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最悪の展開





アーチェとバルティナ。

共に賢者の異名を持つ二人の魔法使いが対峙する中、



「……っ」



アーチェの背後に忍び込んでいた黒き獣が力なくして、その場に崩れ落ちた。

バルティナの魔法によって強固な防壁が張られていた館を強引に突き破ったのだ。


その代償はアーチェを含み、獣にとっても同じようにダメージとされ蓄積されてしまったのだ。






「弟子…ね。なるほど、だからあの時。貴方は、そそくさと帰ろうとしたのね」



バルティナが語っているのは、以前大賢者による招集の際、アーチェだけが先にあの場から離れようとしていた時の話だ。




『勇者の一人を掴んでいる』



そう話したバルティナに対し、アーチェは一瞬顔をしかめる仕草を見せた。


当初はただ彼女の言葉を耳にするのが嫌で、そういった態度に出たのかと思っていた……




「……でも、まさか貴方も勇者候補の一人を手に入れているとは思わなかったわ」

「……」


挑発めいた発言を続けるバルティナに対し、未だ口を閉ざすアーチェ。



「だけど、やっぱり貴方には荷が重かったようね? だって、勇者候補だっていうのに、彼……弱すぎるんですもの」

「ッ!」

「初期の魔法しか使えないんでしょ? だからあんな姑息な方法でしか戦えないんでしょ? ふふっ、本当に笑えるわ。師匠も師匠なら、弟子も弟子よね、本当に」



アーチェや神宿。

そんな二人を嘲笑うように、バルティナは声を上げながら笑い続けたーーーー









「………笑うな」









その時だった。

今まで黙っていたアーチェの唇が動く。



「…私のことだけなら、どれだけ罵ろうとが…危害を加えようが、何をしたって構わない…」

「………」

「だけど、これ以上。ーートオルくんを馬鹿にするな…トオルくんに危害を加えるな…トオルくんに触れるな」



瞳孔を見開かせた赤い瞳でバルティナを睨むアーチェ。

その場一帯に漂っていた殺気がより強いものへと乗算される。




ーーーーしかし、その状況の中で、







「へぇ………いつも守ってくれているバケモノがくたばってるくせに、粋がってるじゃない」





バルティナが口を動かした。

その次の瞬間。



ジジッジジジッ!!!!! という音と共に今まで何の変哲もなかった室内の壁から突如、巨大な魔法陣と共に稲妻が放たれる。





それはアーチェだけでなく、その場にいた倒れる神宿をも巻き込むほどの高出力の魔法だったーーーーー。













アーチェとバルティナが対峙する頃、ファーストたちは急ぎ神宿たちの元へと向かうべく、一本道となる通路を全速力で走っていた。


そんな中で、後ろを走るカルデラが荒い息を上げながら口を開く。


「あ、あの! ふ、ファーストさん!」

「なんじゃ! 走りながら喋っておると、舌を噛むぞ!」

「っ、はい……って、そんな事よりもです! さっきの言葉っ、どういう意味なんですか!」



さっきの言葉。

それは館に入る前にファーストが口にした、最悪の展開、という言葉についてだ。



「そ、そうよ! あの人の背後から出てきたあのバケモノなら、アイツとかも簡単に助けてくれるじゃないの!」


カルデラの言葉に乗っかるように、そう言うカフォン。

それはあの異様な姿をした獣を見たからこそ言える言葉でもあった。



だが、しかし。





「いや、おそらくじゃが…あの獣はしばらくは使い物にならんはずじゃ」

「え?」

「この館の主、バルティナの魔法は強固なものじゃった。それを何の策もなく、強引に突き破ったのじゃ。消えはせんじゃろうが、反撃する余力もないじゃろ」

「そ、それじゃあ、アーチェさんの身が」



最悪の展開ーーそれはアーチェの敗北を示すもの。


そうーーカルデラてカフォンは同じようにその光景を考えてしまった。








だが。





「いや、その逆じゃ。ーーーーーこのままでは、確実にバルティナは死ぬ」









ーーーーファーストは、そう言葉を口にしたのだ。


そして、続けて彼女は言った。






「なんせ、あの獣はこのワシがアーチェに付けたーーーーーーー封印素体なんじゃからな」
















激しい稲妻が対象を貫く。

そうなるーーーーはずだった。





「…何…よ、それ…」




高出力の魔力を秘めた稲妻が、まるで紙切れのように簡単に四散されてしまった。



ーーーその事実だけでも、驚愕に満ち足りた光景になるはずだった。




しかし、それ以上にバルティナにとって、その瞳に映る光景が、まるで夢でも見ているかのように、信じれないものであったのだ……。










バサッ……バサッ、と背中から生えたーーー紅の翼。


赤い髪が靡き、その両手には互いの同系統の剣が握り締められている。



また魔女という姿は変質し、戦士のような紅の装甲によって飾られたその姿はまるでーーーーー戦乙女のような容姿をしていた。








そして、アーチェはーーーーーーいや、彼女は告げる。








「《ーーーー私は生きる者と死ぬ者を定める者。ーーーー貴女はどちらを望む者か?》」








黒き獣が倒れた事によってーー封印されていた者が解き放たれた。


その存在は、アーチェという名ではない。




その者の名はーーーー『戦乙女ワルキューレ』






その時。


人間、魔法使い、バケモノをも超える存在が、バルティナの目の前に君臨してしまった……瞬間でもあった…




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