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◆料理が壊滅的だった



神宿がアーチェの弟子となり、早数日が過ぎた。

異世界に来て早々に魔法使いの弟子となった事もあって、色々とアタフタする事もある。

だが、


「はぁーーーー」


魔法使いことアーチェと食事を取る夕食のリビングにて、神宿は大きなため息を吐きながら目の前に座る彼女に対して言葉を告げる。



「お前、もう飯作るな」



その瞬間。

ガーン!! と音が鳴ったかのように、アーチェは口をあんぐり開け衝撃が走ったかのような表情を見せる。

だがしかし、これには理由があるわけであり、


「えー、えーっと。トオルくん? な、何でかな〜?」

「いやいや、当然だろ。ってか、アンタも薄々気づいてると思うけど、アンターーーー飯作るの下手すぎなんだよ」


ガガーーンッ!? と更に驚愕の表情を見せるアーチェ。

とはいえ、その言葉通り。

アーチェが作る料理はどれもこれもが壊滅的なほどに不味かったのだ。


「どうしてそんな酷いこと言うのっ!?」

「…………」


神宿自身。アーチェの弟子となり、この森の中に立つ木造建築の一軒家に住まわせてもらっている分、本心ではそんな言葉など口にはしたくなかった。

また、家事やら魔法やらと色々させてもらってるため、これでもかなりと我慢してきたつもりだった。

ーーーーとはいえ、


「へ、下手じゃないよ! 気のせいだよ!!」

「いや、壊滅的にアウトだから」

「ぅっ!? ……い、いや、でも」

「この前、塩と砂糖間違えただろ。後、その前だって調味料とかいってわけわからん変な粉入れて料理爆発させてたし」

「…………」

「それに、そのその前だって」


ものには限度がある。

神宿は、これでもかと溜まりまくった不満を言い続け、その一方でアーチェはダラダラ汗を流し流しながらそれを黙って聞いていた。

ーーーーだが、それも長くは続かず、その数分後。


「っ!!」


プチン! と、ついには涙目のアーチェがキレた。


「トオルくんの意地悪っ!! どうしてそんなにまでして私をいじめるの!? まだあの時の毒を飲ませたこと怒ってるの!?」

「当たり前だろうが!! ってか、それ以前にアンタはもう料理作るの諦めろって言ってんだよ!! こっちは毎食ロシアンルーレットみたいにヤバい料理が出ないかと思って、ビクビクしながら食事してんだよ!! こっちの俺の身にもなれよ!?」


共に意見をぶつけ合い、両者一歩も引かない神宿とアーチェ。

そうして、その場に両者荒い息が吐き出される中で先に眉間にシワをよせたアーチェがある一つの勝負を持ち掛ける。


「そ、それだったら私とトオルくんで料理対決をしましょう! それでどっちの料理が上手いかで今後の料理当番決める! これでどう!」

「ああ、いいぜ! ってかもう殆ど勝ちは決まってるけどな!」


こうして、何ともくだらない師弟同士の料理対決の幕が切って落とされるのであった。







そして、数時間後。


「で、これはどういう事なんだ?」


神宿たちは今、森の一角。

モンスターたちがよく立ち寄るであろう森の川沿いにて、二人揃って茂みの影に隠れながら、あるものを覗き込んでいた。


ーーーーそれは、地面にポツンと置かれた二つの皿。

その皿の上には、神宿とアーチェが作った料理の品がそれぞれ二つに分けられ、


「いやだから、モンスターたちに実食してもらって」

「いやいや、何でそこでモンスターが出てくるんだよ? 普通は人だろ?」

「っ……。そ、それはあれだよ!? ほら、モンスターって危険察知とか上手だし」


神宿の指摘に対して、隣で座るアーチェがそんな誤魔化し方をする。

だが、そこで神宿はふとある事に気づき、


「あ、そっか。アンタ、友人とかいないから」

「トオルく〜ん? それ以上言うと、二度と口が開けない魔法掛けちゃうよ〜?」


等と、無毛な争いを繰り広げていた師弟たち。

だが、そんな最中に、



『ガルルゥウ!』



一体のライオンのような姿をしたモンスターが、ノソノソとやって来た。

そして、モンスターが鼻をスンスンと鳴らしながら周囲を見渡し、そこで何とも怪しげな二つの皿に目をつけた。


「(ふふふっ、トオルくんに私の実力を見せてあげるんだから!)」

「(……何かアンタが言うと、本当に別の意味に聞こえてくるんだけど。いや、本当に)」


二人がひっそりと声のトーンを下げる中、モンスターは鼻をひくつかせながら警戒した様子で皿へと近づく。

そして、初めに興味を示したのは神宿の作った料理だったが、


「お、食べるか?」


フイっと、モンスターは顔をそらして、


「え?」


モンスターは次にアーチェの作った料理の方へと進み、そのまま躊躇することなく、その料理を食べ始めたのである。

これには神宿も驚愕の表情を浮かべ、


「う、うそだろ……」

「よっし! ほら、トオルくん見た? 私の料理の方が美味しいみたいだね? ふふっ!」


完全に勝ち誇った笑みを浮かべる彼女に神宿は心底カチンとくる。

だが、これも勝負は勝負。

これまで通り、料理はアーチェに作ってもらうしかない、と神宿は大きな溜め息を漏らした。

ーーーーそんな時だった。




『グニャん!?!?』




森の川沿い。

さっきまでいたモンスターの方から変な鳴き声が聞こえてきた。

神宿とアーチェは互いに顔を見合わせながら、視線をモンスターがいた所へと向けると、そこにはーー




『ガァ、ガァ、ブァブァ……』




それは見事なまでに、イナバウワー的な格好をしながら失神したモンスターの姿があった。

後、口からもれなく泡までふいていた……。


「「…………」」


目の当たりにした光景に言葉をなくし両者。

だが、神宿はホッと息を漏らしながら、くるりとアーチェに笑顔を向け、



「というわけで。今後、俺が料理を作るってことで……それでいいよな?」

「……はーぃ」



かくして、被害者モンスター一名が出るも、料理当番を勝ち取った神宿に対し、アーチェは子供のように拗ねた様子で頬を膨らませるのであった。



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