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勇者とは




物静かな…暗闇の中。

冷んやりとした冷たい何かが、額にゆっくりと乗せられた。


「………ぅ」


思考がボンヤリとする中、その冷たさに気づき、ゆっくりと目を覚ました神宿。

そして、その開いた視界の先にはーーー




「あ、トオル…」




彼の目覚めに一時の喜ぶ顔を見せるも……何故か再び悲しげな表情を浮かべる少女ーーーーカルデラの姿がそこにはあった。









アーチェを助け出した後、こと切れるように神宿は倒れ、再び意識を閉ざした。


その後、ファーストによって魔法で運ばれた神宿たちは今、魔法学園の一角。

神宿だけが住む男子寮の寝室に寝かされることになったという…。



ーーーそして、隣の部屋でアーチェもまた眠りにつき、カフォンが側についていると聞かされた神宿は、



「…そうか」



アーチェを助けることが出来た。


その事に神宿は心の底から、ホッと安堵の息をついた。

全身の気だるさは未だ抜けきってないが、そへでもあの時、完治してなかった体の傷は癒えている。


もしかしたら、看病してくれたカルデラが回復魔法を使ってくれたのかと思い、



「あ…もしかして、俺の怪我とか、カルデラが治してくれたのか? それだったら」

「ーーー私じゃ、ない」

「え?」


その落ち着いた声に神宿が目を丸くする中、カルデラは真剣な表情で真っ直ぐと彼を見つめる。


そして、その小さな唇を動かし、








「トオル。……勇者候補って、何なの?」






その言葉をーーーー尋ねたのだった。











今から数時間前。

カルデラがその異変に気付いたのは、神宿が倒れた時のことだった。




戦闘音が鳴り止み、急いで神宿の元へと向かったカルデラたちはそこで地面に倒れる彼を見た。


「トオルっ!!」


カルデラは急ぎ神宿の側に駆け寄り、その体に手を掛ける。

そして、側にいたファーストに向けて、


「ファーストさん! はっ、早く! トオルに回復魔法を」

「無理じゃ。ワシ、もう魔力スッカラカンじゃし」

「っ、そんな!」


そのふざけたよう言い草に、カルデラは悲痛な表情を露わにする。

だが、




「それに、コヤツに回復魔法なぞ必要ないじゃろ?」



え? とその言葉に眉をひそめたカルデラ。

ーーーーその時だった。





「ね、ねぇ……そ、ソイツの体…」

「え……?」





カフォンの声に導かれるように、カルデラは視線を神宿に向けた。

すると、そこにはーーーー




「……何、これ…」




淡い光と共に、微かに残っていた擦り傷が治っていく光景が目の前に広がっていたのだ。



回復魔法ーー?


と、最初はそう考えたカルデラ。

しかし、今も眠っている神宿にはそれができるはずもなく、また誰も彼に魔法を掛けている様子もない。


カルデラが困惑した表情を浮かべる中、ひょこっと近づき顔を出してきたファーストは唸り声をあげながら言った。






「ふむ、まぁ…聞いていた通りの内容じゃが………しかし、何とも融通の利かないスキルじゃのう」

「…す、スキル?」


今まで耳にしたことのない言葉に対し、不安げな瞳でファーストを見つめるカルデラ。

だが対する彼女は逆に首を傾げながら、尋ね返すように言葉を言った。






「なんじゃ? お主、父親から話を聞いておらんのか?」

「え…」

「ある特定の人物にのみ、女神からスキルとして与えられる力。お主の父親がかつて同行しておった者がもっておった力なんじゃが…」

「な…何を、いって」


意味がわからない。

困惑した表情を浮かべ続けるカルデラに、ファーストは手をポンとやりながら、






「あ、そうか。そもそもお主らは知らなかったんじゃなーーーーーーーーコヤツが勇者であること」








その時。

その場にいたシグサカやカフォンもまた言葉をなくした。

キャロットは唇をつぐみ、黙っていたが…。




「……トオルが………勇者…」



平然と言ってのけるファーストに、カルデラは茫然とした様子で倒れる神宿を見つめる。





そして、その時。


ーーーーカルデラは、思い出した。

それはまだ幼かった頃、父親である剣豪シサムが聞かしてくれた昔話のことを…。







『だが、同時に勇者になった者にはーーー逃れられん宿命も背負わされることにもなる』








それは、悲しい…悲しい…最後まで報われることのなかった、一人の勇者の物語を…。






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