大賢者の実力
紅の槍によって貫かれた少女の胴体から、赤い液体がこぼれ落ちる。
「《これで終わりです》」
勝敗がついた事に対し、氷のような瞳を細める戦乙女が言葉を送る中。
グラリ、と少女の体は倒れーーーーー
次の瞬間。
バシャッ、という水しぶきを上げ液体へと戻った。
そして、
『バウン・ルーチューーー』
「《!?》」
先の戦闘で、戦乙女の背後に飛び散った魔法の水。
その液体から飛び出るようにして少女の姿を形付け、姿を現わした大賢者ファーストはーーーー唱える。
『ーーーーーーリヴァイアサン』
その直後。
空中に展開された巨大な魔法陣。
その中央から召喚された水龍リヴァイアサンが、戦乙女をそのバックリと開いた顎で飲み込んだ。
『油断大敵じゃな!』
そう言葉をつき、空中に浮くファーストは、続けて魔法陣を展開させていく。
それも直列ではない、バラバラの位置でだ。
ーーーーその刹那。
「《スクルド》」
水龍を内部から吹き飛ばした戦乙女は再びファーストの目の前に、瞬間移動をしたかのように姿を現し、その手に持つ槍で彼女の心臓を貫いた。
しかし、飛び込んだその位置は既に、
『残念じゃが、そこはチェック済みじゃ』
液体へとかえるファーストの肉体。
そして、再び戦乙女の背後に姿を現わすファーストの言葉通り…、
「《!?》」
陣によって召喚されたリヴァイアサンが顎を開けるーーーその到達ポイントだった。
ガブッ!!という音と共に、再びリヴァイアサンに食われる戦乙女。
水龍内部の水自体が放電しているかのように、戦乙女の体にダメージを与える中、彼女は再びスクルドの言葉を唱えようとした。
その時。
「《ガッ、ポッ!?!?!》」
まるで水自身に意思があるかのように、戦乙女の口内に水が浸入したのだ。
現状、ワルキューレは人という原型をとどめ、更には賢者アーチェの肉体を乗っ取っている。
ーーーー確かに、一見してみれば彼女は神に近しい存在なのかもしれない。
だが、その人間という体にとってーーーーーー呼吸を封じ込められれば、どうなるか?
「《ッカ!?!?》」
呼吸を封じ込められ、戦乙女はもがき苦しむ。
しかし、その手に持つ紅の槍を振るう事によって、水龍は一瞬にして四散されてしまった。
例え弱点を突いたとしても、それは一時のものでしかない。
ーーーーだから。
『ワシは、攻撃の手を止めんぞ?』
空中にいくつも展開された魔法陣。
その陣全てから召喚されしリヴァイアサンは、戦乙女ワルキューレを食い続けた。
ーーー攻撃手段でもある、槍以外の手を全て封じさせ、溺れさせるために。
だが、リヴァイアサンの召喚にも限度がある。
魔力不足によって陣の展開が尽きかけた時、四散したリヴァイアサンから地面に無様に倒れ落ちた戦乙女は、全身を濡らしながら荒い息を吐き、
「《ッハァ、ハァ、ハァ、ッ!! 貴様ァッ!!!!》」
怒りの形相で大賢者を睨みつける。
先までの戦闘で見せていた印象をガラリと変えて、まるで人であるかのように。
…だが、対するファーストは地面にそっと着地しながら、息を吐き、
『なんじゃ? もしかして怒っておるのか?』
「《ッ!!!》」
『これでもワシはほとほと苦労して手加減をしておるんじゃぞ? お主がワシの弟子の体を使っているせいでな』
睨む戦乙女にそう言葉を続けた。
そして、その瞳を細めながら、
『じゃからーーーさっさとワシの弟子を返せ。これが最後の警告じゃ』
その言葉を告げたのだ。
その瞬間。
戦乙女の瞳が大きく見開き、怒りの形相が表情を支配する。
そして、
「《ーーーーーーーゲイルスコグルッ!!!!!》」
その言葉と共に、その手に握りしめた槍に炎を撒き散らせーーーーーーその絶大な威力を秘めし、一撃を放った。
ワルキューレ自身が持つ強大なエレルギー。それら全てを吸収させあ槍の一撃。
(…うむ…流石にまずいのう…)
魔力がそろそろ底をつきそうになっていた大賢者ファーストにとってーーーーーーその一撃は防ぐことのできない攻撃でもあった。
だから。
『グッドタイミングじゃ、小僧』
その次の瞬間。
ファーストの目の前に飛び出してきた、神宿がその攻撃の前に立つ。
そして、その強大かつ死を悟るよう攻撃を前にしーーーーー女神から与えられた自害阻止スキルが発動を開始させる。




