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かつての仲間

誤字指摘とありがとうございます!!








それは剣豪シサムがまだーーーーー剣豪、という名を手に入れてない、若い時代の時の話だ。







剣の修行のため、各地を飛び回っては道場破りのように冒険者に戦いを挑む。

まさに、破天荒さを際立たせていた頃が彼にもあった。

そして、またその日も、



「おい、俺と剣の勝負をしろ!」



彼は、一人の少年に喧嘩を売っていた。


その者の名はーーーー勇者ユリン。

最近各地で耳にするようになった、魔王を倒すため旅をする者だ。


黒髪な上、少し幼げのある顔立ちが残る少年。

が、しかし。

ユリンは、その外見とは裏腹に、




「おう、いいぜ!」




活発な男の子でもあるのだった。

剣と剣、互いに構えながら、笑い合うシサムとユリン。


ーーーだが、そんな彼にも、



「コラ!」



ゴン! とユリンの頭に拳を落とす者。

その無鉄砲さに、ブレーキをかける者がいた。

それが、白いローブに身を包んだ少女。



「何回言ったらわかるの、ユリン! 勇者がそう簡単に力を見せる者じゃないのよ!」



魔法使い、ティオルだった。




「いてぇな! 何すんだよ、お前!」

「毎回毎回何いってんのよ! そもそも私がどれだけ貴方のせいで苦労を虐げられているのか!」


そして、それから小一時間。

ぎゃあぎゃあ、と喧嘩し合う二人を前にしてーーーーーシサムは剣を構えたまま、


「……俺、いつまで待てばいい?」


と、悲しいつぶやきを漏らすのであった。




そして、ーーーシサムもまた、いつの間にかユリンたちと共に旅をするようになり…。



シサム、ユリン、ティオル、の三人はーーやがて勇者の一行として世に知れ渡るようになっていくのであった。











そして、それから数年が経ち、共に大人へと成長を遂げた。

そんな頃、




「へぇ、それじゃあシサムは剣豪になるのか?」

「おお、まぁ…な」

「ん?どうした、似合わねえツラなんてみせて? 嬉しそうじゃねぇみたいだなぁ?」



とある街の酒の席。

共に顔を赤らめながら飲酒する二人の男性、ユリンとシサムの姿がそこにはある。


そして、そんな彼らの後ろから、それまた美女へと成長したティオルがやって来て、


「コラ、ユリン。シサムにも色々思うところがあるんだから、そんなぶっきらぼうに聞かないの」

「へいへい」


口をへの字にしながら、そうぼやくユリン。

その一方で、ティオルは小さく謝りながら、ユリンの隣へと座った。





「それで、どうしたのシサム? 何か相談したい事でもあるんじゃない?」

「ん、あ…ああ」

「さっさと言っちまえよ、ほら、早く」

「コラ、ユリン!」


再び喧嘩するユリンとティオル。

だが、そんな中でシサムは、





「…俺は、これから儀式や諸々やることがあって……このチームから離れなくてはならなくなった」




そう、言葉をついたのだ。



剣豪になる条件として、一つの土地。その場所の管轄を担わなければならなくなった。

だから、これから先一緒に旅ができなくなる。



ーーーそう、シサムは言ったのだ。







「そうか………」


ユリンはそんな彼の言葉を聞き、しばし無言になった。

シサムとしても、気が気でない思いだった。



だが、ユリンは。

そこからポツリと言葉をこぼし、





「実はな。俺も、そろそろ勇者をやめようと思っているんだ」

「!?」





とんでもない言葉を言ってきたのである。



当然、驚いた表情を浮かばせるシサム。


だが、その中でティオルだけが何故か驚いた様子もなく、変わりに頰を赤めながら、


「…もう、なんで先に言うかなぁ」


と、恥ずかしげに言葉を漏らすのだった。








後になって知った事だが、ユリンとティオルの二人は影で付き合っていたらしく、またこれから先、勇者として活動していく事に限界を感じていたのだという。



「俺一人が勇者なら、仕方がない、って思ってたさ。だけど、ここ数年、勇者と名をつく奴が各地に現れてるっていう話を耳にした」

「………」

「それでも勇者かー! って、お前ならなるだろうな。でも、俺もだけど……ティオルも疲れちまったんだよ」

「…………」



確かに、勇者としての活動に、楽しい、だけの思い出はなかった。

辛いことや、悲しいことーー。


中には、守るはずの人間からーー


『お前たちが、早く来てくれたらっ! そうしたら、俺の家族はッ!!」


怒り、憎しみを向けられることもあった。


ーーいや、それが大半だった。






「………そうか」


シサムは静かに酒を啜り、二人の男女を見つめる。


これまで一緒に旅をしてきたユリンとティオルを。

幼かった頃の少年少女が、今では立派な大人へと成長した、彼らをーーーーー






「なら、わかった。俺は…何も言わねぇ」

「……いいのかよ?」

「何、そもそも先に抜ける俺に言えたタチじゃねぇからなぁ」

「………」

「……まぁ、それに……だ」


ユリンとティオルが見つめる中、シサムは小さな咳払いをつきつつ言葉を続け、





「俺としてもーーーーお前らには、幸せになってほしいんだ。……こ、これでも…な、仲間、だからな」





と、…そっぽ向きながら、そうシサムは口走るのであった。






そして、その時。

一瞬、置いてけぼりにあったように、ポカンとなったユリンとティオル。

だが、その直ぐ後で、



「クッ、クク!!」

「ふふっ!」

「っ!?!? わ、笑うな!!」



二人に笑われ、シサムが大声を上げる。

だが、対するユリンは目に涙を溜めながら、手を動かし、盃を彼に向けて突き出す。




「ん、何だこれは? 俺にはまだ酒が」

「ちげえよ。これは、そのアレだ。…乾杯とか、祝福とかを願っての」

「気にしなくていいからね、シサム。ユリンはただ照れてるだけだから」

「ッ!? ち・げ・え・よ!! 本当だからなぁー!」



本当かなー? と笑うティオルに歯をむき出しにするユリン。

仲睦まじい、その二人の姿にしばし茫然となるシサム。

だが、



「っ、はは……」



そんな彼らの姿を見て、安堵したように、彼は物静かに笑い、そんなシサムを見て、同時に二人も笑った。








そして、三人は共に盃をかちあわせ、またいつかーーーー共に落ち着いた時に再会しよう、と約束を交わすのであった。


















そうして、それから数日後。

シサムは、勇者一行を離れーーーーその一年後。

ーーー剣豪という名を手に入れた。






その間、二人の噂はピタリと止みーーーー








どこか平穏な場所で、二人は暮らしているのだろう、と。

剣豪シサムは…………そう思っていた……





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