍だったりとか。後、命令を加えた魔法人形も作れちゃったりする感じかな」


思いのままに造形できる。

それは男の子にとってはまさに心を刺激するような魔法であり、神宿は期待に焦りながりもゴクリと唾を飲みこませていた。

そうした中で、アーチェは小さな蛇を再び操り、今度は小鳥、それから小さなスプーンへと変化させ、



「それじゃあトオルくん。一回試しにやってみようかな。あ、ちなみに操る属性は水でやるように」

「お、おう……」



神宿はアーチェに習い、見様見真似でまず始めに掌に魔法で水の塊を作り出す。

そして、そのまま力やら集中やらを加えてーーーー




「もうギブアップ?」

「はぁーはぁーはぁーっ!」




その数時間後。

結果として、神宿はテーブルに覆いかぶさるようにしてバテていた。


というのも造形魔法というものは実のところ大量の魔力を有する魔法でもあり、それをいかに精度を上げ、無駄なコストを減らせるかが肝となる、かなり精細なレベルの魔法でもあったのだ。


そして、またそんなタチの悪い魔法を初見で見せるアーチェもアーチェだが、



「まぁ、今ぐらいだとこれぐらいかな。トオルくんが扱えるサイズだと」



そう言ってアーチェがクスクスと笑いながら、小さく作った小指サイズほどの水蛇を摘んで神宿に見せる。

だが、その小馬鹿にした態度が、カチンと神宿の逆鱗

に触れ、


「まぁ、その分だともうそろそろ魔力も切れるころだし、トオルくんも諦め、ってあれ? トオルくん? 聞いてる?」


アーチェの言葉を無視してながら、神宿は再び魔法に集中する。

ここまでの時間、やり続けた甲斐もあって何となくだが感覚は掴むことが出来た。

だから神宿は、残るは精度と魔力のみと踏み、


(一回でもいいから、成功させてやる!)


キュルキュルキュル!! と音を鳴らせながら、



「えっ!?」



アーチェが驚きの声を上げる中、神宿はついにその手の上で造形魔法による小さな小蛇を作り出す事に成功したのだ。

それも、彼女が先に言っていたサイズより少し大きめのサイズで、


「やっ、やったぞ。……はぁ、はぁ、や、やればできるだろ……?」


神宿は疲労した顔でニヤリと笑いながら、それをアーチェに見せる。

その顔はまさに、やってやったぜ、といった顔であったが、


(そんなヘトヘトな顔で言われてもなぁ〜)


驚きつつ。

呆れつつ。

アーチェは困りながらも小さく笑みを作り、神宿の手に乗った小蛇を手に取った。

そして、少しは労いの言葉で言ってあげようと思いながら、



「凄いね、トオ」



アーチェがそう言おうとしたーーーーその時だった。

ピョン、と神宿が作った突然と飛び跳ね、


「え?」

「は?」


次の瞬間。

小蛇はアーチェの胸元から衣服へと、スルリと這いずるようにして侵入したのだ。




「ッ!?!? うひゃーーーーっ!?」




アーチェの口から、何とも女の子らしい悲鳴を上げられる。

神宿が作った水蛇から発せられる冷たさが彼女の肌を撫でるようにして、上から下へと潜り込み、


「とと、とって!? はやくぅ! トオルくーん!!!」

「いや、って言ってもっ!?」


助けようにも、床に倒れてクネクネとするアーチェの姿がその…………物凄くヤラしかった。

だから神宿自身、下手に触ることも出来ず、




「っ!? ゃ!? ま、まって!? それダっ!? しょ、しょこダメぅぇえええええええーーーーっ!!!!! 」




神宿が作った水蛇の魔力が尽きるまで。

アーチェの悲鳴が森の家から木霊したのであった。







そして、その翌日。

小部屋にて、


「トオルくん? ねぇ、トオルくん? もうちょっといけるよね? ほらほら、頑張って」

「…………無理」


みっちり怒られ、また全身に五キロの重圧が乗る魔法を掛けられた上で倍の修行をさせられた神宿は尸のように、その場に倒れるのであった。






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